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├2001年7月
├2001年6月
└2001年5月
落語娘
永田俊也
【講談社】
定価1680円(税込)
2005年12月
ISBN-4062132206
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
清水 裕美子
評価:★★★★
人生を賭けたくなるような閃きや喜びや感覚に巡り会う。それを一生のしごとにする。そんな個人的な感覚を共有させてもらえる醍醐味を満喫。
『落語娘』はその名のとおり、落語の世界に生きる香須美という女前座の物語。伝統芸能の世界ならではの苦労話もあったり、下世話な師匠に手を焼いたり、奇妙な噺を巡る怪奇譚でもあるのだが、落語に魅入られた瞬間の彼女にぜひ同化してもらいたい。
香須美は中学生の時、病気の叔父を見舞うため一心に練習した落語を演じる。『その感覚は不意に訪れた。消毒薬の匂いのする病室にいるのに、穏やかな清流に体を晒しているような不思議な心地よさ。……想像さえしたことのない吉原の町が、そこに居つく人々の姿が、頭にはっきりと浮かんでくる−。』誰かの人生がつなぎ変わった瞬間に立ち会える喜びに心が震える。
読後感:併録『ええから加減』。笑って、ほんのり泣いてしまう。
島田 美里
評価:★★★★
伝統芸能を鑑賞すると、タイムスリップしたような気持ちになることがある。表題作で描かれる落語もしかり。舞台は現代の東京なのに、雰囲気はすっかり江戸の町なのだ。天才噺家に憧れて、落語界に飛び込んだ香須美は、まさに紅一点。その魅力を例えるなら、東京女と江戸女のいいところを併せ持っている感じである。落ちぶれた師匠のことをバカにされても、女だからという理由で見下されても、前座として懸命にがんばっている彼女は、本当に健気だ。
そういえば大学生の頃に、落語研究会に入りたいと思って、部室を訪れたことがある。一升瓶がごろごろ転がっているのを見て、入部を踏みとどまったことを思い出した。男社会でのし上がっていくのは、酒瓶を踏み倒すくらいの勇気と根性が必要なのだ。
古くに作られた呪いの噺を物語の中心に据えているが、この作品の見所は怪談自体ではない。恐怖をも乗り越えようとする、噺家の心意気だ。併録の「ええから加減」に登場する女漫才師も含めて、彼らの芸に対する一途な想いがとても熱かった。こういうのを芸人魂っていうんだなと、妙に納得したのだった。
松本 かおり
評価:★★★
ヒロインの女前座・香須美が、男女差別日常茶飯事、旧態依然の落語界でさんざ苦労したあげく、遂に夢の真打へ……なんて、NHKの朝ドラみたいな陳腐な話かと思ったが違ってよかった。そんなツマラン小説なら途中でキレて投げとるわ、ホンマに。
本作品、「二度あることは三度ある」を根底にひたひた流しながら、40年間封印されていた「呪われた噺」ひとつで最後まで読ませる、けーっこうコワーイお話なのだ。「言葉にはな、霊が乗るもんだ」。師匠の一言に一段とゾクゾクッ。果たして師匠の運命や、いかに! クライマックスまでの助走がやや長いが、十分に盛り上がれる。
併録の『ええから加減』の主役は、女漫才コンビ。強烈な大阪弁のボケとツッコミ、揺れる私生活、どん底からでも這い上がるプロ根性。『落語娘』より泥臭いぶん、人間味とガッツにあふれている。私はどちらかというと、こちらのほうが気に入った。
佐久間 素子
評価:★★★
明治の名人が、書き上げた夜に頓死したという「緋扇長屋」。呪われた噺に挑んだ二人の落語家は、いずれも舞台上で命を落とした。そして時は現代、封印された禁断の噺にテレビ局が目をつけ、舌禍事件で干された異端の落語家・平佐に白羽の矢をたてた。
話を進めるのは、平佐のたった一人の弟子・香須美。男社会である落語界において、女性であるというだけでハンデを背負っているというのに、一匹狼の師匠は稽古の一つもつけてくれるわけでもない。落語にとっぷり魅せられて、プロの道を選びながらも、悩み多き日々を送っている。
禁断の噺の顛末も気にはなるが、香須美の情熱の行方も同じくらい気になるのだ。結局のところ、まっすぐな香須美、がちがちの正統派・柿紅はもちろん、食えない平佐ですら、落語に魅入られていることに変わりはない。芸というものは、きっと呪いなんかよりずっと強力に人を縛るのだろうなあ。やむにやまれぬ思いが、凡人にはただまぶしく感じられて、なんだか、久々にナマの落語をききたい気分。香須美がんばれ! 平佐ももうちょっとがんばれ!!
延命 ゆり子
評価:★★★
依然とした男社会である落語の世界。そこに気風のいい女前座、香須美がいる。舞台の裏では「女は使えない」とどやされ、体を触られ、後輩からもバカにされ、落語界のシンデレラ状態。けれど落語への情熱は人一倍だ。拙いとも思える一本気な落語への思いに胸が打たれる。仕事にここまで情熱を傾けられるなんて……エライなあ。
師匠はその毒舌ぶりで仕事も干され気味だった異端の平左。あるときその噺を語った二人が死んでいるという呪いの噺に挑む。平左はその噺にとり殺されることなく話し終えることができるのか!
……と、散々煽っておいてオチが弱いのが悲しい。真相って何なの。欲求不満です。プスプス。それに香須美は人情噺を得意とする人なので、ひたむきさやまっすぐさは伝わってくるものの、話自体は暗いし重い。かえって同時に収録されている「ええから加減」の明るさが良かった。女漫才師のコンビが主人公。ツッコミ役の濱子のダメ亭主との生活や上方演芸大賞を目指す過程も良いが、何より面白いのが漫才だ。典型的なボケとツッコミの漫才をテレビで見ているかのようなテンポのよさ。何もかもを笑い飛ばすような強さ。こちらの話の続きをもっと読みたくなってしまった。
新冨 麻衣子
評価:★★★★
中学生時代、伯父に連れられ初めて観た落語にすっかりハマった香須美は、大学卒業後、落語の世界に飛び込むが、そこは今なお完全なる男社会。セクハラと嫌みに耐えながら前座として腕を磨く香須美だったが、何よりもの頭痛の種は師匠・三々亭平佐…!?
どんな展開が来るのか予想できなくて、それだけに楽しく読めた。オチだけはわかってましたけどね。
落語が関わってくる小説はアタリが多い気がする。竹内真の「粗忽拳銃」とか佐藤多佳子「しゃべれどもしゃべれども」とか田中啓文の「笑酔亭梅寿謎解噺」とかさ。
併録の「ええから加減」は中堅の女漫才師を主人公にしたちょっと切ない話。デビュー作とあってか(オール読物新人賞受賞作)、最新作に比べるとストーリー展開も人物造形も粗いけど、パワーを感じる素敵な作品でした。
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