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包帯クラブ
天童荒太
【ちくまプリマー新書】
定価798円(税込)
2006年2月
ISBN-4480687319
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
清水 裕美子
評価:★★★★
傷つく。傷つくのは心だけど、その傷が出来た場所に包帯を巻いてみると気持ちが少し楽になる。それが高校生ワラ(笑美子)たちの「包帯クラブ」。
「シオが傷ついた場所にはさ、きっといまも血が流れてるんだよ」ワラはブランコの鎖に友人シオのための包帯を巻く。そしてクラブのメンバーは誰かのために町のあちこちに包帯を巻くようなる。傷や傷を与えた原因とは戦わない。ただ気持ちをすっと楽にするだけ。
包帯クラブのキャッチフレーズは『巻けます、効きます。人によります。』クラブ活動の報告の合間に「幸せな未来からのメッセージ」が登場人物の報告の形を借りて差し込まれる。しかしこれは今を生きた彼らなりの答え。(傷を)「……ひとまとめにしちまうのは、相手の心を思いやるのを、おっくうがったり、面倒がったりする、精神の怠慢からくるんじゃねえの」爆竹を抱いて戦火に晒される痛みを体験する激烈なディノの言葉。
そう『13歳のハローワーク』が出た時のように大人が興奮して(?)若者にこの本を配ってもダメなのかも。
読後感:でも読んで欲しい
島田 美里
評価:★★★★
もし、副題をつけるのなら、「ちちんぷいぷい」はどうだろう?と、勝手に思う。この作品には、誰かに痛いの痛いの飛んでいけーと言ってもらうのと同じ効果がある。
女子高生のワラを中心に結成された「包帯クラブ」の活動目的は、他人の傷を癒すこと。その方法がまた面白い。心が傷つくきっかけとなった場所に出向き、静物に包帯を巻くのだ。包帯をブランコの鎖に巻いたり、理科実験室の試験管に巻いたり…。最初は、巻いて効くのか?と思いながら読んでいたが、それがいつの間にか巻いてみたい!という願望に変わった。
書き下ろし長編は6年ぶりだそうだ。「永遠の仔」を一気に読んだときは、目を背けたくなるほどの深い傷に、放心状態になったが、この物語では、比較的軽い傷が描かれているため(重いのもあるが)、身近に感じる。保健室に行って、「だいじょうぶだよ」と励ましてもらい、薬を飲まなくても調子が良くなったときのような気持ちがした。
もしも読後に、包帯がすぐそばにあったならきっと巻きたくなる。いや、絶対巻く! いっそのこと、本と包帯をセット売りにしてほしい。
松本 かおり
評価:★★★
他者が受けた深い傷に、自分ができることはほとんどないことを痛感しながらも、その傷は痛いよね……といたわりを伝えようと試みるのが、高校生たちが作った『包帯クラブ』。確かに、「だれかが、知ってくれている、わたしの痛み、わたしの傷を知ってくれている」と感じるだけでも、気持ちが落ち着くことはある。その場しのぎの、安易でお手軽、表面的な慰めや励ましの言葉など逆効果。自分自身の、あるいは他者の心の傷との向き合い方、痛みを意識しようとする勇気、という点では共感する部分は多い。
しかし、実際に包帯を使って行動に移すあたり、「手当て=包帯」という発想がいかにも青臭く、少々短絡的で幼稚にうつる。直接的、具体的すぎる行為とデリケートな意図が、かみ合わない。現実に白いそれがあちこちでヒラヒラしている風景を想像すると奇妙なだけ。それなのにあまりに大真面目に堂々とやるものだから、読んでいて恥ずかしくなる。
佐久間 素子
評価:★
傷ついた箇所に包帯を巻くことで血を止めるように、心が傷ついたときには、その傷を受けた場所に包帯を巻くことで癒される。そんな体験をした少年少女たちが、傷ついた人たちのために包帯を巻こうと包帯クラブを結成する。
感動どころか、ただの一ミリも心が動かなかった。一応最後まで読んだけれど、課題でなければ途中でやめていたと思う。だってここに出てくる高校生たちの心情ときたら、どこかで聞いたような言葉で語られる説明ばかりなんだもの。小説というよりは長い長いスローガンに近い気がする。正論は、疲れるし、えてしてうさんくさいものだ。ただそれだけで、心に届くはずがない。今風のかおりづけをしてみたところで、すかすかの正論で固められた人物たちの顔は見えてこず、その典型的な造形にもげんなりだった。 小説という媒体では、若く未熟で感受性が豊かなゆえに、毎日が生きづらいと感じている高校生は、昔からスタンダード以外の何者でもないはず。それを知らない作者でもあるまいにねえ。
延命 ゆり子
評価:★★★★★
ワラはごく平凡な女子高生。だが平凡に見える家族や友人との生活の中にも見えない傷はある。ワラと友達たちは心の傷に、文字通り包帯をかけて行く。昔の幸せな家族の記憶がこびりついているデパートの屋上に。失恋した公園のブランコに。小学校の先生に性器を弄ばれた理科室の人体模型に。包帯をぐるぐると巻いていくことで傷を傷と認め、少しだけ救われた気持ちになる。そしてワラたちはネットで呼びかけ、多くの人たちの心の傷に包帯を巻いていくのだったが……。
平易な文章。涙、涙の展開。安易なハッピーエンド。不遜を承知で言えばこの作品は文学的に高い評価は得られないのかもしれない。しかし私はこれ程までに今の若者たちに働きかけた小説を読んだことがない。若者たちの心の傷を取り除こうと、一生懸命言葉を尽くして、心を尽くして語りかけている作品を、私は評価することができない。そこまで真剣な姿勢を大人たちはかつて若者に見せてあげられていただろうか。大人たちはただ黙っていま苦しんでいる子にこの小説を手渡せば良い。そう思った。
新冨 麻衣子
評価:★
とある少年との出会いによって、心の痛みを和らげる方法を得た女子高生・ワラ。それは嫌な想い出のある場所に包帯を巻くことだった。これに癒された仲間たちとともに<包帯クラブ>としてHPを立ち上げ、様々な人が傷を負った場所に包帯を巻きにいく……。
どうなんですかね。包帯うんぬんのエピソードは悪くはないと思うけど、主軸である主人公たちの成長という部分に関してはあいまいだし、全体を通して無駄に重苦しい。
そして設定は現代なのに、細かいエピソードが時代錯誤で読むのが辛い。会話もメール上のやりとりも、まるで手紙のような言葉遣いで。そういうところをなぜおざなりにするのか。あと方言ブームを取り入れたかったのか、ネットで採取した方言がグループ内ではやってるんだけど、一方で行為後にソーダで洗い流せば妊娠しないっていう説を信じてるとか、ズレまくりでちょっとイタイです。
細野 淳
評価:★★★★
心の傷に包帯を巻く。それが包帯クラブの活動。ただし、心の傷というものは目に見えるものではない。だから実際には、その人が心に傷を負った場所に包帯を巻く、という代替的な作業を通じて癒してあげること、これが活動の中心となるわけだ。
何だか偽善的で、こいつらは皆心理カウンセラーにでもなったつもりなのか、と思う人もいるかも知れない。でも、あくまで友人同士が集まって、勝手に作ったクラブ活動でのこと。子供の頃って、仲いい人と一緒に意味の分からないことをしたがっていたりするもの。秘密基地を作って遊んだり、仲間内でしか分からない言葉を使って楽しんでいたり…。そういえば、この「包帯クラブ」のもととなった組織も、あちこちの方言を仲間内で話して楽しむ「方言クラブ」というものだ。
そんな、仲のいい友達が勝手に作ったクラブの楽しさ・醍醐味と、心の傷を癒すという行為。この二つが上手く結びついて、不思議な魅力を放つ作品だ。「包帯なんかで、人の心が癒せるはずが無いだろう」などというようなシニカルな目で片付けてしまうのではなく、じっくりと味わい、共感しながら読んで欲しい。
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