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わたしが愛した愚か者
わたしが愛した愚か者
【文藝春秋】
永瀬隼介
定価1890円(税込)
2005/10
ISBN-4163244107
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  清水 裕美子
  評価:★★★★★
 フルコンタクト空手の道場。ボケっとしていると評される主人公・藤堂はこの道場を預かる身。前作も併せて読んだが、この一冊だけで十分楽しめる。
例えばこんな描写にワクワクするなら必読!『左のフックが唸りをあげて飛んでくる。右の内受けで捌く。右ストレート……藤堂は軽く腰を落とし、タイミングを計ってクロスの左掌底を打ち込んだ。小倉は……もんどりうって倒れ、キツネにつままれたような表情だ。無理もない。ワンテンポ早く攻撃を仕掛けておきながら、逆に倒されたのだから。』とにかく空手シーンが爽快!
5編のエピソードは懲りない人々の憎めない言動や生きるパワーが心地よい。中でも経営コンサルタント富永はキャラ抜群。オヤジ狩りのリベンジから入門したが、藤堂に道場の最高顧問の肩書きを無理強いし「日本人は文武両道がことのほか好きですからな。営業効果抜群」とうそぶく。白帯なのにー。
物語のテイストは「池袋ウェストゲートパーク」から陰惨さを抜いた感じ。二段蹴りのように一ひねり入っています。もちろん事件を空手では解決していません!
読後感:空手道場に入門!いや本当に入っちゃいました。

 
  島田 美里
  評価:★★★★
「男は黙って……」ではないが、主人公の空手家・藤堂忠之のセリフの少なさが気に入った。寡黙なだけに、その魅力はわかりづらいが、この男の渋みは時間差で効いてくる。
 『Dojo―道場』を読まずに、いきなりこの続編を開いたけれど、道場の空気を充分嗅ぎ取ることができた。登場人物が皆、泥臭いのがいい。小汚いが美味い定食屋を発見した気分である。先輩から空手道場の経営を引き継いだ藤堂を始め、白帯のくせにでかい態度で周りの失笑を買う中年男や、血の気が多くて単純そうな青年が、この道場に人情味という味付けをしている。
 この道場には、疲れきった人間を再生させる力があるのだろう。特にジーンときたのは、藤堂が付き合っている彼女の父親の変身ぶり。一世一代の大勝負を前にした父親の背中を押す藤堂に「よっしゃ!」と掛け声をかけたくなった。そんな男らしい藤堂は「道場はひとを元気にするんだ」と、臆面もなく言う。普段黙っている男が、ぼそっといいことを言ったら「うん、うん」とフライングでうなずくべきだ。それほど寡黙な男の言葉には重みがある。

 
  松本 かおり
  評価:★★★★
 仲間に危機が訪れると、必ず間一髪でヒーロー登場。単純明快展開で、気楽に安心して読める。しかも、主役の空手道場経営者・藤堂よりも、脇役のほうが元気モリモリ。
 なかでも富永は、完全に藤堂を食っている。空手初心者で白帯のくせに、ドサクサ紛れに道場最高顧問にちゃっかり収まる要領のよさ、抜群の情報収集能力、分析力、行動力に加え、多岐に渡る知識と愛嬌および口の巧さは黒帯モノ。冒頭篇「初恋」ではしんみりきたが、最終篇「遺書」での華麗なお姿には、頭のなかでファンファーレが鳴ったね。ケンカ上等、血気盛んな指導者・山本もシブイ。泣く子も黙る山本健三、クールな台詞を連発し、ワルどもをなぎ倒して見せ場十分だ。
 すっきりしたテンポのいい文章、<勧善懲悪・人助け時代劇>のような人情味、何があっても仲間のチーム・ワークで乗り越える爽やかさが、好印象。

 
  延命 ゆり子
  評価:★★★★
  無理やり空手道場の経営を引き継がされた藤堂の下に持ち込まれる様々な事件。ボランティア自警団、自殺サイト、温泉街のホテル再建などテーマも新鮮、何事も空手で解決、分かりやすい。
主人公の藤堂は正義感が強く正しいことしか言わないので魅力がないのだが(空手バカという設定だから仕方ないのかもしれないけど)、脇役の存在感がすごい。同じ空手道場の指導員の健三は昔ならした伝説のケンカ屋だし、お調子者でメチャクチャ弱い黒帯の先輩や、藤堂の恋人で並々ならぬ好奇心と何やら暗い過去を持つ社長令嬢悠子、と個性派揃い。中でも私のお気に入りは怪しい経営コンサルタントの富永栄助だ。どこか憎めないところもありながら、傲慢でしたたかで強引で慇懃。計算高い権威主義者で強いものには無条件にへつらう金の亡者。「空中ブランコ」の伊良部先生を髣髴とさせる嫌な奴っぷりがたまらなくイイ! むしろこの富永を主役に据えてほしい。

 
  新冨 麻衣子
  評価:★★
 前作の流れによって結局、空手道場を引き継ぐことになってしまった主人公・藤堂。図々しさは筋金入りの経営コンサルタント・富永、生意気だが腕はピカイチの後輩・健一、リサーチ力で藤堂を助ける勝ち気な恋人・悠子など個性的なキャラに囲まれ、なんとか道場運営をこなす藤堂だったが、相変わらずお人好しなためついつい厄介ごとに首を突っ込んでしまって…。
悪くはないんです。トラブル系人情話としては王道。もちこまれるトラブルもひとひねり効いてるし。ただ主要キャラの安直さにちょっとうんざり。とくに前の事件からあまり時間も経ってないのに仲良くなってるトミー親子が変。そして主人公たちがやたら強くて愚直なだけに、なんか水戸黄門みたいなんだもの。もしくはわたしの心がひねくれてる。


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