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安徳天皇漂海記
安徳天皇漂海記
宇月原晴明
【中央公論新社】
定価1995円(税込)
2006年2月
ISBN-4120037053
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  島田 美里
  評価:

 歴史小説をあまり読まないので、正直言うと一読しただけではその面白さがわからなかった。しかし、じっくり味わうように読んでみると、歴史と幻想世界が美しく絡み合っていることがよくわかった。
 第1部の舞台は、鎌倉時代。源実朝は、琥珀の玉の中に封じ込められている童子と遭遇するが、なんとその童子がタイトルにもなっている安徳天皇である。死後も何かを訴え続けるような怨念が描かれているのに、不思議と怖くなかった。それどころか、琥珀の玉の美しい描写に、うっとりさせられた。第2部で、舞台は南宋時代の大陸へ移る。マルコ・ポーロが歴史の見届け人というところに、スケールの大きさを感じる。南宋皇帝と安徳天皇の砂浜の語らいでは、不遇を受けたもの同士にしかわからない絆を感じて、ふたりいっぺんに抱きしめてあげたい!と思った。
 源実朝、安徳天皇、南宋皇帝と、無念の一生を終えた彼らの想いを、怖がらずに感じ取ることができる作品だった。生々しい魂も美しい文章で覆われていると、読んでいるこちらもちっとも苦痛じゃないのだ。

  松本 かおり
  評価:★★★★

 不思議な力と美しさにあふれた物語。史実の追及と解読に凝り固まらず、史実と想像の世界を大胆にからみ合わせ、時に豪華絢爛、時に幽玄、時に妖艶に展開する歴史絵巻の趣。   
 本書第一部では、『吾妻鏡』を軸に、『愚管抄』『承久軍物語』『唐大和上東征伝』などの一節と源実朝が詠んだ歌が登場する。私は著しい日本史音痴で古典無知。物語のキモである安徳天皇と源氏の関係もチンプンカンプンなら、実は源氏と平家の間に何があったのかもあやふや。それでも、わからんならわからんなりに内容についていくことができ、楽しめたのは、十年以上も実朝の側に仕えたという「私」の語りの巧さが大きい。
 特に好きな場面は、第二部・第2章「うつろ舟」、海岸での少年ふたりの出会い。少年達は、おそるおそる意思の疎通をはかる。どうなることか……とはらはらするも、親しくなるきっかけがなんとも粋。満面の笑顔で戯れるふたりが見えるようだ。 

  細野 淳
  評価:★★★★★

 text壇ノ浦の合戦で、入水自殺した安徳天皇。その天皇が、実際には神器によって守られ、生きていたというのが物語の設定。ただし、生きているとは言っても、実際には話すこともできずに、ただ不思議な玉にくるまれてじっとしているだけ。人々が見る夢を通じて、何かを訴えてくることぐらいしかできないでいるのだ。
 第一部では源家最後の将軍となってしまった源実朝、第二部では宋代最後の皇帝が、安徳天皇との出会いを果たす。この三人、皆歴史に翻弄され、悲劇的な最後を遂げている人物たち。そんな者同士だからこそ、通じ合うものがあるということ。スケールの大きな作品だが、そこに漂う物悲しさも、また大きい。
 「祇園精舎の鐘の音 諸行無常の響あり…」本書でも何回も引用されている、平家物語の出だし部分。この唄の味わいがまさにピタリとはまる作品。そんな物語を、本物の歴史の中から上手く紡ぎ出した、作者の構想力。想像力に感服。

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