WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年10月の勝手に目利き
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安部譲二、家田荘子、中場利一らが描く、いわゆる“ワル”をテーマにした作品になぜか惹かれるのだが、また一人、新たな書き手に出会った。
著者は高校中退後に任侠の世界に足を踏み入れ、抗争事件で有罪となり刑務所へ……。すべて本作中のノンフィクションだが、これだけで終わらない。出所後に大検を取得して、刺青を背負った大学生(法学部)となり、今春(2007年)、卒業しているのだ。
説教臭い更正物語なら書店に数多く並んているだろう。著者はそのスタンスから距離をおき、醒めた目で見ている。この本で語られているのは、痛々しいくらいストレートに生きようとしている男の「リアル」な言葉だ。例えば、こんなセリフ。
「頭がいいはずの、国を動かしているようなヤツらだって、戦争をやってるじゃねーか」
木訥な文章だが、込められているメッセージは濃くて、深い。事故で左足を失った友人との逸話を交えながら、ひたむきに生きようとする姿に結構やられてしまった。
「沖縄病」という言葉がある。
彼の地を旅した者が、自然や文化、風習や人に惹かれて、何度も訪れてしまうというものだ。著者も沖縄に恋した一人。何度となく訪れ、面白エピソードを紹介してくれる。
旅は日常からの脱却といわれるが、この本で語られる非日常ときたら……。「モノレール開業日に保険証で乗ろうとするオバァ」「体長40センチはある巨大毒ガエル」「麦茶が飲みたくてボタンを押したら、不二家ネクターが出てくる自動販売機」などなど。
ネタの宝庫じゃないか、沖縄。
ただ、そんなユルい「癒しの島」をイメージした、ステレオタイプの沖縄本でないことは「あとがき」を読んでわかる。楽しいだけの場所じゃない、へこむ場面もある。それでも著者は沖縄の本当の姿を知って、なお好きになっているのだ。
愛する場所をビジター目線で温かく書き綴った、旅コラム集。コチョコチョと小技の利いた文章も、個人的にはツボに入りました。ハイ。
書店員探偵が主人公の「配達赤ずきん」シリーズでおなじみ(なのは当たり前だが。「片耳うさぎ」が著者初のノンシリーズ作品なので)、大崎梢さんの最新作。
主人公は小学6年生の奈都。父親が事業に失敗したためにその実家に家族3人で身を寄せているのだが、それがとんでもなくだだっ広く荘厳で不気味なお屋敷。その家にたったひとりで(厳格な大叔母や愛想のないお手伝いさんなどはいるが)残されることになった奈都は、この屋敷に興味津々の中学生さゆりの助けを借りるのだが……。
子どもだけの冒険。屋敷にまつわる謎。大人たちの不可解な行動。講談社ミステリーランドから出ていると言われても疑わなかっただろう。初めのうちは気楽な謎解きかと思われた物語が、話が進むにつれて哀しい過去の事件が浮かび上がってくる。それでも真相が明かされた後、登場人物それぞれ前向きに生きていこうとしている姿勢が清々しい。書店を飛び出しても、著者の筆力は冴えている。