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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

ウォータースライドをのぼれ

ウォータースライドをのぼれ
【創元推理文庫】
ドン・ウィンズロウ
定価1029円(税込)
2005/7
ISBN-4488288049


  浅井 博美
  評価:B
 上質のエンターテイメントである。初めてアメリカ映画の冒険活劇をみたときのような、純粋なワクワクドキドキ感で一杯に満たされた。
TV番組の名物司会者のレイプ疑惑が持ち上がり、様々な人間と様々な団体の様々な思惑が交差した中で、レイプ被害者であるポリーを、とんでもないなまりと語彙から救い出し、洗練された話し方の出来る女性へと仕立て上げ、裁判で完璧な証言を出来るようにさせろという命が下った。その名を受けたニールと恋人カレンが巻き込まれていく様々な事件の顛末…。
女性が読んだら、特におもしろいこと請け合いだ。「金髪ボインのお姉ちゃんが何をするわけでもなくうろうろしている」というハリウッド映画に時折見受けられるお飾り無能な女性は一人も出てこない。全員が自分の強い意志で行動していて、無茶なことも満載だが、それが非常に人間らしくもあり、何とも良いのである。読後は気持ちの良い、少々好戦的な爽快感で、アドレナリンが上昇してしまった。

  北嶋 美由紀
  評価:C
 ニール・ケアリー・シリーズの第四長編で、前作までは悲劇的内容だったが、本書はコミカルなのだそうだ。一作も読んでないので、比較もできないが、確かに本書はドタバタ・コメディータッチである。
 人気TV番組ホストで有名なジャックが、少々オツムが軽めと思われる(本当にそうなのか?)ポリーをレイプしたという事件が発端で、被害者ポリーをめぐり様々な立場の人間の企みが交錯して攻守入り乱れる。銀行の下部組織の雇われ探偵ニールはポリーの身柄を守り、裁判できちんと証言できるようにするのが今回の任務である。目的の違う探偵がニールの義父も含めて4人も登場し、細切れに読んでいると関連がわからなくなりそうだ。何やら構築的考察をめぐらす殺し屋、アル中の探偵、やたら懺悔するマフィアの一員etc.ーどことなく憎めない悪党共と、学者風で静かなニール、登場人物達はおもしろいのだが、まとまりがない感じだ。そしてそのまま「サムライのためのすべり台」という訳のわからないウォータースライダーが舞台のラストへ。正に滑り落ちる感じで終結。軽いタッチのおもしろさはあったが、内容は本当におもしろかったのか……ちょっと疑問。シリーズを読んでいる人にはまた別の良さがあると思うが。

  久保田 泉
  評価:E
 主人公は私立探偵の二ール・ケアリー。物語は80年代のアメリカ。ニールは、探偵で義理の父ジョー・グレアムに、探偵術を伝授されながら育てられた。同居する恋人のカレンはグレアムと気のあう舅のように付き合っているが、ニールには厄介を運んでくる元凶だ。今回グレアムがニールにもってきた仕事は、ある女の英語教師。謎の生徒は、人気TVホストのジャック・ランディスのレイプ疑惑事件の被害者ポリーで、裁判までに証言できるような品のいい英語を身につけさせなければならない。
 ランディス夫妻にへんてこな探偵や、殺し屋にマフィアまで出てくるドタバタ劇に、実に下品な会話がふりかけられたストーリーを読むのは、忍耐のいる今月の苦行度NO.1であった。最も忍耐を要したのは、下品というよりは、珍妙にして意味不明なポリーのセリフ。文法も発音もめちゃくちゃという設定だが、この日本語(なのか?)の原文は想像もつかない。貧相すぎる食事シーンや唐突に現れる日本人ムサシ・ワタナベに至っては泣きたくなってきた。

  林 あゆ美
  評価:AAA+
 可能なかぎり、これはシリーズ最初から読むことをオススメする。その方がぜったい楽しめる。それに、もしいまから読むとすれば、何年も続編を待たずしていっきに4巻まで楽しめるのだ。これは幸福といっていい。実は私も今回はじめてシリーズ1作目から、この4作目までを読んだひとり。だから、いまその幸福にひたっている。
 主人公ニール・ケアリーは、ストリート・チルドレンだったときに、グレアムという探偵に目をかけられ、探偵術を教わる。そしてその探偵術は、グレアムが雇われている銀行の〈朋友会〉でいかんなく発揮する。グレアムとニールは義理の親子ほどの強い結びつきをもち、厳しい〈朋友会〉の仕事をこなした。少年だったニールも成長し、いまは愛しい恋人カレンと生活している。しかし、平穏な日々はコーヒーのにおいを嗅いでしまった、ただそのことで追いやられてしまった。グレアムはいつものようにニールに、おまえでも務まるくらい簡単な仕事だとポンとなげてよこし、ニールはそれを受け取らざるを得ないのだ。ニールの成長小説ともいえるこの物語は4作目が一応の最終話らしい。378ページのグレアムのセリフは素敵すぎて、そこだけ何度も読み返してしまった。
 さて、これから5作目をまつ読者の列に並びます。

  手島 洋
  評価:D
 採点員をやらせていただくようになって約半年。この間にわかったことのひとつが、この手の作品が生理的に駄目という事実だ。
 養父から探偵としての仕事をむりやり押し付けられつつも、裕福な暮らしをして、すてきな恋人のいる主人公ニール。積極的に仕事をやろうという気持ちはほとんどないのに、うまく仕事をこなしてしまう。
 こういう主人公のどこに感情移入して読めばいいのか。元タイピスト、ポリー・バジェットを中心に起きる騒動はアメリカでおこった数々の有名人がらみの裁判を思い起こさせられて、げんなり。彼女の変な英語は、いかにも「東江さん」の翻訳という言葉遣いで、とても面白いけど、アメリカの小説を読んでいる気がしないでもない……。
 脇役のマフィアや探偵たちが変なやつらぞろいなのが、読んでいて唯一の救いだった。個人的にはもっとウイザーズに活躍してもらいたかった。
 このシリーズの過去の作品では主人公ニールがもっと苦悩している、ということらしいので、そっちだったらもう少し感情移入できたのかもしれないが。

  山田 絵理
  評価:D
 どんなに複雑なミステリーでも、分かりやすく書かれていればそれなりに楽しめるのだが、この作品はなんだかよくわからなかった。登場人物が多くてにぎやかで、様々な思惑が動いていて、どれがなんだか……。私の頭ではついていけなかった。前作を読んでいないからかもしれない。
 つかのまの平穏な日々を送る探偵ニールに新たな仕事の依頼が来た。それはレイプされたと訴えるポリーにまともな英語を教えること。この事件はテレビ製作会社の利権争いにまで発展し、彼女は重要な証人として、法廷で証言する必要があったのだ。
 このポリー、“色気偏向型情婦”の動く見本といったいでたちで、口を開けば文法も発音もめちゃくちゃな英語をしゃべる。「ねっ、あちし、トイレ行きてー。おしょんしょん、ちびりそ」。こんな感じだ。そして英語の特訓の成果を披露する場面は、「マイ・フェア・レディー」のイライザとヒギンズ教授よろしくの素敵なパロディーとなっていて、これが一番おもしろかった。

  吉田 崇
  評価:C
 うーん、ごめんなさい、まったくいつもながらの不勉強、この本シリーズ4作目という事なのですが、他のを読んでないので、多分まったく見当はずれな事を書くのだと思います。「何だよ、コメディかよ」と読み始め、「けっ、めでたしめでたし」と読み終わり、(あ、ちなみにコメディは好きですし、基本的にハッピーエンドの方が良いと考えてはいるのですが、ここは雰囲気を出す為に敢えて悪ぶってみました)、そして解説を読んでびっくり、前3作がシリアス路線なくせに、何故か本書はドタバタなのだというのです。つまり、このまま書評を書くっていう事は、プロボクサー時代の無い芸能人としてのガッツ石松を想像するのと同じような物で、あり得ない、あってはならない物なのです。とりあえず、読みたい本リストには書き込みましたが、この書評の為には間に合わない。ああ、どうしようと、言ってる間に丁度時間となりました。
個人的にはハロルドが好き。ドタバタの中にいるこういう真面目キャラクターって味わい深いです、はい。

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