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勝手に目利き
単行本班
文庫本班
the TEAM
the TEAM
井上夢人
【集英社】
定価1785円(税込)
2006年1月
ISBN-4087747956
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清水 裕美子
  評価:★★★★

 テレビで視聴率を稼ぐ霊導師・能代あや子。その彼女の高的中率な霊視を支えるチームの物語。そう、彼女はテレビ番組の企画のニセ霊能者なのだ。
 持ち込まれる悩みが相談対象となることが決まれば、相談者は「マル対」として徹底的に調査される。家捜しにネットを駆使した(違法)調査。結果、明るみに出るのは相談者が巻き込まれていた犯罪の暴露であったり、家族との確執解消であったり、誰もが満足する結果となる。がんばれ!と霊能チーム(?)を応援したくなる。
 8つの短編はミステリーとしては軽い仕上がりかもしれないが、誰かを調査するにはこんな手段があるのだという好奇心を満たしてくれる。例えば、巨大掲示板に出てくる攻撃文句「串打ってやる!」とは何のことか等等。面白い!
読後感:美しい潮合です。

  島田 美里
  評価:★★★

 真実こそすべて!と、思えるミステリーだった。
 テレビ番組で相談者の悩みに答える能城あや子は、偽物の霊能者である。確かに調査スタッフを使ってはいるけれど、悪人ってわけじゃない。家族のわだかまりや殺人事件を解決する彼女たちは、まるで幸せを運ぶ探偵集団だ。普通は、インチキを暴く者を応援するものだけど、なぜかインチキしている人を応援したくなる不思議な話だった。それにしても、あや子の情に流されないドライな性格はいいなと思う。何よりも真実が好きだという感覚は、何だか刑事や裁判官みたいだ。偽物なのに誠実という矛盾がちょっと面白かった。第六感を刺激するような話が受け入れられる今の世の中、真実以外はいらないというスタイルは、逆に新鮮かもしれない。
 的中率100%のあや子に相談してみたい気もするけれど、私には無理だと思う。いくら悩みを解決してくれたところで、不法侵入されるのは嫌だからだ。もし、散らかった部屋を目撃されたら? その精神的苦痛は、問題解決の喜びを上回るのか?なんて、細かいことを考えてしまうのである。


  松本 かおり
  評価:★★

 タイトルの『ザ・チーム』どおり、盲目の能城あや子を、卓越した情報収集能力による事前調査で有名霊能力者にでっちあげる抜群のチームワークは認めよう。テレビ局のヤラセ事情も、そんなものだろう。しかし、<ネタバレ前提>ではミステリー気分は薄い。
 事前調査では判明しなかった「真相」もただの結果報告で、あっさり片付けすぎ。情報のためなら手段選ばず、とばかり、まるで正当な行為のように不法侵入に頼るのも、すっきりしない。能城あや子の霊視をインチキ視し、暴露記事を狙う雑誌ライターが、多少なりとも波風立ててくれるのがせめてもの救い。
 最終章に至っては、もうこうするしかないよなぁ……という展開で、苦し紛れの強引な閉店、ドタバタ感まで漂う。しかも、あまりにも簡単なご都合主義的<結果オーライ!>には口あんぐり。すべてを丸くおさめようとしたのが、かえって裏目に出たのでは……。 

  佐久間 素子
  評価:★★★

 マスコミにひっぱりだこの霊導師あや子。的中率の秘密は、相談者の身辺を徹底的に調査するスタッフの存在だった。実働部隊の二人が有能すぎて、ほとんど荒唐無稽の域なのだけれど、偽霊能者が隠されていた真実を明らかにするという設定が楽しい連作短篇集である。もともと事件が見えていないって所がミソで、霊視で食っているくせに、「この世には不思議なことなど何もないのだよ」的な態度で相談者に挑むチームの面々が、妙に頼もしい。ちなみに、あくまで調査によって真実が解明されるのであって、凝った謎解きが披露されるわけではないのでご注意を。執拗にあや子をかぎまわるフリーライターを配したり、後半、チームの身内の過去が明らかになったりと、連作としてはセオリーどおりで飽きさせない。鮮やかな撤収がさわやかで、後口も上々。ただし、結構ムリめの展開なので、考えこむのは御法度。そんなわけで、気軽に暇つぶししたいときなどにどうぞ。

  延命 ゆり子
  評価:★★★★

 盲目の怪しげな霊導師、能城あや子。真っ黒なサングラスをかけ、招霊木の枝を振り回しながら人々の悩みを聞き、問題点をズバリズバリと解決、時には犯罪も暴いてゆく。しかしその能力は真っ赤なニセモノだった。彼女を支えるチームの徹底的な相談者への調査が、能城あや子の霊視をサポートしていたのだ。
 犯罪すれすれのこのチームがやたらカッコいい! 「霊なんているわけないだろ」と言い切る能城あや子。なにやら犯罪に関わる過去を持ち、不法侵入空き巣や聞き込み何でもござれの草壁賢一。ハッキングやネット詐欺の技術は天下一品の藍澤悠美、世間を欺き続ける霊導師能城あや子を誕生させた張本人で全てを取り仕切る鳴滝昇治。それぞれの担当分野が明快で、なんだか特攻野郎Aチームみたいだよ。古い?
 特化した能力を持つプロの調査チームが、社会に巣食う魑魅魍魎どもにメスを入れてゆく。その図式が何ともたまらぬ、痛快なミステリーでした。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★★

 タイトルの<the TEAM>とは、TVでも人気の霊媒師・能城あや子とそのサポートスタッフの「チーム」である。あや子のマネジメントをはじめチーム全体の指揮を執る鳴滝、調査対象者の尾行から家宅侵入までこなす賢一、主にネットを中心とした情報収集を行なう悠美。……そう、能城あや子は完全にパチモンの霊能力者なのだ。とはいえこのスタッフの完璧な仕事ぶりゆえ、当然ながら的中率は高く、あや子の人気は高まる一方だ。このチームが関わることになった様々な事件が、テンポよく痛快に描かれた連作短編ミステリ。
適度な人情とチームの鮮やかな仕事ぶりが読んでいて楽しい。それぞれに後味がいいからもっともっと読んでいたいような気になるが、ラスト2編でこの物語全体を上手くまとめてあって、とても満足。物語の終わらせ方もまた、鮮やかでした。

  細野 淳
  評価:★★★★

 よくあたるともっぱらの評判でテレビなどでもひっぱりだこである霊能力者、能代あやこ。しかし、実はいんちきで、事前に相談者の過去や私生活を調査して、上手く対応していただけ。……なんだか、いかにもありがちな話ではあるが、その調査振りが徹底していて、またスゴクて、なおかつ面白くて読ませるものだから、良しとしよう。
 実際ではこの作品の上では、能代あやこは、どちらかといえばおまけみたいな存在。その背後で様々な動きをしている人たちが、物語ではスポットライトを浴びているのだ。そこには、能代あやこ専属の調査隊のような人物もいるし、いんちきを見破ろうと、色々工作しているゴシップ誌記者のような人もいる。そして、そんな人同士での裏の世界での互いの心理を読むかのような駆け引き……。そして最後には、能代あやこは謎の存在のまま、世の中からぷっつりと姿を消して、物語は終了。カリスマのような存在として突如世の中に現れ、そしてぷっつりといなくなる。ベタかも知れないけれど、一ページ一ページめくるのが、とても楽しくなりながら読むことができた作品。

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