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└2001年5月
クローズド・ノート
雫井脩介
【角川書店】
定価1575円(税込)
2006年1月
ISBN-4048736620
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
清水 裕美子
評価:★★★
『犯人に告ぐ』でヤングマンの仕事に感動した。『虚貌』のトリック(?)にトンでもないなと呆気に取られた。
本作は雫井作品にしてはセンチメンタル? それは筆者あとがきにある本作の"成り立ち"から、そうなったのかもしれない。
文具店でアルバイトする教育学部の学生・香恵は一人暮らし。彼女の部屋に残されていた前住人の物らしい一冊のノート。小学校の先生の物だったらしい日記には子供達と接する日常生活と恋心が溢れている。ある日、香恵は自分のマンションの部屋を見上げる青年の姿に気づき……。
文具店の万年筆売り場でのアルバイト。マンドリンクラブの活動、友達の彼から告白されてしまう事件……そんな学生生活が丁寧に描かれ、最後は感動のメッセージタイムへ。雫井作品に期待した「底力」のような活力がなくちょっと肩透かし。携帯サイトで連載され大好評だったらしいです。
読後感:子供との手紙がハートウォーミング
島田 美里
評価:★★★★
変わった人がわかりにくい恋をするのって、文学的に思えたりするけれど、普通の感覚を持った人によるわかりやすい恋もいいなと思った。
主人公は大学生の香恵。でも、一番の主役は、香恵が引っ越し先の部屋で発見したノートと、そのノートを置き去りにしたかつての住人の伊吹である。小学校の教師である伊吹の言葉は、あまりに邪気が無くて、なんとなく天使をイメージさせる。
この物語では、万年筆が重要な小道具だ。伊吹の日記も万年筆でしたためられているけれど、生徒を想う気持ちや切ない恋心を、繊細な文字で表現しているところがとてもロマンチック。インクの種類だとか書き味が、持ち主のプロフィールに感じられて、自筆でモノを書くことに対するイメージが少し変わった。すっかりパソコンで文章を書くことが多くなった世の中だからこそ、このアナログな感覚は貴重だなと思う。
なんとなく展開が予測できるところもあったのだけど、永遠を感じさせる伊吹の言葉に触れると、そんなことはどうでもよくなった。正攻法の恋愛小説は、読んでいて気持ちがいい。
松本 かおり
評価:★★★★★
大学生・香恵の部屋から偶然出てきた、前の住人の物と思しきノート。そのノートに書かれた内容と香恵の日常が、絶妙に絡み合ってひとつの世界を作り出している。ノートの中味に触れるとネタバレになってしまいそうなのでやめておくが、書き手の暖かい心根が随所にうかがえ、仕事への熱意やさまざまな場面での喜怒哀楽を率直に綴った文章に、香恵と同じように強く惹かれずにはいられない。
物語の核となる、ノートにまつわる人間関係そのものは、意外にも読み始めて早々に見当がつく。しかし、そこで興醒めさせないのが本作品の底力。恋する者をとらえて離さない瞬間を、著者は丁寧に追い続ける。相手のちょっとした仕草や視線の揺れ、含みのある言葉遣い、流れる沈黙……。おかげで香恵の恋の行方にハラハラの連続。最後の最後まで隙のない、<端正>という言葉が似合う小説だ。
佐久間 素子
評価:★
本なりテレビなりで、ある程度、物語慣れしている人ならば、はじめの10ページを読んだところで、オチまで想像がついてしまうと思うのだけれど、いかが。お約束の物語は嫌いじゃないが、ベタな感動・恋愛小説はうまく酔えないと気もちが萎えてしまう。コドモコドモした主人公とはっきりしない男じゃ、共感も発見も難しかったし、そもそも、6人の登場人物で4つの三角関係だというのに、ちっともドロドロしないところが、私にはうさんくさかった。そして、読んでいて最もきつかったのは、組み合わされた三角の端にいる脇役二人の薄っぺらい悪役ぶり。話を複雑にするための捨て駒? 引き立て役? いずれにせよ、中身のない人間が出てくる小説は、それだけで退屈だと思ってしまう。ああ、悪口というのは言い出すと止まらないな。
万年筆をめぐるエピソードは、読んでいて楽しかった。携帯サイトという媒体で連載されていたことを考えると、こういうレトロなアイテムが、かえって新鮮にも感じられるかも。なんて、とってつけたようなフォローで、お茶を濁してみる。
延命 ゆり子
評価:★★★★
時間がゆったりと流れている。主人公の性格からくるものか、それが作者の味なのか。物語の雰囲気が非常にゆるやか。のんびり。ほのぼの。あたたかい。陽だまりの中にいるようで、豊かな気分にさせられる小説だ。前半の万年筆の詳しいくだりは本筋にはさほど関係がないけれど、万年筆を試し書きしながら丁寧にゆっくりと時間をかけて選ぶと言う行為は、非常に豊かな時間のように思えて、こちらまで温かくなる。
マンドリン部に所属する大学生の香恵はアパートに一人暮らし。ある日その押入れに一冊のノートが残されているのを発見する。そのノートには小学校で子供たちを教えている伊吹先生の瑞々しい生活の記録が残されていた……。一応本筋は日記の主を探すと言うミステリーではあるものの、殺伐さからは程遠い。ほのぼのとした春のような小説。人畜無害です。
新冨 麻衣子
評価:★
先に言い訳するようだけど、わたしはこの人の作品はこれまで全部読んでて、『犯人に告ぐ』を頂点として、なかなか読み応えのあるミステリを書く人だと思ってる。
しかし結論から言えばこの小説、キビシい。
全体的に細かいエピソードやキャラクター設定が陳腐。とくにキャラクターはキビシい。主体性がなくて天然系の主人公もどうかと思うが、彼女が留学したとたん彼女の親友を口説く男とか、新進イラストレーターを我がもの扱いして「デキル女」オーラまき散らす広告代理店の女とかさ……。細かいエピソードに関しては突っ込みだすと切りがないし意味がないので止めておくけど。でもね、これはイタイよ。著者がいろんなジャンルの小説を読んでないことがバレバレだし。何より『犯人に次ぐ』で過去最高に上がった著者の株を落とすようなこの作品を出す版元はどうなの?
あと作品には関係ないけど、カバーイラストが佐藤多佳子の『黄色い目の魚』とそっくりですね。同じ人が挿画を担当してるから当然……?
細野 淳
評価:★★★
これぞ恋愛小説の王道。という感じの物語。はっきり言って、このような小説はどうにもこうにも苦手で、普段はほとんど読みません。ただ、たまに読んでみると、新鮮さを感じてしまうこともまた事実。
主人公が、住んでいたマンションでたまたま発見してしまった古い日記。どうやら、以前に住んでいた人の物であるらしい。その日記を発見したときから、主人公の何気ない人生は、大きな展開を見せ始める……。
日記を書く人って、皆、一体どのくらい自分の気持ちを、率直にその場に吐き出させているのでしょうか? ほとんど書いたことの無い自分には、そこら辺が良くは分かりません。でも、そのような日記の描写の部分で、一番良かったと思えるのは、不登校になった小学生とのやり取り部分。作者の亡くなった姉の日記をそのまま引用しているようで、現実感がその部分だけ妙にある。但し、その他の、好きな人のことを綴った文章は、読んでいてどうにもこうにも居心地が悪くなってしまう。きっとこういうのには、心から嵌れる人と、自分のような感情になってしまう人、まったく何にも感じない人などなど、色々といるのだろう。直球勝負の恋愛小説を読みたい人には、是非ともお勧めする本です。
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