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LOVE
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【祥伝社】
古川日出男
定価1680円(税込)
2005/9
ISBN-4396632533
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  清水 裕美子
  評価:C
 東京のスケッチ。
 目黒、品川、白金・・・その地面と淀んだ川、草むらと猫。都市の中で生きる「きみ」。
「きみ」と呼びかけられる登場人物は細っこい手足を持って動き出す。
 主に句読点と名詞と動詞で出来ている。「でも、でも、だ。」「愛。愛。愛。」そんな短い文章と会話がドンドン重ねられ、出来上がるのがお洒落なワードなのか哲学的なセンテンスなのか、私にはよく分からない。
 何だか作者の一人チャットを眺めている気分。そう句読点ごとにちょうどチャット1センテンスの長さなのだ。
 困った。受け入れる感受性が不足しているのか、東京のはずがどこか遠い世界へ追いやられてしまう。ストーリーの展開は唐突に揺れ動き、ものすごくクラクラする。
 後記に登場人物20人の現況が示されている。やっと固い地面を見つけた気分。
 読後感:きみ達の姿をやまだないとで見たい

 
  島田 美里
  評価:B
 シナリオのト書きを読んでいるようだ。カメラ(著者)の視線が目まぐるしく動く。といっても、実際のト書きのように無味乾燥ではない。そこに織り込まれたセリフや心の呟きは、何だかとても詩的である。
 この小説の舞台は東京。その一部の地域を、まるでケーキのように切り取って差し出された気分だ。「前作に対する猫的アンサー」というだけあって、人間と猫の存在感がフィフティーフィフティー。この辺りに生息する生きもの(人間も猫も)の鼓動が一斉に聴こえてくる。高速道路の裏側でギター片手に歌いまくる自称ミュージシャンや、地域に生息する猫を数えて競い合っている少年とおばさんなど、やたらと多い登場人物が東京の密度を感じさせる。メッセージが電波のように飛び交っているから、アンテナをピュッと伸ばすと必ず誰かの言葉がひっかかる。「人生はヘンテコなの、だから、それがリアリズム」というセリフが、読後の感想に近かった。今度はラジオのチューニングを変えるように気分を変えて再読してみたい。きっとまた別の言葉がキャッチできそうである。

 
  松本 かおり
  評価:D
 後記で「ここには秋から冬、春、夏までの十ヶ月間の東京をスケッチした」という著者。その意図はわからないでもない。しかし……私の頭が固く古く、また回転が鈍いのか、登場人物のヤタラな多さと場面転換の唐突さ、話の飛躍の激しさに、最後までまったくついていけず惨敗。残念ながら理解不能の怪作。あまりにローカルな駅名、地名が頻出するのも、東京人や東京ファンには魅力だろうが、東京に興味がない人間にとっては苦痛。
「二十三区の小学生よ、団結せよ」と宣言する女子や自分の赤子を置き去りにする女、猫チェックするオバサン、公園で「本日の食材で、贖罪のための料理」をする男など、はっきり言って、おかしな連中ゾロゾロだ。「人生はヘンテコなの、だから、それがリアリズムなのよ」。なるほど。意味だの理由だの辻褄だの細かいことを考えず感覚勝負、妖しげな大都市の雰囲気にただ浸って流される、それが本作に最適の楽しみかた、とみた。

 
  佐久間 素子
  評価:D
 恥を忍んでいうが、楽しめなかった。古川日出男わかりませんて、ちょっとまずいような気がするなあ。ちなみに「gift」もダメだった。長編はおもしろいと思うんだけど。老化現象? 30代にして老化なのか?! さて、著者いわく「巨大な短編」である。さまざまなできごとがおこり、さまざまな人と猫が交錯するのだけれど、深入りすることなく、時間軸だけが確実に前を向かって進んでいく。群像劇というには、関係性が淡い。いや、つながりかたはある程度読みすすめば、文法としてみえてくるのだけれど、結局のところ無作為な感じ。計算された無作為は神の視点に近く、はるか彼方の遠いところから見たらつながっている、そのかすかさが都会そのものだ。この雑多な広がりをLOVEと名付けるのは、存分に正しいし、洗練されているとは思うのだけれどねえ。クールとバッドの境界線は微妙だからな。わたしはちょっと気恥ずかしかったです。

 
  新冨 麻衣子
  評価:B
 品川、白金、目黒、五反田を舞台にした、著者いわく「巨大な短編集」。主役は二十人、そして猫たち。すれ違う、出会う、見つける。そして事件は起こる。もしくは起こらない。ばらばらのピースが時折奇跡的にピタリとハマる。もしくはハマらない。
 古川日出男の魅力は細かなピースの組み立て方だと思う。『ベルカ、吠えないのか?』や『サウンドトラック』はたったひとつのピースが無数のピースに広がっていくのに対して、この作品は最初からばらばらのピースが詰め込まれている。どれだけ整理しても、完成するパズルの一部分しか見ることは出来ない。
 ただこの作品ではじめて古川日出男を読む、という人にとっては辛いかもしれない。のめり込みそうになるとスパっと切られるかんじが断続的に続くせいか、読んでると歯がゆさも感じるし。でもそれぞれのエピソードは短いながらも印象的で、味わい深い。都バスをこよなく愛する小学生・トバスコと、さすらいのシェフ・丹下のエピソードがとくに好き。


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