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├2001年7月
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世界の果てのビートルズ
ミカエル・ニエミ
【新潮社】
定価1995円(税込)
2006年1月
ISBN-4105900528
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
清水 裕美子
評価:★★★
「みなさんの耳に、へたくそなバンドの音が届きますように。」訳者からの愛のこもったメッセージ。一緒に添えられているのはスウェーデンの北の果て、凍結した川の氷が割れる音とオーロラの輝き。
この北の果てで少年達がビートルズに出会う。"初めてのビートルズ話"はファンにとっては一言あり!なシチュエーションのため、そのコンセプトだけで、胸が躍って涙ぐんでしまいそうになる。
果たしてバンドを組むに至った少年達は、朝の生徒達の集まりで緊張のあまり超猛スピードの演奏を披露する。同じ曲を4度繰り返したのに、誰もが(別々の曲だと思い)「○曲目、悪くなかった」と評してくれる。
スウェーデンのこの小さな村は牧歌的というよりも土着的な濃いつながりが感じられる。男たちは「クナプスだろうか」(=女々しくないか)を基準に生きるスタイルを決める。いつだって少年達は試されていて、血の味の空気銃やげんこつやキスを味わうのだ。
読後感:ノスタルジー全開♪
島田 美里
評価:★★★★★
初めて自分のおごづかいでレコードを買ったときのことを思い出して、ちょっとワクワクした。ページをめくると、誰もが子どもの頃に経験する「初めて」にたくさん出逢える。
舞台は、スウェーデンの北にある小さな村。ビートルズに夢中になった少年たちが、間違った回転数でレコードを鳴らしながらノリで歌いきる場面では、笑いが止まらなかった。昔、こんな風に同じレコードを何度も聴いたことがあったなと懐かしくなる。少年たちの行動に共感しながら、ふと、谷川俊太郎の「朝のリレー」を思い出した。スウェーデンの少年も日本の少女も同じ地球にいるんだななんて考えているうちに、遙か遠くで自分と似たような子ども時代を過ごした人たちのことが、とても身近に感じられた。
なかなか最新の音楽も聴けないような土地で、少年たちが、どこか遠くに向かって自分の居場所を発信している感じが伝わってきた。そして、それがこの物語のテーマなのだと思う。大人たちが読むと、自分の殻を破って、未知なる世界から何かを吸収したときのことを、肌で思い出すに違いない。
松本 かおり
評価:★★★★
舞台は北極圏の小さな村。地図にも載らず、有名人はおらず大邸宅も信号すらない、<ド田舎>という言葉さえおったまげて、裸足で逃げ出しそうな村だ。しかし、そんな土地で暮らす人々もやっぱり人間、やってることそのものは似たようなものだったりして、苦笑の連続。年頃の少年の興味をそそるのはアレだし、親子は喧嘩するし、オヤジ連中は泥酔するし、ばあさんが死んだ途端に遺産相続でモメるのはどこぞの国とまったく同じ。
傑作なのは、語り手「ぼく」と友達のニイラが初めて「ビートルズ」を聴いた瞬間と、その後の激変! すっかりロックンロールの虜と化し、板切れギターに口パクで気分はエルビス。夢中になれるってのは最高だ! ヨダレが出そうな婚礼料理の数々もいいし、サウナの話も興味深い。「サウナに入ったら考えることはただひとつ」。さて、何か。答えは……「おならをしないこと」! そりゃそうだ、密閉状態でやられちゃかなわんもんね!
佐久間 素子
評価:★★★★
スウェーデン、ビッケとニルスの国だ。そして、エネルギーにみちあふれた子どもたちを書き続けたリンドグレーンの国。彼らのおかげでスウェーデンは決して遠い国ではなかったのだけれど、いやー、やっぱ遠いかも。少年小説はいろいろ読んできたけれど、こんなのは初めてだ。野蛮にしてリリカル。下品にして崇高。笑ったり顔をしかめたりしながら、本を読み終わったあと、甘酸っぱい思いにかられて、不思議に思うのだ。私たちはこんなに遠く隔たっているのに、と。
超自然的なできごとが、日常と地続きに書かれていて、読みにくいとはいわないまでも、慣れるまでに時間がかかるのは事実。子どもにとって、妄想とは現実をこえて真実に近いものだから、と解説しちゃうと無粋だけど、だんだんこの世界がリアルに思えてくるからおもしろい。殴り合いの連鎖とか、倒れるまで飲む酒とか、阿鼻叫喚のねずみがりとか、笑ってしまうほどの荒々しさも、男の子の目線ならではなのだろう。や、このあたりに関しては、むしろ、リアル描写でないことを祈りたいというきもちかも。
延命 ゆり子
評価:★★★★
なんとも不思議な小説だ。スウェーデンの奥地、人から忘れ去られたようなトーネダーレンという僻地で成長を遂げる少年たちの軌跡。ロック、友情、女の子。作者の自伝的な色合いが強く、すごく感動的な良い話のように思えるのだが、なぜか時々ホラ話が混じってくるのがはじめ良くわからない。ボイラー室に閉じ込められたら体が部屋に入りきらないほど成長していたとか、亡くなったおばあさんの幽霊のおちんちんを切り取る話とか……。何じゃこれ。
しかしそれが不思議に嫌ではないのだ。その壮大なホラ話が次第に心地よくなってくる。なんか……子供の頃雪に閉ざされた部屋の中で叔父さんの昔の話を聞いていたら、それがいつのまにかおとぎ話の冒険活劇に変わっていた、みたいな。「もう!叔父さん、嘘ばっかり!!」。そんな郷愁。伝わるか微妙だけども。
少年たちの成長譚と人を喰ったようなホラ話の匙加減が絶妙。昨今の北欧ブームとは一線を画する、ゴツゴツとした生身の北欧を感じることができる物語でした。
新冨 麻衣子
評価:★★★★
原題とはちょっと違うけど、この邦題いいですね。
スウェーデンの最果て、笑っちゃうほど田舎の村で、少年マッティと無口な友人・ニイラは、初めて聴くビートルズのレコードに心を撃ち抜かれる。「男らしさ」が重視される村の中で馬鹿にされても、二人はヘタクソなロックを奏でることをやめなかった……。果てない未来とシビアな現実の間で揺れながら成長する、二人の少年の物語。
ただ単にロックに恋した男の子たちってだけじゃない。これは現実と戦う男の子たちの物語だ。そしてそれは時代や環境に関わらず、誰もが通り抜けて来た物語。世界は自分が知らないことばかりで、「変わり映えのない日常」なんてなかった、そんな時代が自分にもあったことを思い出す。
小さくも印象的なエピソードの積み重なったこの物語の息遣いに、すっかり取り込まれてしまった気分です。
細野 淳
評価:★★★★★
舞台はスウェーデンの奥の奥。パヤラ村という、北極圏内にある小さな村。北極圏というと、トナカイやオーロラのイメージが頭に浮かんで、何となく良さそうな場所、などというイメージが浮かんでくるけど、実際にそこに住む人にとっては、そうも言ってはいられない。実際、ツンドラに囲まれた世界で生活していくような環境は厳しいものだし、小さな村では小さな村ならではの人間関係もあるのだ。そして本書の魅力の一つは、そのような世界の果てのような場所での生活ぶり。一族の威信をかけてのサウナでの我慢比べ大会や、春になり、凍っていた川の氷が割れる風景の描写、ネズミを大量に捕まえる方法など、普段の我々からはおよそ離れた、ここには世界が広がっている。
もう一つの魅力は、主人公たちの成長ぶり。世界のどのような場所でも、子供達は成長し、思春期を迎えることは、変わらない事実。酒や異性、そして音楽への目覚め。誰もが見な、同じような経験をしているのだろうが、そこにパヤラ村の田舎っぽさが入り込んできて、何とも言えずユーモラス。でも、そんなことがどんなにばかばかしい思い出でも、そこに滲み出る、故郷に対する懐かしさには心が打たれてしまう。大笑いした後での、心の奥底でこみ上げてくる悲しい気持ち。読後感は、まさにそんな感じだった。
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