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勝手に目利き
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カリフォルニア・ガール
カリフォルニア・ガール
【早川書房】
T.ジェファーソン・パーカー
定価1995円(税込)
2005/10
ISBN-4152086769
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  島田 美里
  評価:★★★
 都合の悪い過去を、封印してはならないという著者の声が聞こえてくるようだ。国家のイメージは、その内情と違うことがある。
 この作品のジャンルはミステリーだけれど、60年代以降のアメリカ史という色合いが強い。舞台はカリフォルニア。若い女性の惨殺死体が発見され、その謎の解明に刑事とその弟の新聞記者が乗り出す。麻薬や暴力の横行、泥沼に陥ったベトナム戦争といった負の産物が、振り払っても消えない闇のように背景に染み込んでいる。子どものころから見知っていた美しい彼女がなぜ殺されたのかという疑問は、アメリカの輝かしい威信がどうして崩れ始めたのかという思いに重なっている気がした。やはり、この物語が本当に解き明かしたいのは、真実のアメリカ像なのだと思う。それだけに、犯人が明らかになったところで、驚きはないかもしれない。
 母国の人が読めば、強さと暴力の境界線が曖昧になっている自分の国を振り返りたくなるだろう。ただ、海を隔てた読者がアメリカの歴史を顧みて、感慨に浸りたくなるかどうかはわからない。

 
  松本 かおり
  評価:★★★★★
   さすがパーカー作品、期待を裏切らない素晴らしさ。<素晴らしい>なんて陳腐すぎるとは思うが、他になんと形容したらいいのか。「現在」から始まって「36年」前の事件にさかのぼり、そして再び「現在」に戻り、遂に全貌が明らかにされるこのスリル! 「36年」間を根こそぎにするラストの衝撃には、あまりのことにクラクラした。
 「おれたちの考えは、すべてまちがっていた」。冒頭から驚かせてくれる。その後に続く、かつての猟奇的犯罪とその緻密かつ地道な捜査活動をみれば、「まちがっていた」とはまったく思えない。しかし、「まちがっていた」という。では何が? どこが? 見抜けないだろうと薄々わかってはいても、チャレンジングな読書ほど刺激的なものはない。
 登場人物たちの魅力も大きい。たとえ犯罪者であっても血の通った生身の人間として描き、必ず救いを残している。パーカー氏の深く広い人間愛が、全編に感じられる作品だ。

 
  佐久間 素子
  評価:★★
何て皮肉なタイトルだろう。まぶしい日の光も、女の子の輝く笑顔もまるで縁がない。暗くて重くて真面目で、読み終わったあとしばし脱力。若い女性が殺されて犯人を捜すという、ごくシンプルなミステリの構造をもっていながら、誰が殺したのか、何故殺したのかという結論はお飾り程度の扱いでしかない。丁寧につむがれるのは、短く幸薄いジャニルの人生をたどる捜査過程であり、少女時代の彼女を知り、長じて各々の立場で殺人事件に関わるようになる兄弟のストーリーである。 「悲劇は、神が愛にかたちを与えるために用いる道具です」と、牧師である長男は語る。その言葉に癒されても、苦しみが終わるわけではないのだ。強い後悔と、のみこむしかないあきらめが過酷。過ぎ去るばかりの佳き日々を惜しみつつも、必死で希望を手放さずに今を生きる兄弟の誠実さが、ただただ痛々しい。しんどかったです。

 
  延命 ゆり子
  評価:★★★
  1968年。ミス・タスティンにも輝いた美女のジャニルが首を切断されて殺害された。彼女を小さいときから知る警官のニック、その弟で新聞記者のアンディはその事件を解決すべく奔走するが、徐々にジャニルの妊娠が発覚し、FBIの調査をも請け負っていたことも明らかになり事件は思わぬ展開へ転がりはじめる。1960年代の風俗もふんだんに取り入れられ、ベトナム戦争、ケネディの暗殺、麻薬やヒッピー、それに兄弟間のいざこざやそれぞれの恋愛模様、家族の絆……、テーマがてんこ盛りすぎて読み解くのに一苦労なのだ。読中、私は己の目蓋が降りてくるのを止めることが出来なかった……って寝るな。容疑者の一人を追い詰めるところからは盛り上がるってくるのだが、如何せん致命的なのは途中で犯人が分かってしまうこと。推理する楽しみくれよ……。エドガー賞受賞という文句に期待しすぎてしまったようだった。

 
  新冨 麻衣子
  評価:★★★★
  「俺たちは間違っていたんだ」――事件から数十年後アンディがニックに向かって話しだす短いシーンから物語がはじまる。それはジャニスが残酷な手口で殺害された事件のことだった。実の兄からの性的暴行を受けていたジャニスに助けを求められた牧師の長男・デイヴィッド、彼女の兄を逮捕した保安官の次男・ニック、ジャニスに昔ほのかな恋心を寄せていた記者の四男・アンディ……気にかけていた幼なじみの死がベッカー兄弟に波紋を投げ掛ける。ニックとアンディは職業柄得られるお互いの情報を交換しながら事件を突き詰めていくが、意外なかたちでデイヴィッドが事件に関わっており……!?
思わせぶりな冒頭のシーンといい、二転三転するラストといいストーリー展開は文句なしにいいのだが、何より素晴らしいのは人間関係。家族、夫婦、仕事仲間……あらゆる信頼関係がこの物語を支え、引き立てる。本筋からはそれるが、デイヴィッドが家族にある衝撃的な告白をするシーンはとても感動的で印象に残った。



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