『十二歳』

十二歳
  • 椰月美智子 (著)
  • 講談社文庫
  • 税込500円
  • 2007年12月
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  1. 十二歳
  2. 荒蝦夷
  3. リボルバー
  4. 箆棒な人々
  5. はい、泳げません
  6. 文章読本さん江
  7. ハートシェイプト・ボックス
岩崎智子

評価:星3つ

 ポートボール大会で優勝し、大喜びする「さえ」は、十二歳。でも、大喜びする皆の中で、彼女はこんな事を考える。「悔しくて流れる自分達の涙と、嬉しくて流れる相手チームの涙は同じ味なのか?」もし同い年の子供が読んだら、あれれ、と違和感を感じるかもしれない。十二歳って、まだ目の前の勝利に酔いしれるのに精一杯で、あれこれ分析する暇などないんじゃない?と。著者デビュー作である本作は、「大人が考えて書いた子供」が、「本当に子供が考えているように見える子供」と、まだうまく同居しきれてないように見える。そうはいっても、おそらく大方の読者は大人だろうから、ささいな違和感にとらわれずとも良いかもしれない。それよりも、本書に登場する様々な出来事を、「あの頃の自分って、何を考えていたっけ」と、自らの十二歳という季節を回想するフックとして楽しんでみて欲しい。「好きなことときらいなことがはっきりと分かれて」いない現実を、しばし忘れて。第42回講談社児童文学新人賞受賞作。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 十二歳「鈴木さえ」の視点で小学校六年生の六月第一日曜日から卒業式の日までを描いた作品。
 小学校の時のことなんてほとんど覚えていませんが、読みすすめるほどなつかしい感じが湧いてきました。
 特に、教科書の先のページに未来の自分へメッセージを書くエピソードなんて、自分ではやったことがありませんが小学生時代の気持ちを想起させるものがあります。

 自分が十二歳の頃、子供ながらにも悩みはありました。それは今みたいにハッキリした悩みではなくて、何だかもやもやとした形のもの。まだまだ大人にはなれないのに、大人に近づいていくことへの焦りみたいなものがあったかなあ、と本書を読んでおぼろげながら思い出していました。

 児童文学ということですが、大人が読んでも色々と感じることの出来る小説です。
 一応ことわっておきますが、決して僕の精神年齢が低いということではありませんよ。

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島村真理

評価:星3つ

 子供から大人の変わり目。思春期よりも少し早くやってくる端境期に、戸惑う姿はもどかしくもほほえましい。
 小6の鈴木さえが、普通だと思っていた毎日が少しずつ変わって感じられる様子がていねいに書かれている。ポートボールの試合、仲のいい友だち、好きな先生、いつもと同じはずなのに、見え方が変わる(とらえ方が変わる)ちぐはぐさから、自分自身の存在も疑ってしまう繊細さ。現実との接地点があいまいになり不安になる時、悩んだり立ち止まったりしてもがいてみるのも大切なのかもしれません。私の昔もそうだったのだろうかと思い出と重ねてみたりもして。
 やがては通り過ぎていく愛しい時間を、同じ年頃の子に読んでもらいたい本です。

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福井雅子

評価:星3つ

 インパクトはないけれど、十二歳だったあのころの気持ちがよみがえり、なんともなつかしい気持ちにさせられる本である。大人になってから十二歳の自分を思い出そうとすると、「責任も義務もしがらみも、わずらわしいことはなにもなかったし、可能性に満ちあふれていて……戻れるものなら戻りたい」とかなんとか考えてしまいそうだけれど、十二歳の心には十二歳なりの悩みや不安がいっぱいあったはず。そんな「あのころの気持ち」を丁寧にリアルに描き、空の色や光のまぶしさ、風の感触など、あのころの感覚を読者の心によみがえらせてくれる作品なのだ。思い出したくないようないやな思い出がある人以外は読後にすがすがしい気持ちになれそうだ。
 子供から大人に一歩踏み出そうとする十二歳の心を、大きな事件が起きるわけでもない日常の生活のなかに描けるだけの文章力と表現力も見どころ。作品の性格上仕方ない面もあるが、読後の印象が薄いのがちょっと残念ではある。

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余湖明日香

評価:星4つ

 大人でもなく、まるっきりの子どもでもない(と自分では思っている)12歳、小学校6年生の女の子が主人公。水泳もピアノも絵もポートボール(懐かしい!)も少しかじってある程度できるようになると興味を失ってやめてしまう、器用貧乏な私。「私もなにかになれるのかな?」なんて、12歳でその悩みは早すぎるだろ!!そういう思春期の悩みは受験が始まる中学生や趣味や夢での挫折を味わう高校生になってからじゃないの?と違和感だらけ。
ところが、絵が上手なクラスメイトの女の子の、課題で描いた絵を見て気づいてしまう。ただ絵が好きな私とこんなにすごい絵が描けるこの子とは決定的に違うんだ…。
最後のほうは文字通り教科書的で、お利口な自分探しになってしまっていてあまり好みではなかったのだが、このエピソードにとてもはっとさせられ、ここが読めただけでも、本当に読んでよかったと思う。
あさのあつこ、森絵都、佐藤多佳子…と児童文学出身で好きな作家は多い。ぜひ一般向けの物語も書いてほしいと思う。

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