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その日のまえに
その日のまえに
【文藝春秋】
重松清
定価1500円(税込)
2005/8
ISBN-4163242104
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  清水 裕美子
  評価:C
 その日とは死が訪れる日。誰にでも等しくその日がやって来ると分かっていても、現実として受け入れることはまた別だ。
 夫を突然亡くした高校教師が教え子と出会う一話をのぞき、余命宣告された人々とその家族の物語だ。連作の形を取った妻の「その日」前後の物語の中に他の登場人物のその後が現れる。人物造詣が丁寧で血肉の通った人となりが感じられる。
 涙が止まらないというPRだったが私は泣かなかった。なぜだろうか。ずっと家族や親しい人の死を迎えていないからかもしれない。
 代わりにこの物語が心に深く沈み、描かれた感情を心の中に刻んだようだ。数日後それはふいに現れた。意外にも綾小路きみまろのCDを聞いていて。軽快な毒舌漫談で両親の死について冗談が出る。聴衆の明るい笑い声。泣きそうになってしまった。この笑いの中に「その日」が沢山あることに気づいて。「泣き」で解放するか「笑う」か。いつか必要になる本かもしれない。
 読後感:ハンドタオルが無駄に

 
  島田 美里
  評価:A
 愛する人の死を受け入れるのは難しい。子供の頃、祖母が不治の病にかかったと知ってショックを受けたことをふと思い出した。祖母が植えた庭の草花を、ただ呆然と眺めていたのを覚えている。
 平穏な日常に突然やってくる死とどう向き合うべきか、どっぷり考え込んでしまう連作短編集だ。40代の若さで病魔に冒され、死に近づく妻。その妻を支える夫が、涙をこらえながら二人の息子にも気を配っている姿はとてもせつない。著者の作品にはよくホロリとさせられるが、今回は胸の深いところから涙がにじみ出してくるようで苦しかった。悲しみのどん底は、亡くなる「その日」だけではないことがよくわかる。残された家族が愛する人の死を受け入れることは、深い海に潜って、海の底でさめざめと泣き、またゆっくり浮上していくようなことなのだと思う。改めて日常と死との間にある落とし穴のようなすき間に気づかされた。いつかそのすき間に落ちた時はこの本を読みたい。きっとはい上がれる力を授けてくれるはずだ。

 
  松本 かおり
  評価:B
 「素直に。静かに。感情の高ぶらない悲しさって、ある。初めて知った。涙が、頬ではなく、胸の内側を伝い落ちる」「あとになってから気づく。あとにならなければわからないことが、たくさんある」……。重松節全開の短編集だ。あえて身も蓋もない表現をすれば、<おなじみの泣かせモノ>といえなくもない。今、流行の韓流ドラマではないが、たとえば、愛するひとが不治の病に、とくれば、それだけで涙腺を破壊するには十分だろう。
 しかし、だからどうした、いいのだ、それでも。大切な、かけがえのないひとの死は、どういうかたちであれ、誰にも必ず起こる。そんな死の風景を、重松氏は、過去・現在・未来という時の流れのなかで、飾ることなく淡々と描き出す。読み手の心にそっと分け入り、押し隠してきた痛みや忘れようとしてきた淋しさを呼び起こす。登場人物たちに深い共感を覚えると同時に、<ひと>というものの愛おしさがじわりとしみる1冊。

 
  佐久間 素子
  評価:A
 真正面から、誰にでもわかる言葉で、死について語られた連作短編集。シンプルで普遍的。表題作を中心とした連作では、死を前にして苦しみ、死してなお苦しむ、その逐一が、声高になるでもなく語られて、苦しみの先の景色までのぞかせてくれる。一人でしか死ねないのに、一人では生きられないから、つながるしかなくて、つながってしまうから苦しいのだ。でも、私たちは苦しむためにつながってるわけじゃない。そんな当たり前のことを、当たり前みたいに書いて、心の深いところにまで届けてしまうのが、著者の才能だろう。読者を泣かせようという嫌らしさは全く感じない。私たちが流してしまう涙は、その量や質がたとえ何万分の一であったとしても、友達や親や子どもを亡くしたと同じ種類のものだ。この本が、泣ける泣けると、そんな言葉で一くくりにされて、マーケットにのせられることがないといいのにと思う。

 
  延命 ゆり子
  評価:C
 重松清の短編集。テーマは死。若くして(30代40代)死ぬことを告知される人とその家族の葛藤を描く。死のやりきれなさ、悔しさ、悲しみをあのやわらかい視点で優しく描かれたら・・・・・・・。
 それ聞くだけで、もーヤバい。クル。案の定号泣。それぞれの短編できっちり落としてくれます。もう泣きすぎて頭が痛いよ・・・・。読む場所には注意!
 しかし。言うならば意外性はない。重松清なら泣けて当然。そう思う自分がいる。勝手にハードル高くしてしまって申し訳ないのだが、こう来たらそりゃ泣くわな・・・という展開で、面白味(?)がないのだ。
 勿論良い小説で、死! 家族! 思いやり! 言うことなしの作品。この小説を評価する人は沢山いるだろう。しかし私にはこの世界が少々食傷気味だった。泣くポイントを少し減らしたらどうかな。涙が少し安っぽく思えた。

 
  新冨 麻衣子
  評価:A
 重松清、しかもテーマは<死>って…イチローの得意なコースに投げてるようなもんだよねぇ? あざとさの1cm手前で読者を泣かせるテクを持ってるピッチャーが投げてくるストレートは、ちょっと覚悟を持って挑まなければならない。
 残された時間を知らされた妻との思い出めぐりの一日を描いた表題作からはじまる三部作ももいいが、個人的にいちばん好きだったのは最初に収録された「ひこうき雲」だ。小学生という年齢の、<死>への距離感が痛いほどリアルに描かれてる。無自覚な残酷さがわかるだけに痛い。
 泣けると評判の本作だが、『卒業』のほうが直球度が高くて泣けるだろう。だけど誰もがそばを通り過ぎたことあるであろう、そしていつかは直面するであろう「死」にまつわるこの短編集は普段は忘れてるいろいろなことを思い出させて、切なくなるのだ。

 
  細野 淳
  評価:A
 本の帯には「涙!涙!!涙!!!」の文字が。最近、やたらと感動を美化するような文句が多いので、読む前は本に対する期待はほとんどせず。…でも、読み進めていくうちに本当に涙ぐんでしまった。小説を読んでこのような気持ちになったのは、ずいぶん久しぶりのことだ。
 多分、変に飾った言葉や文体などを用いず、「死」というものに対して率直に向き合ってゆく主人公たちの姿勢が良かったのだろう。そして、その「死」をいつまでも自身の中に抱え込んでいくわけにはいかず、現実世界への歩みを一歩一歩進めてしまうことのできる人間の逞しさと悲しさ…。最後の話で、妻が夫に託した手紙の一文は、胸に突き刺さるものがある。
 本の構成は、前半の三つの話がそれぞれ独立した短編で、後半の三つが一つのまとまった話になっている。ただ、後半の話では、前半の登場人物が出てきたりするので、順番に読んでいくことがお勧め。


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