WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年2月>『文章読本さん江』 斎藤美奈子 (著)
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世に出ている文章読本について、斎藤美奈子氏が物申す! 一文で内容を説明するなら、こんな処だろうか。「権威なんて、全然意味がないのに、褒めそやされてる。イマイマしい!」なんて思っている人──例えば、『文学賞メッタ斬り!』シリーズなどをよく読む方々ならば、大いに楽しめるだろう。それにしても、世に出ている文章読本がこれほどデタラメを教えているとは、驚きだ。「プロのもの書きの文章には、自分が心から『書きたい!』と思って書いたものが非常に少ない」なんて、全然不思議に思わない。なぜならば、「他社(者)に依頼された仕事を遂行する」のがプロなのは、もの書きに限らずどこの業界でも同じなのだから、「書きたいと思って書いたもの」がすんなり仕事として通用するのが稀である事なんて、わざわざ批判する必要すらない。むしろ「全人格を傾けて書いたものがめったにない」などと仕事内容を決めつける事こそ、プロに対する侮辱ではなかろうか。さてさて、こんな風に、文章読本の全てが正しい訳ではないので、「自分は文章がヘタだ」と思っている皆様は、自信回復のために、是非ご一読を。
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ブラームスはベートーヴェンの交響曲を前にして「この偉大なる九曲のほかに交響曲が必要なのか」と悩んだそうですが、世の文章家たちは本書を前に「文章読本なんて必要なのか」と煩悶することでしょう。
というのは言い過ぎでしょうか?
本書は文章家たちが「ワシにも言わせろ」「ええい、こっちへ貸してみな」と濫発する文章読本について書かれた「文章読本」読本。文豪の著作であろうが権威ある先生の著者であろうがお構いなしにからかう勇気(?)、主要な参考文献として巻末にあげている文章読本だけでも百冊以上という労力に脱帽です。
これ自体は文章読本ではないのですが、読み通してみるとヘタな文章読本を読むよりも文章を書くことに関しての理解が深まります。目からウロコがボロンボロン落ちました。
どっからどう読んでも名著。小中学校の国語の副読本にしたらどうでしょうか。
評価:
面白いを通り越して世にも恐ろしい切り口で「文章読本」をめったぎりにしている。さすがは斎藤美奈子サマ……。はじめは、実用書を新しい切り口で紹介している、既刊の書を揶揄しながらも楽しく読めるという発見なのかと思っていたら、まったく違っていました。文豪も大御所も関係なく、「文章読本」という世界に充満していた疑惑を白日の元にさらし断罪しているのだもの。名前をあげられた人たち(そして、他のこの手の本に手を染めてきた人たち)がどれだけ慌てふためいたことでしょう(巻末の書評は必見)。
しかし、彼女はただ単にかき回しているのではなく、こうなってしまった現状を学校教育の過去をたどり丁寧に指摘している。細かで確かな仕事振りに、素人でも居住まいを正して拝読しなくてはという気分にさせる。ないがしろにされてきた作文教育と「文章読本」の位置づけの考察は、「ははぁ納得しました〜」というしかない。
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いやはや……なんとも威勢のいい本である。谷崎潤一郎をはじめ『文章読本』をお書きになった権威ある文士たちをばっさり斬り捨て、『文章読本』の矛盾は突くわ、その裏にある差別意識だの虚栄心だのを暴きだすわ、果ては戦後の作文教育をメッタ斬り。たとえて言うなら「王様は裸だ!」と大声で叫んでいるような本である。
その勇気もさることながら、もうひとつ驚かされるのが、読者を納得させる説明手腕だ。論理展開は実に明瞭で、幾多の『文章読本』から論拠となる部分を次々と引用して理路整然と説明が述べられ、読者はうなずきながら読み進むうちにすっかり納得してしまう。
ひとつだけ難点をあげるとすれば、これだけ大胆な持論を展開したのだから最後には読者をうならせるすごい結論が待っているのか? と期待すると、案外平凡な結論であっさり終わってしまうことだろう。けれども、この本はもともと結論が目的ではなく、『文章読本』なるものに野次をとばすための本なのだ。手の込んだ大掛かりな野次を楽しむための本だと割り切れば、なかなか愉快な本である。
評価:
様々な文章読本を取り上げ、分類し、時代ごとの変遷を考察し、その独特の発展や矛盾を痛快に斬る!ユーモアと皮肉を交えた文章は面白く、取り上げる本を読んだことがなくてもわかりやすい。
特に学校の国語・作文教育のアンチテーゼとして、社会では役に立たない作文しか書いてこなかった大人のニーズを満たすために文章読本が生まれたという第3章は、興奮。先生が喜ぶ読書感想文や「先生あのね」的な作文を書き続け、図書館司書講座で絵本教育を学んだ私、まさに当てはまります!社会に出たら全く役に立ちませんでした、先生。
学校の国語の先生や子ども教育に関わる人たちにぜひお勧めしたい一冊。
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