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ムンクを追え!
ムンクを追え!
エドワード・ドルニック
【光文社】
定価1785円(税込)
2006年1月
ISBN-4334961878
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清水 裕美子
  評価:★★★

 「美術品泥棒といえば、昔はどことなくスマートな印象があった……最近は……かつての紳士のスポーツといった印象はない」。なぜ名画を盗むのか? 捌きにくい戦利品も犯人にとっては自慢できるかどうかが重要なのだそうだ。巨匠による傑作名画を盗めば一躍その世界のヒーローになる。かくして捜査側は、右や左に飛び回るボールのような名画を国境を越えて追うことになる。
登場するのは盗まれたムンクの『叫び』を追うロンドン警視庁美術特捜班チャーリー・ヒル。上司がヒルに問う「『叫び』が盗まれた……われわれが力になれると思うか」。カッコいい!
 捜査官ヒルは様々な経歴を持つ囮捜査のプロ。しかしその性格は二面性を持つと描写される。捜査官と学術肌という対比が面白い。名画が泥棒の手に落ちると人質を取られたようにデリケートな絵の扱いにやきもきする。乱暴にハシゴの上から絵を滑り落としたりされるので。インタビューを元に構成されたノンフィクションだが、手に汗を握るストーリー。
読後感:えーーー!? あとがきは優れたオチのようです。

  島田 美里
  評価:

 訳者のあとがきに「ノンフィクションとは思えぬおもしろさ」とあるが、本当だった。ムンクの『叫び』盗難事件を中心とした絵画盗難の実状だけでなく、著名な画家の経歴にも触れてあり、知識欲を満たしてくれる。世界の名画が、こんなに簡単な方法で盗めるのかと驚いた。これを読んで模倣するバカが出てきやしないか? 決してまねはしないでくださいと、本のどこかに注意書きしてほしいところだ。
 それにしても許せないのが、美術窃盗犯の悪質さ。動機がくだらなさすぎる。ひとりくらい、この絵が好きでたまらなくて盗みました!って奴がいてもいいのに。そんな奴らに立ち向かうのが、ロンドン警視庁美術特捜班のチャーリー・ヒルという人物。彼は囮捜査の達人だが、服装から喋り方にまでこだわるところは、俳優の役作りと変わらない。もし何かの映画に出演したら、この人ホントに素人ですか?と本気で疑われると思う。
 著者が、ヒルを見つけたときは、スターを発掘したスカウトマンの気持ちだったのではないだろうか。この作品が魅力的なのは、著者のインタビューのテクニックもあるけれど、ほとんどヒルのお手柄だ。

  松本 かおり
  評価:★★★★★

 約86億円の世界的名画・ムンク『叫び』盗難事件。犯人が要した時間はわずか1分たらず。道具はハシゴと手袋、金槌、ワイヤーカッターだけ。信じられない。他にも被害額100億円超の有名絵画が世界各地で盗難に遭っており、しかもいまだに行方不明とは。
 本書の主役は、ロンドン警視庁美術特捜班のチャーリー・ヒル。囮捜査を得意とする盗難名画回収のプロ中のプロ。上司にも遠慮なく噛みつき、出世の階段が現れるたびにぶち壊し、「あらゆる点でアウトサイダー=v。こんな型破りの男が窃盗犯やギャングと対峙し、外国人にさえなりきる巧みな変装と芝居でしたたかに駆引きするスリル! ムンクの生涯、窃盗犯の意外な動機、盗難美術品の複雑な流れなどと合わせて読み応え十分。
 「訳者あとがき」には、「ノンフィクションとは思えぬおもしろさ」とあるが、私はあえて、ノンフィクションだからこそのおもしろさ、と強調したい。

  佐久間 素子
  評価:★★★

 以前から、なぜ名画が盗品として狙われるのか不思議に思っていたのだ。だって、全世界の人が盗品だと知っているものを、どうやって転売するの。答え。美術品犯罪はつかまっても刑が軽く、成功すればその世界での名誉が高まる。警備が甘いから盗むのはたやすく、たとえ安値で叩き売っても儲けは儲け、なんですって。わかったようなわからんような。ともかく、私たちの想像以上に、美術品は危険にさらされているのだ。
 美術犯罪捜査を題材にしたノンフィクションである。 ロンドン警視庁美術特捜班の敏腕捜査官へのインタビューをもとに書かれたとあって、大ネタがてんこもりだ。さすがに記述はあっさりめだが、知られざる美術犯罪の実態は、本当にこれ実話なんですか、と目を疑うばかり。不謹慎だが、囮捜査という言葉だけで、すでに興味津々なのである。ムンク奪還からすぐに話がそれてしまうので、一々気がそがれてしまうのが難だが、脱線は脱線でスケールのでかい話がごろごろ。この本の題材をもとに一体いくつのフィクションが書けることだろう。

  延命 ゆり子
  評価:★★★★

 「美術犯罪」と聞くと不謹慎ながらなんだかワクワクしてしまう。厳重な警備をかいくぐり知能と鮮やかな技術で古典的名画を盗み出す窃盗団に、ある種憧れの気持ちを抱いてしまうのは漫画の読みすぎであろうか。
 この本はそんな(?)美術窃盗犯を追いかける囮捜査官チャーリー・ヒルの経験を基にした実話だ。その骨太なストーリーはまさに事実は小説より奇なり! 犯罪者と紙一重のあまりの無謀さ、天才的な判断力、とっさに嘘をつけて機転を働かせられる知力。様々なセンスを併せ持ち、一つ何かをとちっただけで頭を吹き飛ばされるような現場へと身一つで突っ込んでいくヒルの何と魅力的なことよ! 危険すぎる状況を楽しんでいるヒルに目が離せない。
 そして美術に関するアカデミックな記述も魅力的。ムンクの精神的な苦悩、美術犯罪の歴史、お粗末な美術館の警備体制、警視庁の無能ぶり、はたまた美術窃盗犯の計画も何もなく力ずくで獲物をかっさらうギャングたちの意外な実態など、膨大な豆知識を得られたのも収穫だった。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★★

 ストーリーの軸はサブタイトルどおり、加えて過去の有名な絵画窃盗事件のエピソードなどもたくさん織り込まれた、かなり読み応えたっぷりな一冊。
 なんといってもチャーリー・ヒルです。これまでも美術品盗難事件においてはその腕が認められている囮捜査感で、『叫び』奪還においても犯人と直接交渉を行なうなど重要な役割を演じるのだが、まるで映画や小説から抜け出したようなそのキャラクターといったら! イギリス英語もアメリカ英語も切り替え自由、変装も得意で、美術品に関する造詣も深く、持ち前の度胸と機転のきいた会話で、犯人をだまし盗品をたぐりよせる。
 ただし一匹狼タイプで上司ウケは悪い。一方で事件解決時にはヒロイズムに浸っちゃったりしてなんか憎めない。完璧な主人公キャラだよ。
 絵画盗難事件なんてあまり身近ではないけど、このドラマチックなノンフィクションにはすっかり魅せられてしまいました。
 ただ難点をいえばあまりに話題を詰め込み過ぎで、スリリングな本筋に集中できないことか……。

  細野 淳
  評価:★★★★

 1994年、リレハンメルオリンピックの先日にムンクが盗まれた。……何となくではあるけれども、そのような出来事があったことを覚えている。名画にはそれほど詳しくないけれど、ムンクの「叫び」くらいはさすがに自分でも知っている。そんな絵画を取り戻すために活躍した、チャーリー・ヒルという人物にスポットを当てているのが本書。
 この人、ムンクの「叫び」だけではなく、フェメール「手紙を書く女」を始めとした、数々の美術品の回収に成功した、言わば盗難美術回収のプロ。そんな人物が、本当にいるのか、と感心し、同時に憧れてしまう。盗難美術を回収する手段もスゴイ。大金持ちの美術商に成りすますなどして、巧みに犯罪集団のネットワークに溶け込み、美術品ありかを掴んでしまうのだ。
 こんな本を読んでいると、こちらまで何だかワクワクしてしまう。冒険心を味わいたい人には、是非ともお薦めしたい一冊。

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