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勝手に目利き
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世界のはてのレゲエバー
世界のはてのレゲエバー 
【双葉社】
野中ともそ
定価1785円(税込)
2005/10
ISBN-4575235385
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  清水 裕美子
  評価:★★★
 企画書を書くようにマインドマッピングで「青春」要素を列挙したらこんな理想的な青春物語になるのかも。構成も完璧。混沌と前進するロードムービー風でなく、円のように閉じている。
主人公は父の転勤でNYにやって来た高校生コウ。入り浸るレゲエ・バーで様々な人と出会う。はしょって申し訳ないが、合気道の道着でいたずらな仕返しをしてみたり、切ない恋に友人の死、表現者としての道、9.11。一方通行の矢のエピソードもいい。ボブ・マーリーを用意して口当たりの良い文章に浸ってみると楽しい。
こんな10代はいいねぇ。読んでいて楽しいし。色々な物を持っている主人公だが、持ってないことで完璧になるものもちゃんと備えている。老婆心から言うならば、若いつもりの大人が読んで青春気分に浸るにはいいが、これから青春を送る若者があこがれたり自分と比較するのはツラすぎるような。完璧すぎるから。
読後感:才能のない青春を過ごしたもんで18禁にしておきたくなる

 
  島田 美里
  評価:★★★★
   街中に灯る、無数の小さな光を眺めている間に、どんどん心が透き通っていくような感覚を味わった。
 父親の転勤でニューヨークにやってきた高校生・コオは、この地で豊かな出会いを重ねる。彼が好んで歩くダウンタウンは、まるで小さな光がたくさん転がっているような風景だ。この小説の核であるレゲエ・バーの灯りや、ホームレスの老人の瞳に宿る光、そして、友人を弔うためのキャンドルの光がひっそり輝いている。読んでいる間、大泣きも大笑いもしなかったけれど、コオが足繁く通うレゲエ・バーの雰囲気に、すっかり酔ってしまった。商売気のないハイチ人の雇われオーナーも、そこで働く日本人女性・カエも、そこに集う人はバカみたいに純粋だ。カメラを携えてこの街を歩くコウが、まるで小さな光を拾い集めるように、ファインダーをのぞく心情がわかる気がした。
 底抜けの自由と底なしの不安が交錯している街を、多感な少年が大きなストライドで歩いたら、カッコ良く成長してしまって当然なのだろうと思う。街の空気で人は変わる。

 
  松本 かおり
  評価:★★
  商社マンの父親の海外赴任でニューヨークにやってきた高校生・17歳の煌司クン。大都会の片隅の「いかがわしい隠れ家的な雰囲気」のレゲエ・バーで恋に落ち、写真に目覚め、日本にいたら絶対に出会えそうにない人々と接するうちに、考え悩み成長し……と、設定がたまたま海外というだけで、よくある青春小説パターン。あちこちで先がミエミエになる展開にも、残念ながら興醒め。ミステリーなら予想的中は嬉しいけれど。
 「急ぐだけじゃ、ちっとも前になんか進みゃしないってさ」「あのレゲエとかって音楽みたいにさ、揺れながらちっとずつ進みゃあ、それでいいンよ」。それも人生としてはアリだろうが、小説がユルユルばかりじゃ退屈する。見方を変えれば、それだけ<レゲエ感>が巧く出ているともいえるのだろうが、ユルさが映えるのはニューヨークのスピード感ある大都会ぶりがあってこそ。もっとタイトに、メリハリくっきり、が私好み。

 
  延命 ゆり子
  評価:★★★★
  落ちこぼれの高校生コオは父親の転勤でNYへ。NYの片隅にある怪しいレゲエバーでコオは様々な人々と出会い、別れ、恋し、癒され、さまよいながら瑞々しい成長を遂げていく。とにかくNYの描写が良い。こわいくらい空気が澄んでいるNYの冬。セントラルパークの紅葉。9.11があって、アメリカがあんな風になって、それでもこういう小説を読むとアメリカの底力を信じたくなる。
ただ、いまいちコオを好きになれないのはなぜかしら……。実はひとつも落ちこぼれてなぞいないから? 出てくる女の子がみんな都合の良いかわい子ちゃんだから? 高校生で怪しいバーに出入りするのも、スラングな英語が出来るのも、実はカメラの才能があるのも、ホームレスや麻薬のディーラーと交流できるのも、何つーか……自慢? みたいな……。昔の彼女が学校一の美人で育ちが良くて自分の才能を認めてくれていつも励ましてくれるというのも納得がいかぬ。そんでそういう人って必ず死ぬのよね。プリプリ。モテない女のひがみ? ええ、そう受け取っていただいて結構です。

 
  新冨 麻衣子
  評価:★
 ストーリーを彩る小さなエピソードや描写はとてもいいんです……けどね。
まず主人公がですね、毎晩麻布のクラブに入り浸って女の子に不自由しませんっていう高校生で、父親の転勤でNYに移住、でも予想外に移り住んだのが郊外で毎日つまんないなと思ってたところ東京のクラブで知り合った女の子と偶然再会、彼女が働く魅力的なバーの常連になって、それで日本に一時帰国したときにはカメラマンとしてのセンスを買われ、人気のあるレゲエミュージシャンのライブ撮影の仕事を頼まれて、それが上手いこといってさらにツアー・パンフ用の写真撮影も頼まれ……、そんな折、東京時代付き合ってた元カノ(ちなみに学校一の美少女です)にとんでもないことが起きて!?……とまぁ、彼の人生は波瀾万丈で良かったなぁ、なんてわけのわからん感想しか出てこないわたしを許して。

 
  細野 淳
  評価:★★★
 父親の仕事の都合で、ニューヨークに住むことになった高校生の主人公。ひょんなことから、その巨大都市のなかにひっそりと佇む、レゲエ・バーに入り浸るようになる。それもなぜか、ジャマイカ人ではなくて、ハイチ人が営むレゲエ・バー。お客も、ロクでもない生活をしているような人ばかり。いかにも怪しく、刺激的なことが何かしら起きるような雰囲気はたっぷりある場所だ。
様々な民族が同居することによって作られる刺激的なニューヨークの町。それに付随する人種差別。さらには9.11のテロの後遺症……などなど。様々な現実を目の当たりにしてゆきながら、主人公は自分がこれから、何をしてゆくべきなのか、必死に答えを探しているように思える。まさに青春小説の王道。いつの時代でも、このような小説が生まれ、若者を魅了してゆくのだろう。……と、なんか年寄りめいたことを言うようになってきた自分が、少し嫌になります。


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