[前月へ]

2009年1月

岩崎智子の勝手に目利き

『恋愛嫌い』 平 安寿子/集英社

 タイトルを見て誤解するかもしれないが、本作の主人公達は決して恋愛が嫌いなわけではない。「嫌い」というよりは、恋愛が「苦手」なのだ。「こんな言い方してるけど、本当は自分のことを好きなんだな。」そこまで分かっているけれど、男のある部分(タイトル参照)がイヤで、別れを告げてしまう翔子(『キャント・バイ・ミー・ラブ』)。自分の元恋人と結婚した友人と再会した鈴枝は、「自分が優位に立ったんだと認めて欲しい」という本心がミエミエの態度を取る友人に、「友達と思ったこともない。」と本音を吐いてしまう。「あんな事があったけど、あなたと私は今でも友達よ。」という、相手が望んだ答えではなく。好条件の相手が現れたのに、彼がデートに誘った本当の理由を突いてしまう喜世美。自分に素直といえば聞こえはいいが、やっぱりどこか恋愛にも生き方にも不器用だ。でも、婚活に四苦八苦している男女だって、似たり寄ったりじゃなかろうか?
さて、そんな彼女達が見つけた幸せとは。最終話「恋より愛を」で是非お確かめを。

▲TOPへ戻る

余湖明日香の勝手に目利き

『それでもドキュメンタリーは嘘をつく』 森達也/角川文庫

 ドキュメンタリーはストーリーがないし、出演者はプロの俳優じゃないし、社会的な内容のものだからきっとつまらないだろう。その思い込みが過ちだということに薄々ながら気づいたのは大学生の時に小林貴博監督の『home』を見て、映画に出ていた引きこもりのお兄さんが舞台上で挨拶をした時だった。
また和歌山毒物カレー事件の報道で、容疑者が報道陣に水道のホースを笑いながら向ける映像を繰り返し使っていたことに、言葉に出来ない違和感を覚えていたが、テレビでこの違和感に答えを出してくれる人は誰もいない。
この過去の思い込みや報道への違和感を完全に取り払ってくれたのが、オウム真理教の信者を撮ったドキュメンタリー作品『A』『A2』の監督である森達也さんだ。
報道は本当に公正中立か?ドキュメンタリーは事実の客観的記録か?ということから、オウム事件以降の報道のモザイク使用の意識の低下、バラエティ番組のヤラセ問題まで、他の作品や山形国際ドキュメンタリー映画祭の対談、自作の撮影の過程などを交えて解説し、自らの思考の変化とともに丁寧に書いている。
この本を、テレビや映画の製作に関わる人は読んでいてほしいと思うし、私の友達や両親にも読んでほしいと思う。それにもし自分の子どもが生まれて大きくなって、テレビや報道の姿勢が今と変わっていなかったら(またはもっと悪くなっていたら)、読んでほしいと思うのだ。
私が現在ボランティアスタッフをしている松本CINEMAセレクトでは、1月11日・12日に「第二回ドキュメンタリー駅伝」として5本のドキュメンタリー映画を上映する。さて、そこにはどんな主観が映像に織り込まれているのか。

▲TOPへ戻る