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勝手に目利き
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みんな一緒にバギーに乗って!
みんな一緒にバギーに乗って! 
【光文社】
川端裕人
定価1575円(税込)
2005/10
ISBN-4334924697
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  清水 裕美子
  評価:★★★
 新人男性保育士と保育園の物語。
今月の本に登場する男性陣は「しっかりしなさいよ!」と言われそうなタイプが多いが、無駄にマッチョな新人保育士の竜太はフェミニンな印象なんだそうだ。ワサワサと動き回る子供達、食事前の喧騒、うるさい母親などに素早く対応出来ない。気ばかり焦って周りから助けられる、もどかしい新人時代。もう一人の新人はソツのない「王子様」秋月。母子家庭の女の子達に対し「将来のパートナー選びすら左右する、基本的な男性像」になってしまうと悩む姿がおかしい。保育士さんの日常生活やこんな事を考えているのだな〜という視点が興味深い。
反面、女性の保育士さんのエピソードでは、元彼が園児の父親として登場したその続きが気になる。幼児の匂いや温かさ、手触りの表現がとてもリアル。最後に登場するベテラン男性保育士・ゲンキ先生の話はちょっと悲しいかな。
読後感:うーーん、、、活力は沸かない。

 
  島田 美里
  評価:★★★★
  ONとOFFとで、気持ちをすっぱり切り替えられる人がうらやましい。その点、保育士さんは偉いなあと思う。ニコニコしている人ばかりで、ぶすっとしている人は見たことがない。
 保育園が舞台の小説だから、普通は保育のあり方なんて考えながら読むのだろう。しかし育児経験のない私は、新人保育士の仕事の取り組み方に、むむっと身を乗り出した。ぬーぼーとした竜太は、保護者から荒っぽいのではないかと疑われるし、理論派の康平は、交際中の彼女とその父親に仕事を認めてもらえない。きっと心の中はもやもやしているはずなのに、子どもの前ではそれを引きずらないところが、さすがプロ。いつも優しい先生でいるのは大変だろうに。
 それにしても男性保育士は、まだまだ珍しい存在なのだと実感した。しかし、そんな現状にひるむことなく頑張る彼らは、まるで客を楽しませる役目を背負った喜劇俳優のようだ。保育園はスケールが小さそうに思えるけど、エンターテイナーにとっては大舞台。大人と違って、子どもは愛想笑いなんてしてくれないのだから。

 
  松本 かおり
  評価:★★★★★
   なんて愛らしい装画なんだ! 私もバギーに乗りたくなっちゃうぞ! 保育園で奮闘する新人男性保育士の物語なのだが、内容と装丁がこれほどピッタリなのも珍しい。眺めているだけでウキウキ楽しくなってくる。
 新人保育士・竜太が「実力不足、経験不足、いろんなものが足りない」自信喪失状態からどう脱していくかを軸に、同僚の保育への想いや本音も織りこんだ保育園と保育士の日常風景が、とても新鮮。私は独身子ナシで保育園とは無縁ゆえ、さまざまなエピソードに驚き、感心しきり。実際に子育て経験のある方なら、より深く共感できるに違いない。特に、運動会「子供オリンピック! がんばるマン」の子供ふたりの姿には、思わずホロリ。
 冒頭のなんてことないできごとが、後半で意外な事実に発展し、大きな意味を持ってくる構成は、みごと。私は川端氏の動物モノのファンなのだが、他の作品も読みたくなった。

 
  佐久間 素子
  評価:★★★
  新人男性保育士うんぬんと帯にあるけれど、そればかりがクローズアップされるわけではない。類書は思いつかないけれど、保育園を舞台にした純粋職業小説といったところ。連作短編風でミステリ的な要素も感じられるのは、育児という行為そのものが、謎を解き明かす過程に似ているところがあるからなのだろうな。わけのわからぬ行動に意味をよみとり、成長に手を貸すという仕事。もちろん答えなんてあるはずがない。やっかいな保護者、回らぬ舌でコロチュとつぶやく園児、民営化の波、保育園の日常に起こる問題は存分にシリアスなのだが、完全に解決されないのも答えがないからだ。そのうやむやな感じを物足りないととるか、リアルととるかは読者次第かな。責任は重いけれども、やはり幸福な職業だなあと思わずにいられない。作中でくりかえし表現されるように、子どもたちがきらきらした光に包まれていると感じられる人間にとってはなおさらだろう。

 
  延命 ゆり子
  評価:★★★
  男社会に女が入る。女社会に男が入る。それだけでもドラマは生まれやすい。この小説も区立桜川保育園に着任した新人男性保育士の竜太が主人公だ。確かに保育の場に男性が入るのって大変だろうな。男性差別を受ける竜太を見て今までの男性側の気持ちが分かるような気がした。男女平等! 機会均等!って思っていてもやはり男性にオムツ変えしてもらうのは抵抗あるだろうしなあ。しかし理念もなくただ子供が好きでこの仕事を選んだと衒いもなく言う竜太に少しイライラする。もうちょっと自分で考えろよ仕事なんだからサ!と言いたくなる。結局竜太は最後まで劇的に成長するわけでもなく発展途上の状態で終わってしまうのが残念。もう少し成長の後が見られないと満足感が得られないよう……

 
  新冨 麻衣子
  評価:★★★★
 舞台は区立保育園。マッチョだが意外に針仕事が好きだったりするフェミニンな一面を持つ田村竜太。職業を理由に差別されても理念と野望を持って保育士という仕事に誇りを持つ秋月康平。合コンにいそしみながらも保育士に本当に自分が向いてるのかどうか悩み中の中島ルミ。そしてベテランだが、実際に自分に子供がいないことで奇妙な心もとなさを秘めている大月恵子。この4人を視点に、保育園内でのさまざまなトラブル、保育士としての自分の将来などに悩む保育士たちの姿が描かれる。後半はいい意味でもわるい意味でも保育園をひっかきまわすタイプの先生が登場し、保育士たちの考え方に揺らぎが生じたりして、連作短編集ではあるがひとつの長編小説としてもとてもバランスがいいと思う。
登場する保育士たちの、やっぱり子供が本当に好き、という根っこにある共通部分が、この物語をとても優しくみせてくれる。とくにわたしは子供がいないので全く知らない世界であったために興味深かったし、まっすぐな保育士たちの姿にぐっときてしまったのだ。

 
  細野 淳
  評価:★★★★
   実は大学生の時、少しの間保育園でアルバイトをしていたことがある。とはいっても、現場で子供達の保育をしていたのではなくて、給食作りや、園の雑用など、裏方として色々と働いていたのだ。しかし現場で働いていないとはいえ、保育園に若い男がいれば、必然的に目立つ存在となる。しょっちゅう子供たちが僕の周りに集まってきて、どう接すればすればよいのか、戸惑ったものだ。
 そんなわけで、この物語に出てくる新入の男保育士、竜太には、共感できる部分が多かった。男の職場に女性が踏み込んでゆくよりも、女の職場に男が踏み込むことのほうが、今の世の中でははるかに大変なことなのではないか。けれどいつかは、男性の保育士が、男性の保育士らしく、あたりまえに子供を育てることができるような環境には、是非ともなって欲しい。竜太も元気先生を目指して日々頑張れ、と応援したくなります。
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