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├2001年7月
├2001年6月
└2001年5月
雪屋のロッスさん
いしいしんじ
【メディアファクトリー】
定価1165円(税込)
2006年2月
ISBN-4840114935
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
清水 裕美子
評価:★★★
何気なくタイトルの「ゆきや」と打ち込んで雪屋と変換できないことに驚く。そう、雪屋って普段使わない言葉だったのですね。
30種類、何かの職業を持って社会と関わる市井の人たち、動物、物(……バケツとか)。そこに登場するのは大工さん、コックさんから、プロバスケット選手、犬散歩さんまで。数ページに描かれる物語はちょっと不思議でピリリと痛い。トーンは喪失とほんの少しの再生。
例えばポリバケツの青木青兵は誇り高い生ゴミ担当として自分にも他人にも厳しく生きてきましたが、犬助けの負傷により流転の人生の末、宝バケツに落ちぶれてしまうのです。ああ。
主人公を突然襲う不条理に人生を重ねるもよし、立ち直る強さに微笑んでみるのもよし、痛みを伴う展開に「ひどいー」と腹を立ててみるのもよし。
装丁の雪のイメージの○と一遍ごとのタイトルの濁点「・」の丸、柔らかい紙の手触りとグレーの文字は、手にとって撫でたくなります。ゆるゆる手触りの丸ーい本なのです。
読後感:厳しいけれどゆるみます。
島田 美里
評価:★★★★★
2枚一緒にめくったりしていないか、念入りに確かめながら読んだ。どの話を読み終えるときも名残惜しかった。この30編の物語は、いずれも数ページという短さだけど、たった1行でひとりの人生を表現してしまうほど内容が濃い。無駄がなくて美しい、大人も子どもも楽しめるおとぎ話風ショートショートだ。
著者の作品を字面だけパッと見ると、温かくてやわらかだなあと感じる。しかし、そのソフトな印象の裏には、ハッとするような鋭さもある。「ポリバケツの青木青兵」は、青色バケツの青兵が主人公。漂流しながらもバケツとしての誇りを忘れない青兵に、アンデルセンの「すずの兵隊」に出てくる、一本足の兵隊のイメージが重なった。そして、「しょうろ豚のルル」は、天涯孤独の少年と豚のルルのお話。少年に寄り添うルルに、「フランダースの犬」のパトラッシュのような健気さを見た。
極上のネタをこんなに使い切って、作者はもったいなくないのだろうか? 珠玉の短編集という言葉は、このような本にこそ使いたい。
松本 かおり
評価:★★★★★
本書は、1冊の本、というひとつの<物>として、とても魅力がある。ただ置いてあるだけでも、そこにひとつの独特の世界があることが感じられる。内容・装丁・活字のかたち・ページの紙質、そんなさまざまな要素が、みごとなバランスを保っている。ページ下部両端にまで、洒落た、遊び心がうかがえるデザインがなされているのだ。本として、完璧なまでの完成度。私の場合、長く手元に持ちたい本とは、こういう本をさす。
表紙をめくると30種類の小さな暮らしが並ぶ。働くこと、生きることの喜怒哀楽を描きながら、決して重くならずユーモラスでさえある。この空気感は、いしい氏ならでは。短くシンプルな物語たちだけに、自由にイメージに浸り、思い巡らすことができ、何度再読しても飽きない。「鉛筆の字をこしこしと消す」「サッカーボールがてんてんと転がってくる」「雪ウサギがスンスンと足跡を残していく」……。素敵な<いしい・ワールド>だ。
佐久間 素子
評価:★★★★★
ふわふわした童話みたいな筆致で描かれる、当たり前みたいな不思議な世界。この短篇集には、そんな世界の中で、自分の仕事に誠実に向き合う人々(物々)の、つつましやかな生き方が集められている。数ページしかない短編に、よくぞこれだけの温かさをこめられたものだと思う。一度に読むのはもったいない気がして、眠る前に惜しみつつちびちび読んだ。幸せでした。
八百万の神々の細かい要求になやまされる「神主の白木さん」に笑い、「コックの宮川さん」の尊敬するじゃがいもの勇気に涙する。誠実という資質は、なんと尊いのだろう。その尊さは決して近寄りがたい物ではなく、きっと、「風呂屋の島田夫妻」のわかす黄金色のお湯のように肌になじむ近しさなのだ。ああ、忘れていた。仕事というものはすべて、他人を幸福にし、自分を満たすために存在するのだった。実用的な職業小説とはまったく言えないけれど、こういう話はいつか心の中で芽を吹くに違いない。私だったら、教科書に採用するけどね。
延命 ゆり子
評価:★★★★
どこかの不思議な町で、様々な職業の人たちが織り成す少し不思議な物語。警察官、クリーニング屋、コック、果物屋、なんていうお馴染みの仕事もあれば、雪屋、犬散歩、雨乞い、しょうろ豚、ポリバケツ(?)なんていうよくわからない職業まであって楽しい。それぞれのおはなしはごく短いものの、至極まっとうな登場人物たちに襟を正され、胸がほっこりと温かくなる。それぞれの仕事のプロたちがつむぐ味わい深いおはなし。大人のための良質なおとぎ話、といった風情である。現実逃避にはもってこいだ。装丁も、文字の書体も、雰囲気に合っていて良かった。じっくりと時間をかけて味わいたい世界でした。
新冨 麻衣子
評価:★★★★★
30もの様々な人々の「営み」を優しく描いた短編集だが、単なるお仕事小説ではない。それぞれの「営み」は、それぞれの「人生」。優しくも時には残酷なまでに切ない童話チックないしいしんじの世界を通して、たくさんの素敵な人生を味わうことが出来る。
鳥顔と猫顔の警察官コンビに笑い、最高のエンターテイナーとしてリングにすべてを置いてきたボクシング選手に拍手、棺桶セールスマンの身に起きた予想外の悲しい出来事に切なくなり、ラストに変身を遂げた犬散歩人にニヤリとし、浜辺のゴミからつくりあげた玩具を海に流すその理由に泣きそうになり、立派な街道人生にまた拍手。
特に忙しい時こそ、息抜きにちょこちょこ読むのにぴったりな作品だ。それぞれが短いこともあるけど(短いものは2ページくらい)、「がんばろう」という気になれる。素敵な短編集でした。
細野 淳
評価:★★★
本書に出てくる職業は実に多種多様。サラリーマン・床屋・コックなど普通に見かける職業から、雪屋・似顔絵描き・玩具作りといった、何ともロマン溢れることを仕事にしている人たち、はたまたポリバケツ・しょうろ豚・犬散歩とちょっと謎なものまで、いろいろとある。短い話が三十話収められていて、微笑ましかったり、ちょっと悲しかったりと、物語の内容も様々だ。
個人的に良かった作品を二つ。「大泥棒の前田さん」は、盗みの天才の前田さんが、意外にも粋で優しいところを見せる姿が魅力的。「見張り番のミトゥ」では、臆病者のミトゥが、自分の弱さのために起きてしまった悲劇を乗り越えて、強くなっていく姿に心打たれる。
登場人物は皆、自分の職業に一途で誇りを持ち、それでもって人間的な優しさをもっている人たち。胸の奥がそっと暖かくなるような気持ちになりながら、ページをめくることができる作品。
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