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アメリカ新進作家傑作選 2004
アメリカ新進作家傑作選 2004
ジョン・ケイシー (著)
【DHC】
定価2625円(税込)
2005/7
ISBN-4887244002
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  安藤 梢
  評価:B
 アメリカ文学のおいしいとこ取りをしたような贅沢な短編集。普段、外国文学はあまり読まない(かくいう私もその一人だが)という人にはうってつけの本である。短編小説ならではの無駄を省いたシンプルさが読みやすい。アメリカ独特のユーモアな文章も、長編だと押付けがましく感じるところだが、軽いノリで楽しめる。それぞれの作家によって全く違う味わいを出しているところも面白い。
 「目に見えるもの」は、三重苦の少女が主人公の話。音も光もない閉ざされたところから、少女の感覚だけで再構成される世界の描写が実に巧い。読んでいて、真っ暗な世界に放り込まれたような心細さを感じる。嫉妬にかられて、他人の耳に人差し指を突っ込むなど、静かな世界に渦巻く激しい感情が衝撃的だった。目が見えないということは、人から見られる自分を意識できないという恐怖である、ということにも気付かされた。

 
  磯部 智子
  評価:B-
 アメリカで注目の新人作家ばかり17人の作品集。但し日本の新人作家が出版社の公募等から生まれるのに対し、大学などの創作ワークショップから推薦を受けた中から絞り込まれ、更に一人の編者(作家)によって最終選考されたものである。つまり教室でさんざん石膏デッサンを描き技術的に問題が無いと認められたのち、自由に静物画なり何なりを描いた習作の入選発表会のようなものだと解釈する。さてその内容だが、表現力を十分に蓄えた作家達の、其々の思いで切り取られた情景が丹念に描写されているが、取り立てて大きな事件が起こるわけではなく、焦点を見失ったまま読み終えた作品も多く巻末の解説に大いに助けられた。青田読みというのは、読み手の能力を問われるものだと痛感し、また翻訳小説を読むということがイメージの交換であり、それを喚起さす表現より写実的な描写が多い場合、なかなか共感に至る壁が厚いということも感じた。2000年から始まったこのアンソロジーから成功を収める作家が何人も出ているらしいので、いつかこの本を引っ張り出して、成功の萌芽はこんなところにあったと訳知り顔で言えることを期待したい。

 
  小嶋 新一
  評価:D
 アメリカでは新たな作家の発掘に、短大や大学の創作講座やワークショップが果たすウェートが非常に高いそう。本作品は、ワークショップを通して募集された作家の卵たちの作品から優秀作を選んだ作品集で、毎年編まれているシリーズの04年版。
 17編の短編が収められるが、自分の理解力と感性の乏しさをあからさまにすることを恥じずに白状すれば、これらの大半が僕にとってはきわめて退屈であった。必要以上にエキセントリックな登場人物たち。ぽか〜んと僕を取り残していく唐突で微妙なオチ。感情を抑え淡々と描写を積み重ねていく書きっぷりは、読者におもねることもない。ずらりと同じタイプの作品が並ぶのは、編者の趣味だという。
 最後に、数少ない気に入った作品をあげておく。ハワイでのバカンス中、夫への複雑な感情が、生命の危機を二人で乗り切ったあとに一変する「ヴィネガー」。両親の確執、性へ目覚めと戸惑いにさらされた少女が、両親の寄り添う姿に涙する「ダンス・レッスン」。ハハハ!僕が気に入ったのは、わかりやすいハッピーエンドものなんだ。

 
  三枝 貴代
  評価:B
 まだあまり有名でない作家の短篇を集めた傑作集です。純文学系ですが、日本の純文学よりも主人公の職業が幅広いように思えます。試合でクラッシュしたプロアイスホッケー選手(しかもマイナーリーグ)とか、犯人の住居に突入する保安官代理などの設定は、エンタメならばともかく、日本の純文学ではあまり扱われていないように思われます。米国らしく、移民文学として、今回はインドの話が2つ含まれているところも面白いです。日本の純文学に多いフリーターの話はあるものの、作家が主人公である話がないことにもほっとします。日本の小説には、作家の話が多すぎますから。(私小説の伝統のせいでしょうか。)
 どの作品も、しっかりと目を見開いてあらゆるものを記録しようとしているかのような、張りつめた緊張感があります。言葉と真正面から四つに組んでいる真剣さは、一読の価値があると思います。

 
  寺岡 理帆
  評価:B
 アメリカの創作講座を経たさまざまな新人作家の作品を集めた短編集。バラエティ豊かな作品群、というよりはわりと純文学っぽい作品が揃っている。ちょっと意味の取れない作品も正直混ざっていたのだけれど、どれも読み応えはあった。日常の生活のなかの繊細な心の動き、青春の時期の残酷さ、誰にでも訪れそうな人生の悲哀、そういったものを細やかに描く作品が多い。
 ただ、読むのにかなり時間がかかったにも関わらず、「小説を読んだ」という満足感は少し低め。巻末の解説にあるように、「青田買い」として読んで、今後この中から大活躍する作家が出てくることを期待するのが楽しい読み方かな、と思った。

 
  福山 亜希
  評価:B
 既に名をなした作家達が、次代を担う作家のこどもたち育てるためのワークショップの場がアメリカにはあるということがまず、新鮮な驚きだった。「アメリカ新進作家傑作選2004」は、このワークショップによって頭角をあらわした作家の卵たちの短編集だ。第二次大戦後からこのワークショップは続いているそうだが、ワークショップに対する講師の名作家たちの注力度合いはどんなものなのだろうか。「技は見て盗む」というのが伝統の日本の風土ではなかなか実現しない方法だと思うが、とてもユニークで面白い企画だと思う。
実際、この短編は面白い小説が多かった。ただし、前書きには、「その土地のことを良く知りたければその土地の人間の書いた小説を読むべし」とあったが、アメリカという国は、思ったよりもこじんまりとした人々の国なのかなと感じた。もっと大雑把で大胆なイメージだったが、各短編は描写も細かく、そういう点でアメリカのイメージが大きく変わった本となった。


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