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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

愚か者の祈り

愚か者の祈り
【創元推理文庫】
ヒラリー・ウォー
定価882円(税込)
2005/6
ISBN-4488152066


  北嶋 美由紀
  評価:B
 まず第一のおもしろさは50年以上前の作品だということだ。今や一般ド素人でも科学捜査の方法を知っているが、この頃は「復顔」を警察関係者でさえよく知らなかったらしい。歯がゆい感もあるが、古風でよいところもたっぷりある。女性が顔を潰され殺害されるという、当時ではショッキングな事件が起こる。パトカーが女性達を家へ送り届け、女性の夜間外出はなくなり、舞台となる小さな町は大騒ぎ。まずは被害者の身元割り出しから捜査が始まる。真実のみを積み重ね、踏み固めてゆく昔気質の頑固刑事ダナハーと復顔や新しいことにチャレンジし、様々な可能性を推理する部下のマロイが中心となって、地味に、地道に一つの事件をコツコツ追ってゆく。
 ダナハーは有能だがルックスはいまいちでサル似。メモに絞首台の絵をいたずら書きする、性格的にも付き合いづらいところのある男。そのダナハーに何かと罵倒されつつも全幅の信頼を受けるマロイはけっこうマイペース。少しずつわかってゆく被害者の空白の五年間とともに、この二人の組み合わせが味わい深くなり、事件そのものより(事件はとってもシンプル)二人の描写の方がおもしろいかもしれない。少なくとも、やたらトラウマを背負った最近の刑事よりはストレートで痛快だ。
 一言で言えば、シンプルな傑作古典警察小説である。

  久保田 泉
  評価:C
 詩的な雰囲気のする題名に、帯の“顔と共に消された過去”というコピーはクラシカルながら、期待が持てる。アメリカはコネチカット州の小さな町で、顔を無残にも砕かれた若い女性の惨殺死体が見つかった。捜査を担当するのは、冷血漢と言われている、老練な警部ダナハーと、長身でハンサム、若く熱血漢の刑事マロイ。身元がなかなか判明しない自ら被害者の顔の復元をしたいと、ダナハーに直談判するマロイ。あれ?顔の復元なんて常識では?と思ったら、本著は1954年に発表された小説でした。なるほど。甦った女性の顔は美しい正真正銘の美人だった。被害者は、5年前に女優をめざして田舎から都会へ出てきたミルドレッド・ハリスという女性。犯人にたどりつくためには、故郷と音信を断っていた空白の5年に何があったのか?ダナハーとマロイの捜査が続く。演出風に言えば、抑揚を抑えたテンポと言うのだろうか。過去の謎解き、犯人ともに地味で物語にのめりこむほどは楽しめなかった。


  林 あゆ美
  評価:B
 テンポの早い小説を読み慣れていると、『愚か者の祈り』の時間がゆっくり流れているのにとまどってしまうかもしれない。1954年に発表された本書は、じっくりじっくり事件に近づくので、あせって読まないのが吉。
 顔を砕かれた若い女性の死体が発見されたが、なかなか身元がわからない。頭蓋骨をもとに復元した生前の容貌が明らかになり、ようやく身内がみつかる。しかし、被害者は家族の元を離れてから5年もたっており、その5年の空白を知るものがすぐには出てこない。誰が犯人なのか――。
 遅々としてすすまない捜査状況に思えた。正直、2/3までは楽しめなかったのだが、捜査に変化があらわれた時、私もまた物語にぐっとひきこまれ、最初を読み返した。推理ではなく証拠だと部下にハッパをかけ、しかしながら最後はその推理に証拠が追いついていくじわじわ感がよかった。追いつき具合も人を説得するカギなのだ。

  手島 洋
  評価:A
 1954年に書かれたミステリー。コネティカットの小さな町の公園で発見された女性の惨殺死体。その女性とは何者なのか、犯人は誰なのかをじっくりと描ききっている。無理に意外な展開を作ることもなく、話は淡々と進んでいるようでありながら、決して読者をあきさせない。無意味な場面転換や事件で読者の興味をつなごうとする、最近の小説には辟易するところもあったので、こういう本は実に嬉しい。そして、事件を追う2人の刑事のやりとりの面白さもこの作品の魅力だ。口が悪いが一流の刑事、ダナハー警部。若さがからまわりすることもあるが熱意にあふれたマロイ刑事。最初はダナハーに言いたい放題いわれているマロイが、少しずつ逆襲して、マロイを困らせる会話がユーモラスなのだ。ダナハーが若い才能を認めているのも、マロイがダナハーの刑事としての実力と人柄に信頼を寄せているのも自然と伝わってくる。事件そのものは悲惨なものだし、話もシリアスに進んでいくのに、作者の人を描く力で最後まで読まされてしまうのだ。
 ミステリーに限らず、アメリカの50年代文化に関心のあるかたにはお勧めの作品です。

  吉田 崇
  評価:C
 最近ものすごく実感しているのですが、どうやら僕はミステリとは相性が悪いらしく、ですからきっと、その関係の方々には知らず知らずに大変失礼な物言いをしてしまうだろうと、頭を低くしつつ書くのだが、本作品、警察小説の巨匠の初期傑作とのことで(背表紙は今読んでます)、そいつはすげぇや、と読んだ内容を思い出していくと、鬼軍曹と新米兵士のしごきしごかれシーンくらいしか頭になく、それはつまりこの場合、ダナハーとマロイの事なのだが、つまらなくはないが面白くはないかなと、それが読後感。
このての書き方をするのなら、いっそノンフィクションにしちゃえばいいのか? それよりいっそ、警察関係者の一人称にして、視点をたった一つに絞ると、あれ、それじゃただのハードボイルドなのか? っていうか、警察小説って、一体何? 推理小説と(そんな物があるとして)捜査小説って何が違うの?
という事の答えが解説に書いてあって、とすれば最近のミステリはこういう事を踏み台にもっと高みに飛んでる訳で、道理でやたらと分厚くなる訳だ、と一人合点。

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