危険なマラソンブーム?~『練習ゼロで完走できる非常識フルマラソン術』

練習ゼロで完走できる非常識フルマラソン術
『練習ゼロで完走できる非常識フルマラソン術』
中村 博行
光文社
1,260円(税込)
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 2010年2月28日に、4回目となる「東京マラソン」が開催されます。東京マラソンは近年のランニングブームの追い風を受けて申込者の数も年々増加。2009年大会の申込者数は、30,000人の定員に対して226,378人で、抽選の当選確率7.5倍という超難関な狭き門となってしまいました。

 ランニング雑誌を発行するランナーズ社によれば、2007年4月から2008年3月の1年間にマラソンを完走したランナーの数は114,520人なので、その全員とさらにほぼ同数のマラソンを完走したことがない、または、大会に出たこともない人達が応募したことになります。

 これは、いくら空前のランニングブームとはいえ「ありえない」という指摘が現場のランナーから上がっているそうです。「出たいがために、ひとりが何人もの名前を借りて応募している」と。事実、東京マラソンのボランティアをしたことのある人の話では、大会受付で参加賞Tシャツを配るときに名前の確認をすると 「いえ。あ、はい」とか「今日は、そうです」というような答えが結構あったとのこと。このようなことで抽選倍率が上がってしまい、一生懸命トレーニングに励んでいるランナーが参加できなくなることに対し、疑問の声も聞かれます。

 そういった意見に、さらに油を注ぎそうな本を見つけてしまいました。その名も『練習ゼロで完走できる非常識フルマラソン術』。書いた人は、24時間テレビの「24時間マラソン」で12年間ランナーの伴走を務めてきた番組プロデューサー。著書の中で彼は、その伴走という経験の中で培ってきたマラソン術を紹介しています。

 42.195km完走する上で一番大切なのは「モチベーション」。普通、フルマラソンにチャレンジする場合、まずランニングフォームを体で覚えるために歩くことから始め、少しずつ距離を伸ばしていくというのが基本です。最低でも3ヶ月かけてトレーニングをするのが一般的で、その間に何度も脚が痛くなり、回復してというのを繰り返す中で、フルマラソン完走のための筋肉を作り上げていきます。しかし、肉体的な"痛み"は練習で乗り越えられても、「走ったら痛くなりそう」という精神的な"痛み"の記憶はネガティブに残り続けます。よほどの強いモチベーションがないと、この精神的な"痛み"には勝てません。そうすると、練習がきつくなって、結局挫折してしまう人が多いのです。

 そこで著者が考えたのが、練習で"痛み""つらさ"を知る前に"完走の快感"を味わうという方法。つまり、練習をせずにいきなり本番にチャレンジしてしまおう!というもの。どうせ、練習でつらい思いをするくらいなら本番でつらくなって、そのまま完走してしまったほうが得! 本番になってしまえば「やるしかない」という状況になってがんばることができる。練習でひざが痛くなった経験などがない分、最も高いモチベーションの状態で本番に臨めると著者は言います。

 しかし、この本に書いてあることを真似した結果、怪我をする可能性がないとも言い切れません。「第3回東京マラソン」で意識を失って倒れ、一時は心肺停止状態となったタレントの松村邦洋さんの例もあります。くれぐれも、事故のないようにマラソンを楽しんでもらいたいものです。

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