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第38回:平安寿子さん (たいら・あすこ)

平 安寿子さん

ごく普通の人々のごく普通の日常生活を、独特のユーモアとアイロニーを交えて、味わいたっぷりに描く平安寿子さん。人と口を聞かず本ばかり読んでいたという幼少の頃から、書くことを志して試行錯誤していた時代、そしてペンネームのもととなるほど影響を受けた女性作家、アン・タイラーの作品との出会いに至るまで、読書道と作家道を交えてたっぷり語っていただきました。

(プロフィール)
1953年広島市生まれ。アン・タイラーに触発されて小説を書きはじめる。『素晴らしい一日』(文藝春秋)『パートタイム・パートナー』(光文社)『グッドラックららばい』(講談社)など、次々と話題作を発表している。

【本のお話、はじまりはじまり】

――読書に目覚めたのはいつ頃ですか?

平 安寿子(以下平) : 私、小学生低学年の時が、人生で一番本を読んだと思うんです。

――平さんは、どんな子供だったんですか?

 : 家の裏に物置があって、そこに入り込んで本ばかり読んでいました。

――え、物置で読書?

 : 姉が二人いるんですが、彼女たちが読み終えた後の本がそこに山積みになっていたんですね。『女学生の友』とか『婦人生活』といった雑誌とか。内容は宝塚のことや、少女小説でした。あと、読んではいないのだけれど『ブルターク英雄伝』という本があったことは、異様に覚えていますね。人と口を聞かずに本ばかり読んでいたので、小学校にあがる時にはすでに目が悪くなっていました。

――読んだ本で印象に残っているのは?

 : 『シンデレラ』とか、『アルプスの少女ハイジ』といった、少女向けのものが好きでした。アンナ・シューエルの『黒馬物語』とか。

黒馬物語
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――『黒馬物語』…?

 : 黒い馬が、運命に翻弄されていく物語。『ブラック・ビューティー』という原題ですね。映画化にもされた、ロングセラーです。今でも読めると思いますよ。

――そうですか。それは知らなかったです。それにしても、人と口を聞かなかったというのは…。

 : 中学2年生くらいまで、まわりの人と口をきかない子だったんです。暗い子、というのを通り越して、ヘンクツな子でした。学校に行くのが嫌で、行くふりをして物置で本を読んで、夕方になると何食わぬ顔して戻ってきたりして。親も商売をして忙しかったし、姉たちも自分たちなりに遊んでいて、ほったらかしにされていたので、何も言われることはなかったんです。成績も悪くはなかったので、特に問題視されなかったんです。

――じゃあ、友達は本、という感じで。

 : と同時に、『しゃぼん玉ホリデー』のような、テレビのバラエティー番組も熱心に見ていましたね。お笑いなどの語り芸に惹かれたんです。今にして思うんですが、小説にしろ、話芸にしろ、“物語り”が好きだったんですよね。面白いものが大好きで、滅多に人前で笑わないくせに、本を読んだりテレビを見たりしている時は、一人でクスクス笑っていました。

――その頃、特に印象に残っている本といえば?

 : 学級文庫の『クオレ』といった少年少女向けのものを読んでいたんですが、これ、という本はなく、ただ読んで楽しかった、という記憶だけなんです。学校にいって勉強して、という現実に違和感を覚えていたんですが、本を読んで没頭している時だけは、その現実の自分を顧みずにすむ。だから読書に夢中になっていたようにも思います。あ、あとは漫画ですね。今ではもう大家になった人たちが、ちょうど少女漫画を書いていたんです。手塚治虫さんの『リボンの騎士』、赤塚不二夫さんの『ひみつのアッコちゃん』、石ノ森章太郎さんの『さるとびエッちゃん』…充実していましたね。

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手塚治虫 (著)
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赤塚不二夫 (著)
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石ノ森章太郎 (著)
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【ロシア文学との出会い】

――中学生になってからもその傾向は変わらず?

 : 中学に入ると太宰とかサガンを読みましたね。文学文学したものはピンとこなかったんですが、教材で太宰の『女学生』を読んで、あの文体にハマってしまって。でも私にとって、小説らしい小説を読んでうわーっ、って思ったのは、高校生の時に読んだドストエフスキーなんです。

――それは、どんなきっかけで、何を読んだのですか?

 : 最初は『白痴』です。劇団四季の『白痴』の芝居に松橋登さんという俳優さんが抜擢された、という記事が雑誌に掲載されたんですが、写真を見たらすごくきれいな人で。それで、「この人が見たい!」という思いで、広島での公演があった時に見に行ったんです。その舞台が面白かったので、原作を手にとったんですよね。長い話ですが、主人公の顔が浮かぶので、うわーっと引き込まれて読むことができました。それに、途中で出てくる人生に対する考察などで、本当にそうだよな、と思えることが多かったんです。それで『罪と罰』を読んでみたら、さらに面白くて。『カラマーゾフの兄弟』は途中で挫折したんですが、以来ロシア文学にハマって、チェーホフやツルゲーネフを読みました。でも、やっぱりドストエフスキーが特に好きでしたね。初めての海外旅行がロシア、当時のソ連だったくらいなんですから。ラスコーリニコフが歩いた道を歩こうと思ってレニングラードに行き、シベリア鉄道にも乗りました。

白痴
『白痴』
ドストエフスキー (著)
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ドストエフスキー (著)
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【小説から脚本まで、ユーモアを追求】

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――そんな風にロシア文学にハマっていた高校生時代も、まわりと口をきかない子だったんですか?

 : それがコロッと変わりました。自分だけの世界にいると、周囲の人がバカに見えていたんですが、高校生になって同級生と本の話などをしてみると、自分よりも偉い人がいるってことに気がついて(笑)。人と話すことの面白さに気づきました。それで、友達と本を交換するようになって、読むようになったのが、筒井康隆さんや小林信彦さん。といっても純文学のほうではなくて、小林さんがいうところの“喜劇的想像力を駆使して書いた”一連のものですね。小林さんの「オヨヨ大統領」シリーズとか『唐獅子株式会社』とか。あとは井上ひさしさん。とにかく面白いもの、スラップスティックなものが多かったです。喜劇的なものが好きな友達がいて、その影響もあったのかも。あとはアメリカのユーモアたっぷりのショートショートや短編を集めたアンソロジー『ユーモアスケッチ集』や、アート・バックウォルドのコラム選集を読んでいましたね。それは今でもとってあります。辛らつだけれど、面白いんですよ。他には、ニール・サイモンの戯曲集とか。

――とにかくユーモアのあるものが好きだった。

 : そうなんです。他には田辺聖子とか佐藤愛子とか、井上ひさしやつかこうへいの戯曲とか。とにかく面白いものを漁って読んでいましたね。笑えるものでないと嫌だったんです。

――戯曲も読まれているようですが、お芝居も好きだったんですね。

 : 劇団四季はよく広島にも公演にきてくれたので、観に行きました。映画もめちゃくちゃ観ていましたよ。友達は、小説は読めるけれど戯曲は読めない、という子が多いなか、自分は戯曲もシナリオもすごく好きで。向田邦子さん、山田太一さん、倉本聰さん…。全部買って読んでいました。映画やお芝居のシナリオを書いてみたいと思ったこともあります。当時から書くことを仕事にしたいとは思っていましたが、小説が書きたい、というよりは、“お話”を書きたいという気持ちが強かったんですよね。ストーリーを書きたいだけで、方法は何でもよかったのかもしれません。

――それは今でもそうなんですか?

 : 今は小説を書いているわけですけれど、文体がどうとか、文学的なものに対するこだわりはありませんね。自分の頭の中で起きている芝居を紙に写している感じです。だからまず会話がパンパン出てくる。ただ、お芝居を書くには、空間を作りだす想像力が必要ですが、それは私にはないので、芝居に関しては今は観る側だけにしておこうと思っています。

【現代作家を読み始めた頃】

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――その後読書傾向はずっと変わらず?

 : そうですね。芥川や三島も読みましたが、最後まで読めなかったんです。美しい文体、というけれど、恐れ多いことに私にはダメだったんですね。高校時代に太宰が読めたのは、ユーモアがあるから。彼自身が言っているように、彼には道化師の部分があるから、キャッキャと笑って読めるんです。でも私が読むと、芥川や三島にはユーモアはなかった。なので、その他でも、読んでいるものはエンターテインメント中心。翻訳ものも含めて、ユーモアのあるものと、あとミステリーは読んでいました。

――どうやって本を選んでいたのですか?

 : 『本の雑誌』で北上次郎さんが推しているのを読んで、篠田節子さんや乃南アサさん、桐野夏生さんを読んだり。「この人は絶対直木賞を取る!」なんて言って、その通りになって悦に入るっていました、そんなのみんなが思っていただろうに(笑)。私は自分で書くのは日常の話が多いですが、読む側としては、桐野さんたちのような、ダイナミックで、大変な状況に陥ってしまう人たちの話が好きなんです。

【“書くこと”を目指して】

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――高校卒業後は?

 : 私はすぐ働きたかったんですが、地方にいて書くことを仕事にするとしたら広告のコピーライターくらいしかなくて。それでコピーの書き方を教える専門学校に行き、卒業後に小さな代理店に入りました。でも、入ってすぐコピーライターになれるはずもなく、何もさせてくれないからつまらない、といって2年で辞めました。それでもう、普通のOLして寿退社して…って人生しかないかな、と思ってOLを2年間ほどやったんですが、ずっとデスクワークなので飽きてしまい、2年で退職。その後映画館でアルバイトをはじめたら、映画はタダで観られるし、人がこない間は好きな本や雑誌が読めるしで、居心地がよくて5年間も続けました。

――その頃は何を読んでいたんですか?

 : 25歳くらいの頃、橋本治さんが『桃尻娘』でデビューされて。まだ単行本になっていない頃、テレビで大橋巨泉が「『限りなく透明に近いブルー』よりすごい作品」と評しているのを聞いて、作品が掲載されている小説誌を買って読んでみたら、ものすっごく面白くて。それで、こういうものなら自分にも書けるんじゃないかって思って、映画館の切符売り場のブースの中で、一気に書いて新人賞に応募したら候補に残って。最終的には落ちました。それで、次の作品を書こうと思ったら、全然書けなくって。ああ、一作ぐらいなら書けるけれど、書き続けていくことは難しいんだな、と学びました。

――その後、フリーライターになられたんですよね?

 : 小説はだめだけれど書く仕事がしたいと思って、タウン誌やコミュニティ新聞の仕事を受けるようになりました。アポを取って取材して原稿書いて…という仕事をやってみて、これは天職、と思いましたね。ただ、仕事がたくさんある訳ではないので、大学院の物理学教室でのアルバイトとかもやっていましたよ。

――上京したきっかけは。

 : 藤本義一さんが広島にいらした時に取材に行っていろいろ話していたら、「あなたももっといろいろやりたいなら、ここにいないで外に出たほうがいいよ」というようなことを言われて。そうだろうな、って痛感したんですよね。その時には30を過ぎていたのでどうしようかと思ったんですが、知人に「35歳までは大丈夫」とヘンな励ましを受け(笑)、東京に姉がいたこともあって上京しました。バブルの終わりで、企業もまだいろいろ情報誌を作っていた頃だったので、その仕事をもらっていました。

【アン・タイラーとの出会い】

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――読書道はどうですか?

 : ライターとして売れっ子というわけでもなくて時間があったので、図書館に行って本を読んでいましたね。ナビゲーターとなったのは北上さんや小林信彦さんの書評。それで、小林さんがアン・タイラーの、確か『アクシデンタル・ツーリスト』を褒めていたんです。それで借りようと思って図書館に行ったら『もしかして聖人』しかなくて、それを借りて読んでみたら、もう、パラッとめくった1ページ目から、わあ、面白い! となったんですよね。1行目からなんてつかみがうまいんだろうと思った。ミステリー以外の翻訳ものを読んだのは久々だったんですが、あれこそ本当にハマる、という経験でしたね。

――どこがそれほどまでに面白かったんでしょう。

 : アメリカのユーモアものの特質って、面白いことは面白いんだけれど、辛らつで、時にそれが上から物を言っているようでむかつくことがあるんです。でもアン・タイラーの小説は、ユーモアはあるのに辛らつなところがない。すっとぼけていて、落語的なんです。それも、談志ではなく志ん生とか小さん的なふわっとしたユーモア。ごく普通の人々の、人間関係のズレを描いてコメディになっている。それがすごく新鮮で、ああ、私も書くなら、こういうものを書きたい、と強く思ったんです。それまで、ただ書きたい、とは思っていたけれど、どういう風にやれば自分が書きたいものが書けるのか分からなかった。でも、アン・タイラーを読んで、これだ、と思いました。今でもそう。私は皮肉屋でキツイこともガンガン言いますが、彼女のように、上からものを見て言うことだけはしたくないって思っています。アン・タイラーのように自然におかしみを出すのは難しいんですけれど。

――ペンネームも彼女からとっているんですよね。

 : アン・タイラーが最終目標ですから。初心を忘れないように、という決意表明と、お守りのようなつもりです。フリーライターを20年もやっていると、器用なところがあるので、「いついつまでにこうしたものを書いてほしい」と言われたら、その期待に応えてしまう自分がいる気がする。でもそんなことをしていると自分自身を見失ってしまいそう。そうならないように、「あなたの目標はアン・タイラーでしょ!」と、自分に言い聞かせるつもりでつけました。それと、平安寿(へいあんことぶき)は大変縁起がいい、と知人に言われたので。まあ、平安寿が1冊家にあれば、読者の方々の家にも福を呼ぶということで(笑)。

――人間関係の妙味を描くのに、これまでの様々な経験も役立っているのでは。

 : 自分はなぜ、ひとところに落ち着かずいろんな仕事をしてきたのだろう、と今考えてみると、ああ、私はいろんな人のことが知りたかったんだ、と思うんです。取材をしていても、有名人のインタビューよりもごく普通の人から話を聞きだすのがすごく楽しかった。そういう、ごく普通の人たちの面白さを書きたい、という気持ちは強いですね。

【作家になってからの読書道】

百年の誤読
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岡野宏文、豊崎由美 (著)
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らも咄
『らも咄』
中島らも (著)
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のだめカンタービレ 10
『のだめカンタービレ 10』
二ノ宮知子 (著)
講談社
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なんにもうまくいかないわ
『なんにもうまくいかないわ』
平 安寿子 (著)
徳間書店
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素晴らしい一日
『素晴らしい一日』
平 安寿子 (著)
文藝春秋
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パートタイム・パートナー
『パートタイム・パートナー』
平 安寿子 (著)
光文社
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――アン・タイラーを目指して書き始めた後、作家デビューされた訳ですが、その後の読書道は?

 : 書評本が好きなので、最近では『百年の誤読』を面白く読みましたね。あとは、昔読んで面白かったものを改めて読んだりしています。さくらももこさんや武田百合子さんのエッセイってやっぱり面白いなと思ったり、中島らもさんの『らも咄』を読んだり。

――やっぱり笑えるもの中心で。

 : 私は面白いものを書きたいと思っているけれど、根が真面目なので、書いているうちに息切れしてくるんです。そういう時に、さくらさんのように作為がなく持って生まれた視点がそのまま面白い人のものを読むと、心の底から笑うことができて、自分自身が書くものも面白い方向にもっていけるんです。ですから、最近は書くためと、自分自身がリラックスするためを兼ねて読んでいますね。あ、あとは、漫画。やっぱり日本の漫画って優れていますよね。二ノ宮知子さんの『のだめカンタービレ』や大島弓子さんの作品を、最近になって読み返しています。それもやっぱり、楽しむため、ということもあるけれど、書くエネルギーを補充するために読んでいるかも。

――そうして書かれた最新刊『なんにもうまくいかないわ』。まずタイトルが秀逸です。

 : 後ろ向きなタイトルだって言う人もいたんですけれどね。でもこれは、「もうっ!なんにもうまくいかないわっ!」と吐き捨てるように言う感じなんで(笑)、おかしいタイトルだと思ってもらえれば。実際モデルがいるんですよ。いつも自分の手にあまる仕事をいっぱい抱えて、「あー、なんにもうまくいかないっ!」が口癖の女性が。

――そんな女性が主人公なわけですよね。

 : ええ、42歳の働く女性が主人公なんですが、彼女が語り手ではなく、彼女に振り回されている人たちが順番に語り手となっています。

――ユーモアたっぷりの中で、働く女性の生活がリアルに浮かび上がってくる小説です。

 : 人間、いくつになったってなかなかうまくいかない。結婚していてもいなくても、それぞれの女性にそれぞれの“しょうがないじゃない”って思うような現実がある…。そんなことも書いてあるような本です。

(2004年12月更新)

取材・文:瀧井朝世

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