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忘れないと誓ったぼくがいた
忘れないと誓ったぼくがいた
平山瑞穂
【新潮社】
定価1470円(税込)
2006年2月
ISBN-4104722022
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清水 裕美子
  評価:★★★

 タカシの手元にあるハンディカメラのテープに残る女の子の映像。その子についての記憶は曖昧。その子の名前は織部あずさ、とノートに自分が書いたはずの記録が残る。モドカシイ書き出しから始まるが、どうやらそのモドカシさは彼女の秘密に由来するらしい。
 高校生のタカシは手元の記録から精一杯の言葉で自分の恋を語る。あずさがアルバイトするメガネ店での出会い、高校の屋上での再会、学校をサボって遊園地デート。そして最後のシーンまで怒涛の勢いで進む。怒涛なのはタカシの激しい感情とノートに記録を取る筆圧ゆえ。
 この小説は短編映画のように映像的で、SFというより瑞々しく、恋人の死の物語より軽やかだ。他愛のないあずさとの会話のやり取りがとてもいい。好きな女の子と話しながら「!」と自分についても発見してしまう描写がとても楽しい。遊園地で好きな音楽の話で盛り上がり、CDの選び方が「ジャケ買い派」だと気付くところ。一緒にメガネフレームを選ぶくだり。設定ありきで破綻させないよう気遣う進行より、もっと幸せな場面を存分に読みたくなる。ちょっと勿体ないです。
読後感:映画化?

  島田 美里
  評価:

 なんとなくプロットを読んでいる感じがしたけれど、テーマにはとても共感した。
 高校生のタカシが恋をしたあずさは、自分の意思に反して、存在が勝手に消えるという特異な体質の持ち主。この作品のすごいところは、死ぬこと以上につらい状況を描いたという点だ。姿だけでなく、周りの人々から自分にまつわる記憶も消えてしまうという設定が、とても目新しかった。
 人間は生きた痕跡を残したがる生き物だと思う。だから、子どもを作ったりだとか、芸術家なら作品を残したりして、なんとか自分のことをより多くの人の記憶にとどめておこうとする。たとえ何も生み出さなくても、普通にしていれば家族や恋人など身近な人の記憶に面影を残すことはできるのに、それさえも許されないとしたら、たぶん死んでも死にきれない。
 人間が「フェードアウト」していくという現象を、リアルに想像できなかったことが、ちょっと残念だった。消えていく感覚を圧倒的な力で信じさせてくれたなら、そのせつなさに泣けたかもしれない。

  松本 かおり
  評価:★★

 自分の意思とは関係なく、この世から消える運命を背負った女子高生・織部あずさ。原因・背景説明なし。この子はこうなんだからしょうがないでしょ、といわんばかりの唐突さに困惑。まあ、病気や事故、あるいは単なる失踪で消えるのでは新鮮味もないゆえ、不可解な運命仕立てもやむなし、か。そんな彼女に恋したタカシ。高校生ならではの純情一直線で、あずさを失うまいと涙ぐましいほどの孤軍奮闘。真摯さが眩しくて読むのが辛い。
 終盤でひとつ、見せ場を作ってくれたのはいいとしても、その内容にはついていけない。言い訳がましい。今さらイイコぶるんじゃない。消えるのなら、あらゆる苦痛・後悔・悲嘆・未練・願望をすべてひとり抱えて黙って消えよ。それこそ消滅の美学というものだ。終わりの見えた自分がなおも他者の心に執着するなど見苦しいだけだ。タカシがいつまでもあずさに縛られ、人生を棒に振らないよう祈りたくなった。

  佐久間 素子
  評価:★★★

 日に日に存在感が薄れ、ひっそりと忘れられていく人間に恋をしたら、と、たったそれだけのシンプルなifからできあがっている恋愛小説である。消えていく少女は、その事実を受け入れている。少女を恋した少年は、消えていく記憶をとどめるため必死で抵抗を試みる。そう、このifはちょっと類を見ないくらい残酷なのだ。読みすすめるほど、じんわりつらくなってくる。
 人がいなくなることと、その人を忘れることはまるで違う。なのに、少年は混同するのだ。ぼくが忘れなければ、彼女は消えないと。それは、不可思議な現象に対する盲信でしかないのだけれど、ある種の真実でもあって、だから少年の一途さについつい期待してしまうのだろう。もっとも、少年の盲信と、あなたがいなくなっても忘れないという、よくある誓いとは、さほど隔たってはいないのだ。ただ、使い古されて手垢のついた誓いが、洗い直されたように、痛々しく胸にせまってくることに驚かされるはず。それにしても、この結末を選んだ作者は、けっこう勇気があると思うよ。

  延命 ゆり子
  評価:★★★

 地元のメガネショップで出会った織部あずさ。その面影を忘れられないでいたタカシはある日、あずさが同じ高校の生徒だったことを知る。急速に距離を縮めていく二人。しかし遊園地でデートの途中、いつのまにかあずさは姿を消してしまう。その後タカシは彼女に訪れるある重大な秘密を知るのだが……。
 今、流行っているのでしょうか。ソフトタッチのSFといいますか、奇妙な設定の中での、しかしあくまで恋愛模様が物語の軸をなしているというもの。それはそれで良いのですが、そのあずさに降りかかる運命があまりに唐突で、うまく馴染むことができずに残念。人物造詣にも奥行きが感じられず、モヤモヤとした感情だけが残ります。結局あずさはなんでこうなるの……?もう少し納得のいく説明をお聞きしたい。タイトルが全てを物語り過ぎているような気がしました。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★

 主人公のタカシは受験を控えて勉強にいそしむ真面目な高校生。眼鏡ショップで知り合った女の子と、意外な再会を果たすが、彼女はとてもつかみ所がなくて……、<記憶>をめぐるファンタジー小説です。
 ちょっと薄味ではあるけど、なかなかいい物語だった。ひとひねりしたセカチューと言えなくもないが。けなしてるわけじゃありませんよ。そのひねりが大事ですだから。それにそれぞれのエピソードが鮮やかで、読み進めるにつれ引き込まれていく感じ。中盤の、彼女がタカシに真相を打ち明けるフランス料理店のシーンなんて、印象的だし。
 個人的には、このくらいの長さの物語なら、もうちょっと要素を入れてほしいと思ったけど、ある意味読者を選ばないこのくらいの薄さのほうがウケはいいのかなという気もする。今後も期待です。

  細野 淳
  評価:★★★

 メガネショップで出会った彼女に一目ぼれし、一途な思いを抱き続けている高校生が主人公。もっとも、恋愛に一途な高校生なら、今でもたくさんいるのだろう。でも、主人公は他の人よりずっと、彼女のことを考え続けなければならない立場にいるのだ。
 その理由が、彼女が徐々にこの世界からいなくなっていき、みんなの記憶からも薄れていってしまうからということ。障害が多ければ恋愛も盛り上がるというけれど、この主人公もまさにそう。何せ、主人公の記憶からも、彼女はだんだんと薄れていってしまうのだから。
 受験を控えた大事な時期でありながらも、主人公はひたすら彼女の記録をとり続け、また彼女に電話をし続け、何とか彼女を忘れまいと努力する姿が涙ぐましい。恋愛に夢中になりたい高校生には、お勧めできる本だ。

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