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蜘蛛の巣のなかへ
蜘蛛の巣のなかへ
【文春文庫】
トマス・H・クック
定価670円(税込)
2005/9
ISBN-4167705109
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  北嶋 美由紀
  評価:★★☆☆☆
 全体に暗く、陰鬱で、第一部は記憶の断片の羅列でわかりづらい。18才で故郷を捨てたロイは余命いくばくもない父のために20数年ぶりに帰って来る。ジュニアものの本のような表紙から何となく青春+ミステリーを想像してしまったが、主人公は40代ではないか。それにしては少々青すぎないか?と思いつつページをめくる。元々ソリの合わない二人の生活に昔の弟の殺人事件と自殺がからむ。ふとしたきっかけでロイは弟の事件や父の過去に疑問を持つのだが……
 いくら旧弊な土地柄でも今時これはないだろうと思える町(時代がはっきりしないのだが)とニブいロイの姿にいい加減気付けよとイライラしてきてしまう。最終的な父子の和解は予感できるから、あとの楽しみは事件の真相なのに、推理ものとしては面白味に欠ける。復讐の成功と理解し合えた父子の姿でよしとすべきだろうか。

  久保田 泉
  評価:★★★☆☆
 余命いくばくもない、父のジェシーの最期を看取るために、二十数年振りに故郷ウェスト・ヴァージニアに戻ってきた教員のロイ。こんな父子がどうして再会する必要があるのか、と思うほど二人の関係は悪い。それでも、父を一人では死なせられないと重い気持ちで戻って来たロイ。彼が家を出て行く前、優しい弟は殺人を犯した後に自殺し、母はそのショックで病死した。そしてロイは父からは蔑みしか感じられなかった。故郷には、突然心変わりした昔の恋人ライラもいる。ライラの母のふともらした言葉から、ロイは父が語らない父の過去、弟の事件、元恋人の心変わりの謎を探り始める。父との懐かしい思い出もない故郷で、ロイは自分に絡みついた蜘蛛の糸をほぐすように、過去に近づいていく。なかなか出口の見えない過去が、ロイの未来への入り口だったのは暗い話の唯一の救い。しかし、父の最期の行いが息子との和解とするには、やりきれない思いが残る。謎解きはそれなりに読めるが、父と子の物語、何より会話が重苦しすぎ、読後どっと疲れが出る。

  林 あゆ美
  評価:★★★★☆
 もっとも身近な肉親である親と屈託ない関係をつくれる人もいるが、つくれない人もいる。ロイ・スレーターは20年前に故郷を離れた時、二度と戻るまいと思っていた。しかし、戻らざるを得ないと決めたのは、よい関係を築けなかった父親が余命数か月だと知らされたからだ。父親をひとりきりで死なすわけにはいかないとロイは考えた。
 関係はひとりでつくれるものではない。息子がそう思っているならば父親とて素直な感情では接しない。余命を看取るという目的のもと、ぎごちない父子関係が20年ぶりに解消されるのだろうか。
 重苦しい背景は父親という理由だけでなく、複雑な過去はロイを陰鬱さから解放してくれない。そうこうしながら、考えたくもないと思っていた過去の真実がある事件から明らかになるにつれ、もつれたものが少しずつほどける。
 わかればわかるほど、その当時に知ることができたならと、過ぎ去った時を読者である私が思わず悔やんでしまう。けれど、なにごとも必要な時間があり彼らの過ぎた20年もまた必然だったのだろうと納得できるラストが待っていた。

  手島 洋
  評価:★★★★☆
 余命短い父を看取ろうと、嫌々ながら田舎に帰ってきたロイ。自分が田舎を出る直前にあった過去の事件の背後に潜む謎を探ることになる。
 重い話なのに文章自体はすごく軽い。主人公が驚くくらいシンプルな人間なのだ。自分を虐げて蔑んできた父をひたすら嫌い、田舎を嫌悪している主人公。生涯で唯一愛した女性や、駆け落ちに失敗したのち自殺してしまった弟の記憶を閉じ込め、彼は孤独な生活をつづけていたのだが、父や田舎の人々とかかわる中、その封印がとかれていく。
 自己弁護が激しくて、頑固で、生真面目な主人公ははっきりいって好きになれない。自分の偏屈さを自覚している父親の方がよほど可愛げがある。その主人公がどんどん周りに振り回されて意外な方向にどんどんひきずりこまれていく様子が一種痛快だった。親父、もっと暴走しろ、と応援してしまった(そんなのは私だけ?)。不思議なのは、こんなロイをよくライラが好きになったな、ということ。話の展開にはちょっと無理があるんじゃないか、と思えるところが多々あったが、駄目男の受難物語(そんなジャンルがあるのか?)が好きな方にはぜひお勧めします。

  山田 絵理
  評価:★★★★☆
 どこまでも相容れない父と息子の物語であり、彼らが互いの過去を清算してゆく物語である。
 余命短い父の元に、遠方で教師をしていた息子のロイが父を看取るために戻ってくる。病気の身でありながら、父はロイに侮辱の言葉ばかりをかけ続ける。いったい僕が何をしたというのか。僕は今の生活で満足しているのに。父と息子は反目しあう。
 かつてロイの一家は、父はずっと不機嫌、弟は自殺をし、母も追うように亡くなった。昔の生活では誰もが幸せではなかった。だからロイはずっと家を出ることばかり考えていた。
 父にとっては息子がどこまでも逃げてゆく臆病者に見えたのだろう。大事なものを守ることさえ出来ない、と。逆に息子は父の不機嫌のわけを知りたいと思っていた。そしてそのどちらにも町を牛耳る保安官の存在が絡んでいたことを知る
 大事なものをつかもうとした父、大事なものから逃げようとした息子。その父子のからみあう描写がみごとな作品である。

  吉田 崇
  評価:★★★☆☆
 本当、恥ずかしい話なのだが、この著者にしても、今回が初めてなもんで、非常に心苦しく思ってはいるのですが、そうそう反省ばかりもしていられないので早速言うと、今月の惜しくも第2位は本書です。
 帯にある『父との和解』から、おお志賀直哉なのか(読んだ事ないけど)と思いつつ読み進めると、いやぁ、暗い暗い、死の匂いがぷんぷんしてる。主人公は何だか腰の抜けた嫌な奴で、その父親は学のない偏屈じじいで、この二人が和解する事なんて本当にあるのか?って、読んでるこっちの方が心配になるくらい険悪なムードだし、マジな話、途中までは読むのが結構しんどかった。
 父親の過去を主人公が知り始める頃から、俄然物語が生きてくる。重たかった霧が晴れる様に過去が解き明かされ、主人公の心にある頑固な足枷も溶けていく。悪玉の過去の悪事なんてものは予想通りではあるけれど、この作品にとってはそんなものはマイナスではない。父と子の和解、男と女の再会とがきっちりと描かれている事だけで、この作品は成立しているのだ。

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