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勝手に目利き
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影の王国
影の王国
【講談社文庫】
アラン・ファースト
定価840円(税込)
2005/8
ISBN-4062751712
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  北嶋 美由紀
  評価:★★★☆☆
 何だかよくわからないうちに終わってしまった、というのが正直な感想である。ハンガリー貴族の末裔で、パリの広告代理店経営者であり、プレイボーイの主人公はスパイでもある。1938年。彼の祖国はもちろん、ヒトラーが勢力をのばしつつあるヨーロッパ。不穏な空気に包まれる中を外交官の伯父の命令でスパイ活動をする様子が内容だ。ファシズムの台頭とやがて迎える第二次世界大戦の世情の中、いくつもの国境様々な民族と言語が混在する土地で生き、(このあたり日本人には実感がわかない)領土争いや戦争を体験してきた主人公であるが、優雅な生活や恋愛が混じるせいか緊張感が少ない。スパイ小説特有の手に汗握る、絶体絶命の窮地やそれを乗り切る痛快な場面にはお目にかかれない。ヒーロー的要素と盛り上がりに欠ける。訳者のあとがきによれば、それがこの小説の持ち味なのだそうで、確かに当時の雰囲気は感じとれるのだが、聞き慣れない用語や人名、地名に戸惑いながら読むわりには面白味が少ないような気がする。

  久保田 泉
  評価:★★★☆☆
 今月三冊目の翻訳本は、歴史スパイ小説だ。今度の舞台はどこだ?
 時代は第二次世界大戦開戦直前のパリ。主人公のハンガリー人モラートはパリで広告代理店を経営し、恋人と優雅に暮らす。しかし、彼のもう一つの顔は外交官の伯父の命を受け、活動する民間人スパイ。伯父の仕事は、ヒットラー率いるナチスと、国内のファシスト勢力から祖国ハンガリーを守ること。ヒトラーの大戦での行いを知っているだけに、刻一刻と悲劇を迎えつつある大戦前夜のヨーロッパの臨場感が、とても怖い。
 ヨーロッパという、地続きの国々の国民がもつ愛国心、国の存続を意味する領土を守る気持ちは、周囲を海で囲まれた日本人の私にはどうしても理解しきれない。この作家はアメリカ人だが、暗黒の時代のヨーロッパの歴史と愛国心を題材に、独自のスパイ小説を描いている。自国の不自然なくらいの善悪の明快さからは得られない何かに創作意欲が触発されるのだろうか。陰鬱で地味ながら、独自のセンスと味のある小説だ。

  林 あゆ美
  評価:★★★★☆
 ハンガリー系アメリカ人作家が、パリを舞台にして書いたスパイ小説。
 ヒトラーが頭角をあらわし、ヨーロッパに黒雲が覆い始めた第二次世界大戦直前、主人公モラートは2つの顔をもっていた。広告代理店を友人と共同経営し軌道にのせる有能な社会人としての顔、そしてもうひとつは伯父と共に秘密活動をするスパイとしての顔だ。お金に不自由しない生活の中でひとまわり以上年の離れた恋人に高価な贈り物をし幸福に愉快に過ごすモラートと、危険な橋を渡り続け、時に命に関わり牢獄にもつながれるモラートがいる。
 淡々と暗く、けれどもどこか優雅にストーリーが進み、歴史背景に明るくなくても強く引き込まれるように読んだ。このストーリーの吸引力はぺたっとついて離れず、モラートが次にどんな選択をしながらこの時代を過ごすのか最後まで飽きなかった。

  手島 洋
  評価:★★★★☆
 第二次大戦開戦直前のパリを舞台に始まる物語。当時のヨーロッパの描写が魅力的。その時代に興味があるので楽しんで読めました。しかし、帯に書かれている「スパイ・スリラーの最高傑作!」というのはどうでしょう。パリに住む裕福なハンガリー人の主人公が、密かに平和の為に行動するのですが、特別な技術や能力をもっているわけではなく、いざとなったらお金と人脈と度胸でなんとかするだけなのです。
 大きすぎる事件を題材にしながら、あくまでパリの一市民の視点から描いているというのが、この作品のミソ。まだベールに包まれた大きな戦いが始まろうとする雰囲気、息苦しさが伝わってくる。真実を知らされていない市民にも危ない空気は伝わるものなんでしょうね。ドイツの台頭を目の当たりにした、各国の反応の違いというのも、今の某戦争に対する各国の態度とつい比較してしまいました。
 設定はいいのに、登場人物に魅力がないのが惜しい。主人公モラートは複雑な状況に追い込まれながら淡々と行動する。それが彼の魅力でもあるわけですが、脇にまったく性格の違う「あつい」人物がいると彼の魅力もはっきりしたのではないでしょうか。

  吉田 崇
  評価:★★★☆☆
 地に足のついた、小説として読むに値するスパイ・スリラー。と、ひとまず持ち上げといて、いつもの様に好き勝手を言う。
 第二次大戦直前のヨーロッパが舞台のこの小説、主人公は外交官を伯父に持つハンガリー人モラート、こいつがまた裕福で見た目も良くて、何ともはや、いけ好かない(個人的意見)。仕事もできてモテモテで、そんな風で良いのか!っと、読んでる間中、不愉快になった。恋人のカラは、どうした、カラは!っと、それだけが気になる読後感。大体、伯父からの依頼で、何やら動き回る主人公、相手とする敵が巨大なせいもあるのだろうが、今一つ、行動に対しての切羽詰まった懸命さが感じられないのだ。オイオイ、もっと真面目にやろうぜと言うか、気合い入れていこうぜって言うか、ニヒリスティックなキャラクターの設定だからといって、お話まで寒くなるこたぁない。任務の途中で、彼女へのプレゼントの事を考える様な奴にろくな奴はいないのだ。

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