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勝手に目利き
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笑う男
笑う男
【創元推理文庫】
ヘニング・マンケル
定価1323円(税込)
2005/9
ISBN-448820905X
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  北嶋 美由紀
  評価:★★★☆☆
 毎度のことながら、シリーズものを途中で初めてよむのは「なじみ」要素がなく、良さを半減させてしまうものだと思う。どうやら主人公ヴァランダー警部は前作で不可抗力の殺人をしたらしい。(本書では詳細不明)舞台はこれまたおなじみのないスウェーデンで、日本と同様何かと荒れているらしく、作者は警部の口を借りてそれを憂いている。唯一おなじみの設定は、前作の殺人のことが警部のトラウマとなり、鬱状態にあることだ。弁護士父子の死が復職のきっかけとなり、話が始まるが、冒頭から黒幕を見せている。(タイトルでもわかってしまうが)いわゆる「大物」容疑者を小さな手がかりを積み重ねて追い詰めてゆくのがすべての内容であり、登場人物に強烈な個性があるわけでもなく、大きなドンデン返しやとんでもない真相があるわけでもない。あくまで地味で典型的な警察小説がお好きな方にオススメである。

  久保田 泉
  評価:★★★★☆
 ヴァランダー辞職する!と帯にでっかくある。何?ぺージをめくると、スウェーデン南部の地図。ん?するとヴァランダーはスェーデン人か。霧のもやから始まるという小説の前奏は、ほの暗く想像をかきたてられ、読む気ががぜん沸く。小説というのはつくづく得で面白い。ミステリ小説を読みながら、未知の国の情景を思い浮かべ、抱える問題などを知ることもできる。
 本著はシリーズものだそうだが、主人公の警察官ヴァランダーはここでは48歳。冒頭は、前作で正当防衛で人を殺したことで、休職した自暴自棄のヴァランダーの醜態から始まる。そこへ友人の弁護士が、自分の父親の不審な死を調べて欲しいと頼みに来た。しかし辞職を考えるヴェランダーは断る。その数日後、その弁護士が殺され、事件を追うことで復職を決意したヴェランダーは、邪悪で巨大な犯人と戦いを始める。読むうちに、遠い国の孤独な中年の刑事を身近に感じてくる。不器用な男の無骨な生き方に国境はないんだな〜と思いつつ、一気に読めた。

  林 あゆ美
  評価:★★★★★
 ひとりの警部が辞職願を出そうと心に決めた朝、友人である弁護士の死亡記事を新聞で読む。その記事が職場復帰のきっかけとなった。
 主人公、クルト・ヴァランダー警部は自分の仕事を大事に思っている。誇りをもって自分の仕事をしている人の物語を読むのはいいものだ。筋とは離れてしまうが、読んでいる間、誠実なヴァランダー警部にしみじみ惹かれた。長年の職業から得た勘を働かせ、事件を丁寧に追う。そうしながら、仕事を辞めようと思うことになった事件に思いを馳せ、うまくかみあわない父親との葛藤にもどかしさをもち、また目の前の仕事にもどる。解説で「ヴァランダーという男は、とにかくひたすら考える人と言っていいだろう」と書いているが、適当にあきらめず物事をしつこく考えるのは、なかなか格好良い。
 この物語の冒頭はひとこと――霧。その後もからっと晴れわたることのない空模様の中で劇的ながらも静かに事件は進行していくのだが、ラストは少し変化がある。考える男、ヴァランダー警部物語のよき続きになりそうだ。

  手島 洋
  評価:★★☆☆☆
 スウェーデンが舞台のミステリー。スウェーデンの小説がこんなに暗いとは知りませんでした。人を殺めたことが原因で刑事を辞めようとするヴァランダーが新たな事件に巻き込まれ、刑事の仕事に復帰することになるのですが……。
 話が進むにつれて謎はふくらむ一方。そして、主人公ヴァランダーはとにかく他人を寄せつけず悩み続ける。スウェーデンのお国事情、若い世代の台頭に悩む中高年などなど興味深い話がミステリーの要素以外にも織り込まれ楽しめたのだが、いつの間にか残り数10ページ。これって、話ちゃんと解決するの?と思ったら、一気に強引な結末へ。いや、いくらなんでも無理がありすぎ。どう考えても、ヴァランダーの方が殺されてるはず、この展開なら。これが、荒唐無稽な娯楽ミステリーっていうなら文句は言うまい。でも、ここまで、こんなにシリアスに引っ張っておいて、最後に放り投げないでください、と作者にはいいたい。若い優秀な刑事フーグルントが聖職者でなく、刑事を目指すことにした話というのも、こういう書き方だと陳腐な感じがしてしまう。いっそ、事件が解決しないまま終わってほしかったです。

  山田 絵理
  評価:★★★★☆
 シリーズものらしいが、これ1作品でも十分楽しめる。スウェーデンを舞台とするミステリー。
 正当防衛で人を殺したことに苦しむヴァランダーは、精神的に行き詰まり、辞職を決意する。が、少し前に彼に協力を求めてきた友人の弁護士が殺されたことを知り、彼は辞職をなんとか思いとどまり、警察官として復帰する。
 冒頭はヴァランダーの苦しみに満ちていて暗い。事件が起き、彼は捜査班の指揮を執り、地道で丁寧な捜査をすすめてゆく。華やかなことも無く、大きなどんでん返しも無い。彼の刑事としてのプロ根性が、じわじわと事件の核心をあばいてゆく。それがとても読みごたえがある。
 気になったのが、訳。読みやすいのだが、あまり口語では使わない言い回しがちょこちょこと見受けられて、困ってしまった。例えば「〜〜のだ」なんて、普通言うだろうか。作品は面白いのに、訳そのものに「?」という部分が多くてとても残念。上手なんだか、あまり上手じゃないんだかわからないなあ、というのが本音。

  吉田 崇
  評価:★★★☆☆
『スウェーデンと聞いて、われわれ日本人は普通どんなイメージを思い浮かべるだろう』と、解説にあるので考えてみたら、そりゃ、もうイングヴェイしかないのであって、ちょっと譲ってもジョン・ノーラム、って事は別にどーでも良いのだが、スウェーデンの警官を主人公とした本作品、シリーズ第4作の様なのであるが、例によって不勉強の為、今回が初めての著者の作品、何だか全体に地味目です。正当防衛で人を殺してしまった主人公が、そのせいで職を辞する所まで精神的に落ち込んでいくなんて、逆に目から鱗の設定でした。あ、鱗と言えば、これから捜査が大詰めになると言うのに土日はしっかりとお休みする警官というのも僕の目には斬新だったし、すっごく巨大な権力金力を持ってるはずなのに、拍子抜けするほどにあっさりと負けちゃう敵だとか、プロフェッショナルが仕掛けたはずの地雷を一般ピープル、それも普通のおばさんが気付いちゃうなんてのもどうかと思うし(すっかり、狂言だと思って読んでいたので、僕の頭の中ではまだこの女性が怪しいのである)、★三つはぎりぎりの線、表紙が格好いいのでおまけします。

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