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勝手に目利き
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クライム・マシン
クライム・マシン
【晶文社】
ジャック・リッチー
定価2520円(税込)
2005/9
ISBN-4794927479
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  清水 裕美子
  評価:★★★★ 
技あり短編に騙されるのはお好きですか?
騙されたくない決意で読み進めると「ムッ!」「次は負けるもんか」と裏を読むようになるが、この作者ジャック・リッチーの意地悪さにはかなわない。もう手のひらで転がして下さいな気持ちになり、最後は「やっぱりこうでなきゃ」。
底意地悪さ度・試金石『日当22セント』は、4年間の刑務所暮らしの後で無罪を得た受刑者に対し、いい加減な目撃証言を行った証人や弁護士が戦々恐々する話。オワ!
リベンジ度・試金石『殺人哲学者』は、身勝手な考えで通り魔殺人を犯した男のごたくが続く。アハ!
どちらもとても短くてニヤリ。ちょっと不思議なテイストの物語もあります。傑作選だけに全部読み終わるのが心底惜しい。しかし、さすが! 巻末の解説には最後のお楽しみが残っている。削って削って短くしたという骨子だけの物語。笑って下さい。
読後感:脳が喜んでいます

 
  島田 美里
  評価:★★★★★
   マジックの種明かしを見ていると、「もうちょっと考えればわかったのに!」などと腹立ち紛れにぼやいてしまうことがある。
 この短編集を読めば、ぼやくどころではおさまらない。ラスト数行に隠されているサプライズに出くわして、悔し紛れに「ぬおーっ!」と叫んでしまうのだ。表題作「クライム・マシン」では、奇抜なイリュージョンに驚かされ、「エミリーがいない」では、登場人物の心理をすっかり勘違いさせられる。さらに感心したのは、短い作品なのに登場人物が類型的ではないところ。著者が生み出す人物の背景には人生が見えるのだ。「歳はいくつだ」の主人公の男からは、ほろ苦い人生の香りがまるで煙草のけむりのように漂ってくる。この男のように、誰だって横柄な奴のひとりやふたり、殺したいと思ったことがあるだろう。読んでいるこっちもトレンチコートの襟を立ててハードボイルドしたくなった。
 短編は切れ味が命。もたついた文章だとネタがバレてしまう。一流マジシャンの手際が見事なのと同じように、腕のいい作家には無駄がない。

 
  松本 かおり
  評価:★★★★★
  むふふふふふ……。読みながら頬が緩みっぱなし。とにかく、オチの意外さとストーリーのヒネリ加減に、「ヤラレター!」「えーっ!」の連発。こういう快感なら何度でも味わいたい。ミステリというと、縦横に張り巡らされた伏線、手の込んだ仕掛け、複雑な人間関係がウリの重厚長大作品を思いがちだが、本書は「そんな面倒くさいことはごめんだぜ」とばかり、320ページのなかに17篇。一篇平均・約19ページの短篇集なのだ。長い話は苦手な人でも、これなら気軽に読めるだろう。しかもとびきり面白い逸品揃いだ。
 たかだか18ページで何ができるのかって? やるんだよねぇ、この著者は。特に気に入った数篇のサワリを紹介したいが、なんせ短い話ばかりのもんだから、サワリ=ネタバレになりそうなのがツライところ。初出が「1958年」(!)の話もあるが、古臭さは皆無。むしろ斬新。「無駄な言葉や描写を徹底的にそぎ落とす」短篇職人の技に、ただ脱帽だ。

 
  佐久間 素子
  評価:★★★★ 
 いいね! 小粒ながらも、ひねりのきいた短編ミステリが17編。きっちり正統派だけど、ヘンリー・スレッサーほどサスペンスじゃなく、エドワード・D・ホックほど本格ぽくない。かるくて、読みやすくて、色々なアイデアが楽しめて、おやつとしてはまさに最適。超短編の『殺人哲学者』、MWA賞の『エミリーがいない』は短編を読む快感が味わえること間違いなし。シリーズものも収録されていて、化け物探偵カーデュラも楽しくて捨てがたいのだが、個人的にはターンバックル部長刑事に興味あり。披露する推理はことごとくはずれるも、はからずして事件は解決させちゃうターンバックル、ただの勘違い野郎ではなく、大まじめで哀愁があって、実に魅力的なキャラなのである。加えて、この短編集では二編しか読めないのだが、あまりにもテイストが違うのでびっくりなのだ。ぜひとも『ターンバックルの事件簿(仮)』まとめてくださいね。>晶文社さん

 
  延命 ゆり子
  評価:★★★★ 
  言葉をそぎ落とし、ストーリーだけで勝負するショートショート。小学生で星新一にはまった私にとっては懐かしさでいっぱいだ。殺し屋の前に現れたタイムマシンを持つという男。ルーレットの必勝法を編み出した男。二十人分の怪力で弾丸をも跳ね返す探偵。奇想天外なストーリーと、私の想像をはるかに超えた結末に向かって加速度を上げるスピード感。そして最後の一行でもう一ひねり。ヤラレターと思わせるどんでん返しの連続に思わずニヤリ。そのほとんどが1960年代に作られたものだというから驚きである。星新一も言っていたが、ショートショートはいつの時代に読んでも新鮮なものですね。アイディア勝負の傑作短編ミステリ怒涛の17連発! じっくり堪能させていただきました。

 
  新冨 麻衣子
  評価:★★★★ 
 この短編集を締めくくる解説はこの問いかけから始まる。「ジャック・リッチーをご存知だろうか」ごめんなさい、知りませんでした。この作家は1950年代から80年代はじめにかけて350もの短編を書いた、短編のスペシャリストらしい。
この本に収められているのは17の物語。短編からショート・ショートまで、意地悪にぎらりと冴える小さな物語たち。ひとつひとつ挙げればきりがないが、やはり短い作品こそ冴え渡る。「殺人哲学者」とか「旅は道づれ」とか、一段組みの単行本でたった5ページに満たないというのに、スコーンとラストで足払いされてしまう快感がたまらない。その快感に酔ったままついつい次の短編を読みはじめちゃうのだ。楽しかった。
余談ですが、このなかの一編「歳はいくつだ」はジャンプ連載中の人気漫画「デスノート」が社会心理学的にちょっと重なる……。

 
  細野 淳
  評価:★★★★ 
 作者はジャック・リッチー。短編小説の名手と謳われた人であるとのことだが、日本ではほとんど無名に近い。もちろん自分も知らなかった。で、実際に本を読んでみると、本当に心の中に思い描いていたような、王道を行く短編ミステリー集。そんな作品集だからこそ、かえって夢中になってしまうのだ。
お勧めなのは、「日当二十五セント」と「エミリーが居ない」あたりかな? 前者は冤罪となった人の話で、後者は行方不明となった妻を話題にした話だ。他の作品でもそうなのだが、最後は必ず相応のオチがついていて、「なるほど納得」という感じで読むことができる。
この本に収められているような作品が、例えば毎週目を通すような雑誌のどこかに、ひっそりと収まっていてくれていたらいいのになぁ…。そんなことを思わせる短編小説集です。
 

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