年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
ハルカ・エイティ
ハルカ・エイティ
【文藝春秋】
姫野カオルコ
定価1995円(税込)
2005/10
ISBN-4163243402
商品を購入するボタン
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

 
  清水 裕美子
  評価:★★★  
姫野カオルコ新作。本を開く前はジェンダー論とかだと面倒だな〜って思ってました。杞憂でした。
はるか17がドラマ化された季節にハルカ・エイティ(80)も軽やかに生きる。京滋地方のふんわりした語尾の話し方で、戦前の女学校生活から現代までの一代記。いや一代記ってほどの苦労もないです。
ハルカは不細工ポジションで成長し、戦後は原節子似ということで美人ポジションへ劇的に立ち位置が変わった。ただ本人の気持ちは変わらないのでそこが可笑しい。母になり、職業婦人になり、30代になって恋を知る。自分が手をつけた男は最後までちゃんと面倒を見る性格。
そんなハルカが添い遂げた夫の大介さん、この素敵さが最初はちっとも分からなかった。手抜きで浮気者で事業熱な男。でも長い時間を過ごすことで「ラッキーな結婚」というものになったのかもしれない。So happy life in case of HARUKA。タイトルの半分、ちょっといいな。
読後感:なんやろなー、生涯現役のココロモチ

 
  島田 美里
  評価:★★★★★
 幸せはがむしゃらにつかみにいくものだと考えていた自分を、ちょっと省みた。バーゲンセールの会場で、獲得欲をむき出しにしているような人生ばかりが女の生き方ではない。
 この小説の主人公・ハルカは大正生まれの平凡な女性。必要以上に欲を持たないところがいじらしい。恋に縁のない青春も、半ば強引なお見合い結婚も、そして人の一生を狂わせてしまう戦争も、心静かに受け止める。しかも、ユーモアのセンスに優れているせいか、まったく悲壮感がない。見てもいない芝居のプログラムを眺めながら、好き勝手に空想する姿は、まるで赤毛のアンのようである。そんな彼女のおおらかな性格のおかげで、この物語の色彩はとてもカラフル。モノクロの映画を見に来たつもりが、実はオールカラーだったというような驚きがある。
 ハルカが夫の浮気をとことん黙認するのは理解しがたいが、世の中には受容し続けるという美しさもあるのだと思った。バーゲン品を奪い合うような情熱で幸せをつかむ人もいるけれど、強い日差しもどしゃぶりの雨もあるがままに受け容れて、綺麗な花を咲かせる人もいる。どっしり構えてみたくなった。

 
  松本 かおり
  評価:★★★★
  女の一生物語は、その主人公女性が好みか否かで読後感がずいぶん変わる。脇役がどんなによくても、主役次第だ。で、本書のハルカ。いいぞ〜。いったいどこにこんな素敵な女性が隠れていたのか。ハルカは大正8年生まれ。太平洋戦争をはさんで、激動の日本を生きていく。しかし、「蛍の尻のひかりほどであろうとも」暗闇に見つける性分のゆえか、足どりは常に軽く、潔い。夫婦仲も、自ら「これだけラッキーな結婚にアタった」というほどの円満ぶり。たとえば浮気の効用は、現代の夫婦にも通じるのではなかろうか? 
 本書冒頭、81歳・ハルカは華麗だ。老いを素直に受け入れず、若作りに悪戦苦闘のあげく醜態をさらす女性が多い今、どうすればそんなにカッコよく小粋に、自信満々で生きられるのか。「年はみんなとる。死ななければとる。そんなに厭うものでもあるまい」。同感。だからこそ81歳に至る日々の隅々まで知りたかった。結末はちょい尻切れ気味かな。

 
  佐久間 素子
  評価:★★★★★
  姫野カオルコの書く小説はいつもいつも新鮮で嬉しいかぎり。著者は文章の背後にあるものを読みとれという要求をしない。人が何かを思ったり行動したりする際の理由を、一々観察するなり分析するなりして、きちんと書きあらわしてくれる。登場人物本人が自覚していなくても、読者が共感できなくても、理解はできるように、その筆を惜しんだりしない。この理知的な文章がきもちいいのだ。そんな、あくまで人間観察重視、時代のギャップを重くも軽くも扱わない公平な感覚が、大正九年生まれの女性の見ため平凡な一代記を、こんなに刺激的な小説にしてしまう。時代にも社会にも自分にも逆らわず生きるハルカから学ぶものは多い。わたしってば、うっかり人生観が変わってしまったかも。ほとんど皮肉ぎりぎりのユーモアもむろん健在。力抜いていきましょうと伸びをしたくなる一冊。

 
  延命 ゆり子
  評価:★★★★
  主人公は大正9年生まれの元祖モダンガール、小野ハルカ。大正昭和平成を明るい気持ちで駆け抜けた平凡な女性の一代記。なんだかNHK朝の連続テレビ小説のよう。しかし一見退屈な人生にもドラマチックな日常が潜む。まずは戦争。この時代ってすげえよなと改めて思う。昨日世間話をした人が、次の日には爆弾を受けて焼け死んでいる。ほんの少しの偶然が生死を分ける。常に死と隣り合わせの特殊な日常を、ほんの少し前の日本人全てが体験していたという事実がリアルな実感として迫ってくる。その後もハルカには数々のドラマが訪れる。夫の度重なる浮気。そして職業婦人となったハルカの女性性の満たされぬ思い。夫の事業の失敗。友人や家族の死。そんな辛い要素もハルカは静かに受け入れて取り乱さない。波乱万丈な人生を、退屈なように当たり前のように楽しく生きるハルカのその逞しさ、したたかさ、しぶとさよ。昔の女は強かった……とコウベを垂れるしかない。ガクリ。

 
  新冨 麻衣子
  評価:★★★
  戦前から現代までめぐるましく変化する日本社会を背景に、大阪のモダンガール・ハルカの半生を描いた長編。著者の叔母をモデルに描いた、姫野カオルコの新境地。
時代のわりには大らかで優しい嫁ぎ先の家族に囲まれてどこまでも天真爛漫なハルカ。妙にさばけててなんでもおもしろがるというあたりは、田辺聖子の描くキャラとも近くて、昔の関西の女っていうのはこういう気質なのかなぁと思ったり。自分の浮気相手の男の面倒は最後までみてやる、という男性的な一面もあって、個人的にはかなり好き。しかし時代を考えると変わった夫婦でもある。お互いの浮気を許しながら、けっこう仲が良かったりして。ラストシーンの夫婦の会話にはちょっとほろり。
ただフィクションとしてみるなら、平坦な印象を受けるのも事実。もうちょっと脚色して濃淡を付けても良かったのでは。

 
  細野 淳
  評価:★★★★★
 どんな時代でも、力強く生きられる人はいるのだなぁ、としみじみ思ってしまう。物語の主人公であるハルカは大正生まれ。そんな時代に生まれたのだから、今よりもずっと様々なことに束縛されながらいままで生きてきた、と我々は考えてしまうだろう。女性であれば、なおのことだ。
もちろん、我々が考えるような「自由」は、当時はごく限られている。結婚の主流も、もちろんお見合い。特に断る理由もなければ、そのお見合いもすぐに成立してしまう。そんな結婚でも、ハルカは旦那と一緒になれて良かったと素直に思える。ハルカとは別の女性がこの男と結婚したら、多分異なる感情を抱くのだろうけど。
世間的な目で見たら、だらしない面も多々ある夫。でも、相手の長所を巧みに見つけることのできる才能を持つハルカは、いい人とめぐり会えた、と素直に思うことができるのだ。そして、自分自身も、精一杯その時々を生きていく……。時代や性差に関係なく、力強く生きて行ける人は、行ける。自分の境遇に不平や不満をこぼす前に、そんなハルカの生き方を見習いたい。


| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved