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2008年8月

佐々木克雄の勝手に目利き

『盆栽マイフェアレディ』 山崎マキコ/幻冬舎

 山崎マキコが描く「ダメっぽい女性」が好きだ!
 同性が読むと、嫌悪感を覚えるか親近感を覚えるかパッキリと分かれそうな気がするが、ともかく自分はこの「ガムシャラに頑張っているんだけれども、悪あがきっぽく見えてしまう」女性たちが気になってしまう。
 さて本作、長瀬繭子(22歳)は大学を卒業して盆栽師の修行中──何じゃこれ、と思う設定だが、さらにお金持ちの愛人として囲われるてな「?!」なお話。このギャップがたまらなく可笑しいのですよ。毎日予算300円の弁当を作っている彼女が高級料亭でもてなされる。土仕事をする爪にネイルアートが施される……などなど。盆栽か、マイフェアレディかで揺れる彼女のグズグズな揺れっぷりがイイ。どうなるかは読んでみてのお楽しみとして、軽快なテンポ、クセのあるキャラたちも楽しい恋愛小説です。

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『泣き菩薩』 田牧大和/講談社

 私事、ここ数年ほど浮世絵に興味があり、関連本を渉猟しております。北原亞以子『江戸風狂伝』や河治和香『侠風むすめ』『あだ惚れ』に登場する歌川国芳が一番好きなのですが、お馴染みなのは写楽、歌麿、北斎、そしてこの本の主人公、歌川広重でしょうか。
『東海道五十三次』や『名所江戸百景』などで有名なこの絵師が火消同心であったのは事実──なのですが、本作では江戸で起こる放火騒動に若かりし頃の広重が立ち向かうといったミステリ仕立てのストーリー。これがですねえ、もろもろ巧いんですよ。絵師ならではの観察力で謎を解いていく広重やチャキチャキの仲間たち、ホロリとくる人情、江戸の粋……かなりクオリティの高いエンタテインメントに仕上がってます。巷では和田竜が人気ですけど、この方も時代小説の新人さんとして、久々の「大当たり」です。期待値「大」。
 これ、シリーズとして続けて欲しいなと。

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松井ゆかりの勝手に目利き

『ヴァン・ショーをあなたに』 近藤史恵/東京創元社

 近藤史恵という作家は、まったくもって侮れない存在だ。一見すると地味なので気づかれづらいが、実に多岐にわたった作風の小説を著している。ただ正直に言ってしまうと、そのどれも自分のストライクゾーンを微妙に外れていた。にもかかわらず妙に心に残って新作が発表されるとこまめに目を通していたが、前作「タルト・タタンの夢」に続いて本書を読み、私は確信した。このシリーズにたどり着くために私はこの人の本を読み続けていたのだと。
 下町のフレンチ・レストラン“パ・マル(「悪くない」の意)”に持ち込まれる(本書では店を飛び出して舞台を別の場所に移した短編もあるが)謎の数々。料理の腕前同様鮮やかに問題をさばいてしまう三舟シェフには脱帽の一言。近藤さんの作品には苦みの残る結末のものも多いが、「ブーランジュリーのメロンパン」などは不覚にも落涙させられる優しさがにじんでいる。三舟シェフのビジュアルが、脳内でお笑い芸人笑い飯の西田氏に変換されてしまうのがやや難だが。

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