鉄道ブームとは裏腹に、消えてなくなる鉄道遺産~『旅してみたい日本の鉄道遺産』

旅してみたい日本の鉄道遺産
『旅してみたい日本の鉄道遺産』
三宅 俊彦
山川出版社
1,890円(税込)
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 「鉄子」「鉄男」という言葉が生まれ、鉄道ブームと呼ばれる昨今。鉄道好きな人が増えているが、それぞれ鉄道の何が好きなのかを見ていくと、乗るのが好きな「乗り鉄」、写真を撮るのが好きな「撮り鉄」。車両研究が好きな「車両鉄」、鉄道模型が好きな「模型鉄」など実に細かくジャンル分けされるのが鉄道ファンの特徴。なかでも「鉄道遺産巡り」が好きとなると、かなりの"鉄道オタク"と思われてしまうかもしれない。

 しかし、鉄道の歴史は国の開拓の歴史そのもの。鉄道遺産を巡っていくと、日本という国がどのように発展し、インフラが整備されていったのかを紐解く旅になる。例えば、東京・隅田川にかかる勝鬨橋(かちどきばし)も立派な鉄道遺産。昭和22年に都電が開通し、新宿駅前から月島通り8丁目を結ぶ11系統が昭和43年まで走っていた。ちなみに橋の名前は日中戦争の戦勝を祈願して名付けられたと知ると、その時代背景も浮かんでくる

 また、「東京競馬場前駅」は昭和9年に開通し、競馬開催日に運行された駅。昭和48年に廃止され、廃線跡は緑道となりかつての駅前は昔の面影を見出すことは困難になってはいるが、緑道に立つ標識がたしかにそこに駅があったことを伝えている。

 一方、思わず見とれてしまう鉄道遺産もある。タウシュベツ橋梁(きょうりょう)は、北海道の湖にかかるコンクリート製アーチ橋。その橋の上を士幌線が走っていたが、発電用のダム湖に沈むことになり、線路は取り外された。よく晴れた風のない日に湖面に橋が映ると「めがね」のように見えることから「めがね橋」の別名をもち、古代ローマの遺跡を思わせるその雄大な姿は、周辺の景色とも調和して美しい。

 地方の私鉄には、採算がとれずギリギリのところで生き残っている鉄道も多い。千葉県の銚子電鉄は「ぬれ煎餅」を販売し、その収益で電車の修理代を捻出してはいるが、苦しい経営状況は続いているそうだ。高速道路が無料化すれば、各鉄道会社の収益が減ることは目に見えており、廃線になる路線が今後増えると予想されている。

 子どもの頃に親しんだ路線や駅が、将来なくなることは寂しいことだが、保存されることもなく、野ざらしで消えてなくなる鉄道遺産も数多く存在する。鉄道研究家の三宅俊彦氏は、そのような場所を一つひとつ実際に訪ね歩き『旅してみたい日本の鉄道遺産』としてまとめた。氏が実際に撮影した写真や、収集した当時の地図、絵はがきなどは歴史的資料としても価値が高い。実にていねいな仕事ぶりが光る一冊だ。

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