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2005年のロケットボーイズ
2005年のロケットボーイズ
【双葉社】
五十嵐貴久
定価1680円(税込)
2005/8
ISBN-4575235318
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  清水 裕美子
  評価:B
 ドップリ正しき「童貞小説」。モヤモヤ感と卑屈さと妄想が詰まった青春物語だ。
 工業高校で居場所を見つけられない主人公カジシン。現役アイドルで出席日数不足の友香先輩(元ヤン!)と十センチ角の衛星を設計することになったが、胸を触わっていいとの交換条件で(妄想度高し)一人で設計するハメに。この設計を尊大な自称天才の同級生に頼むとコンテストで入賞し・・・という導入。
 実際に衛星を作る仲間として濃いキャラが活躍する。引きこもりの父・町工場の匠の祖父も参加。紆余曲折の末、青春物語らしい結末まで走るのだが、文系読者も大丈夫なのでご安心を。なんたって設計に関する専門知識はブラックボックスの中。具体的にはダンボールで囲ったパソコン部屋の中で引きこもりの天才が作ってしまうので。
 衛星を作ることで主人公に劇的な変化は無い。「おれがいるのは同じ場所だけど、スタンスを変えたらちょっぴり違う風景が見えた」そんな感じ。青春仲間ものに弱いので★1個追加。
 読後感:理系に進んだ青春を妄想

 
  島田 美里
  評価:B
 強引に言い切ってしまうが、高校生が青春を賭けるものといえば、野球好きなら甲子園。雑学王なら高校生クイズだろう。情熱がありあまっている年頃は、やっぱり燃焼系で過ごしたい。さて、この小説の肩書きは理系青春小説。理系の高校に通う若者を中心にしたグループが夢中になったのは、なんと超小型人工衛星!高校生というだけでもハードルが高い分野に、おちこぼれが挑戦するからこそ大きなロマンがある。バリバリの文系や引きこもり、協調性のないヤツや、体力しかとりえのないヤツがメンバーだけど、これが素晴らしいチームなのだ。どこかの国の首相の言葉じゃないけれど、まさに適材適所である。高校生が白球を追うのも、クイズの早押しボタンを連打するのもカッコいい。だけど、宇宙に挑戦するのもカッコいい。
 青春を賭けるアイテムとして、人工衛星を取り上げたのは大成功だと思う。なんてったって、人生の喜びや悲しみ、ほろ苦さが混在している地球を背にして宇宙へ飛び出すことができるのだ。いびつながらも輝いている若者たちに、それはとてもふさわしい。

 
  松本 かおり
  評価:A
 著者2作目の青春小説。前作『1985年の奇跡』もサイコーだったが、今回も期待どおり、キレのいい快作。なぜに五十嵐氏は、高校生、特に劣等生を描くのがこげにうまいのか! 個性的、の一言で片付けるにはあまりに強烈すぎるメンツ、際立ったキャラ造りは、活字なんかとっくに飛び越えて、まるで少年マンガの世界。連中が何かカマすたびに、そのシーンがありありと浮かぶ。もはや完全没入、読むのが楽しくてしょうがない。
 なかばなりゆきで、主人公「おれ」梶屋君が首を突っ込んだ超小型人工衛星・キューブサット設計コンテスト。メンバー集めに奔走、ケツ叩きに奮闘、連帯感も徐々に高まる、製作に賭けた夏。難問山積でもなんとかなるっ! 人生、何がどう化けるか、どっちに転ぶかわからないのだから。全編ビュンビュン突っ走る、嗚呼、青春の底力。「ぶっ」「ブブッ」っと吹き出してしまうツッコミ、ギャグ小ネタも、前作以上の美味ぶりで大満足。

 
  佐久間 素子
  評価:B
 簡単にいえば、おちこぼれの弱小野球部が、すったもんだしつつ甲子園で優勝するという類の話。彼らは理系なので、夢中になるのは野球じゃなくて人工衛星うちあげなんだけど。難題、個性的だが問題児の仲間たち、賢くてかわいい幼なじみ、優等生のライバル、手痛い失敗、さらなる難題、ふりかかる逆境、とまあアイテムは万全なのである。っていうか、ベタベタですがな! みんなが知っている物語だけに、料理の腕前が問われるわけだが、そのあたりは安心して楽しめるはず。明るくて軽くて、主人公のツッコミがさえわたり、にやりとさせられることもしばしば。何より、出てくる人出てくる人いとしくてしょうがない。ジジイにラブ! 佐久間先生にラブ!と脇役にまで一々愛を感じてしまって始末におえない。そして、ぎりぎりまで熱くしておいて、「あれだな、思ったより、感動しねえな」といきなり拍子抜けな感じがたまんない。王道はいいね。すかっとしたいときにどうぞ。

 
  延命 ゆり子
  評価:C
 意に反して工業高校へ進学してしまった高校2年生のカジシン(文系)。やる気もなく、無気力な高校生活を送っていた彼は、泥酔して病院へ。それが学校の知るところとなり、退学を免れるためにキューブサット設計コンテストに出場するハメになる。寄せ集めの落ちこぼれメンバーを揃え大会に参加するカジシン。はじめは嫌々だった彼も段々熱くなってきて・・・。機会油にまみれた青春がいま、始まった。
 集まったメンバーのキャラが良い! 一言もしゃべらない天才数学家、レインマン。友達だけは多い男、ゴタンダ。電気屋の娘の不思議ちゃん、彩子。謎のアキバ系男子、オーチャン。交渉能力ゼロの秀才、大先生。潰れかけた町工場の主、カジシンのおじい。前半モタついた感があるが、人物で読ませる。引きこもりのお父さんが絡んでくるシーンでは目頭が熱くなりました・・・・。
 さて、それではなぜ評価が低めなのか。それはただ作者の笑いのセンスが私と合わないからです。この一人ボケ一人突っ込みみたいな文体が、なんか、あんまり面白くないっていうか・・・もにょもにょ。これは単にセンスの問題で、こういうのが好きな人もいると思う。しかし私にとっては・・・・。話は面白いだけに悲しく思いました。
 申し訳ありませんでした。

 
  新冨 麻衣子
  評価:B
 停学明けのカジシンは、担任から無理矢理『第十三回キューブサット設計コンテスト』への参加を押し付けられることに…「何すか、そのキューブサットって」。あぁ良かった、主人公がわたしの気持ちを代弁してくれたわ!(ロケットから放つ人工衛星のようなものらしい) ヒキ弱・ゴタンダ、天才スロッター・ドラゴン、体力はピカイチ・ダブリの翔さん、天才かつ引きこもり・レインマン、カジシンの祖父で腕利きの町工場長ジジィなど個性的なキャラを巻き込んでハチャメチャなプロジェクトが幕を開ける―。
 ストーリーはベタ! でもふくらんだりしぼんだりはじけたりする彼らの気持ちがとてもリアルで、読んでてすごく楽しかった。そして「他人から見ればどうでもいいこと」に熱中してしまった彼らを羨ましく思う。『1985年の奇跡』が好きな読者は間違いなく楽しんで読める作品。これを読んだ日は、奇しくもスペースシャトル<ディスカバリー>の打ち上げ日。なんとなく嬉しくて、普段興味ないくせに上手くいくといいなと願った。


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