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勝手に目利き
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文庫本班
盗作(上下)
盗作(上下)
飯田譲治・梓河人
【講談社】
定価各1260円(税込)
2006年1月
ISBN-4062132923
ISBN-4062132931
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清水 裕美子
  評価:★★★

 衝撃的なタイトルだがミステリーではない。テーマは「創作」とは何か。エンタテインメント豊かに描かれた物語。
 イメージが降りて来る、キャラクターが動き出す、創作に没頭する描き手はそんな風に「その時」を表現する。しかしその降りてきた何かが自分だけにではなかったなら……発表の順序により作品は盗作だと断定されてしまう。たとえ自分で作り出した作品だとしても。
 女子高生の彩子(サイコ)はある夜、走る男のイメージを夢に見る。夢中でキャンバスにそのイメージを描くと、周囲の圧倒的な賛美を得てあれよあれよと言う間に特別な賞を受賞する。しかし画家志望の同級生・紫苑はその絵が別の作家のモザイク作品として存在することをインターネットで見つけてしまう。彩子は一転して盗作者として非難を浴びることになる。
 彩子の身の上には3度の創作の夢が舞い降りる。賞賛から一転、名誉を剥奪される体験は2度目3度目の夢を形にするべきか読者をハラハラさせる。著者は彩子に起こった出来事をシンクロではなく別の原因だと仮定する。「……あなたが変われば、あなたの見ている絵も変わる……」紫苑の語る親和性、その潮流は暖かだ。
読後感:絵と音楽と小説の描写が豊か。

  島田 美里
  評価:★★★★

 芸術家を志している人は、これを読んだら怖くなるかもしれない。直感だけで芸術を生み出せるのならば、努力するのってあほらしい。
 平凡な高校生・彩子は、不思議な夢にインスパイアされて、誰もが絶賛する絵を描く。努力をしていた訳でもないのに、一流の芸術が生み出せるのか?と、疑問を持ったけれど、この作品のテーマはインスピレーション。あえて、芸術に縁のない主人公にしたのだと納得した。偶然誰かの作品と一致していたという盗作疑惑の浮上に、オカルトチックな気配を感じたけれど、オチは全く予想できなかった。
 今まで、一発屋に対して否定的な感情を持っていた。たまたま直感が当たっても1回きりじゃ芸術家とは言い切れない。だけど、コンスタントに80%のものを提供し続けるより、まぐれでも世界中の人に100%の完璧な作品を提供できるのであれば、たとえ一発屋でも本望なのかもしれない。ただ、何かを生み出す高揚感を二度と味わえないのは芸術家として寂しくはないだろうか。創作の喜びって一体なんだろう?と、読んでしばらくたった今も、考え込んでしまう。

  佐久間 素子
  評価:★★

 平凡な彩子を一夜だけ襲った創作の衝動は、とてつもない傑作を生みだした。しかし、自らの内から生まれたはずのその作品は、別の天才が過去に作り出した作品と瓜二つだった。盗作という汚名にさらされ、存分に傷ついた彩子に、またも、その瞬間が訪れる。
 確かに続きが気になる面白い小説なのだが、読んでいて楽しいとは思わなかった。ストーリー以外に語るべきところがない感じ。まあ、それが読みやすいという評価にもつながるのだろうけれど、少々物足りないのは事実。そして、これは、はっきり個人的な好みだけれど、オチが完全にアウト。えええ、そっちの世界にいっちゃうの〜と、完全においてきぼりにされてしまった。感受性豊かな紫苑を対峙させることで、本書の主人公が彩子でなくてはならなかった理由には納得させられたけれど、こういう「才能」とこういう「芸術」を認めるにはいたらなかった次第。面白いと好きは両立しないのねと、我ながら変なところで感心してみたり。

  延命 ゆり子
  評価:★★★

 さびれた旅館の長女・彩子はどこからどう見ても平凡な女子高生。そんな彼女がある天啓とも思える衝撃的な夢を見たことで全てが一変する。そのイマジネーションに突き動かされ彩子は一晩で絵を描きあげた。それは見る人の誰をも感動させる傑作だった。彩子の思いとは裏腹にその絵は一人歩きをはじめ、あるコンクールに出品することになるのだが……。
 息をつかせぬ展開で、それからどうなるの?という好奇心だけでぐいぐい読まされてしまう。完璧な芸術、というのは映像で見せるのはかなり難しいと思うけれど、小説はそれができるのが良いですよね。創作の神が降臨したときの生生しい描写には迫力がある。しかし、この内容で2冊組みにする必要性はあったのか。疑問を感じる。アイディアの一発芸という気が無きにしも非ずなり。むしろ短編程度にまとめた方がテンポが出てよかったのではないかと思われました。

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