記憶はこうしてねつ造される!~『記憶はウソをつく 』
- 『記憶はウソをつく (祥伝社新書 177)』
- 榎本 博明
- 祥伝社
- 798円(税込)
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ドラマやマンガなどで、「過去の記憶に悩まされる」というキャラクターを見たことはないだろうか?「親からの虐待」「殺人シーンを目撃」etc...。しかし実際の医療現場でカウンセラーにより掘り返された患者の記憶が、実はウソだったとしたら? そんな事件が、精神医療の先進国と呼ばれるアメリカで実際に起こってしまった。
例えば、それが児童虐待であった場合、カウンセリングは大まかに以下のように進む。
カウンセラー:「あなたは子どものころ虐待を受けていませんでしたか?」
相談者:「そんなことはありません」
カウンセラー:「覚えてないのは抑圧が働いているからでしょう。しっかり過去と向き合って思い出しましょう」
忘れていた記憶を徐々に思い出す相談者・・・。
しかしアメリカでは、こうしたカウンセリングにより「父親から定期的に性的暴行を受け、2度妊娠させられた」という虐待体験を思い出した女性が、医学的検査の結果「妊娠歴が無かった」という事実が判明。カウンセラーは「偽の記憶を植え付けた」として告発された。
「偽の記憶の植え付け」と言うと、あたかもそれがカウンセラーだからこそ成し得た技のように思われるが、実はそれは私たいの日常会話でも行われているという。
「あなたは○○だったんじゃない?」「あなた××したじゃない」(植え付け)
↓
「そういえば、そんなことがあった気がする」(覚醒)
↓
「たしかに、そんなことがあった」(確信)
↓
「しかもその時はこうだった」(補強)
という記憶の変遷は、あなたの意思に関わらず、必ず誰もが行っている行為。この「植え付け」の部分で相手が勘違いをしていたような場合、これは一種の「偽の記憶の植え付け」と言える。つまり、人は「経験していないことを思い出す」ことができてしまうのだ。
心理学者のロフタスは、記憶について、「記憶というものは時と共に細部や正確さが失われていく」「記憶は目撃後に与えられる事後情報の影響を受けやすい」と結論付けている。その人にウソをつく気はなくとも、結果的に"記憶がウソをついてしまう"ことがあるというわけだ。
そういえば、「思い出」が実体験以上に美化されたり、他人の記憶があてにならなかったりという経験をしたことはないだろうか? そのようなことが起きてしまうメカニズムが、最新の心理学で解き明かされている。