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第77回:貴志祐介さん (キシ ユウスケ)

貴志祐介さん イメージ写真

人間の心が引き起こす恐怖を描き、モダンホラーの代表格と称される貴志祐介さん。さらには密室を扱った本格推理小説、SF超大作など、ジャンルにとらわれない作品を発表している著者は、実は幼い頃から様々なジャンルを読んできた大変な読書家でもあります。なんと1日7冊読んだこともあったとか! これまでに読んできた相当数の本の中でも、とりわけお気に入りなのは? そして、執筆に影響を与えた作品とは…?

(プロフィール)
1959年生まれ。京都大学経済学部卒。1997年『黒い家』で日本ホラー小説大賞を受賞。2005年『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞を受賞。最新刊に『硝子のハンマー』のシリーズ作品となる『狐火の家』」がある。ほかに『新世界より』『青の炎』など。韓国映画「黒い家」が4月5日に全国公開される。

 

エルマーのぼうけん
『エルマーのぼうけん』
ルース・スタイルス・ガネット(著)
福音館書店
1,155円(税込)
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エルマーとりゅう
『エルマーとりゅう』
ルース・スタイルス・ガネット(著)
福音館書店
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エルマーと16ぴきのりゅう
『エルマーと16ぴきのりゅう』
ルース・スタイルス・ガネット(著)
福音館書店
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ドリトル先生アフリカゆき
『ドリトル先生アフリカゆき』
ヒュー ロフティング(著)
岩波書店
714円(税込)
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――もっとも古い読書の記憶といいますと。

貴志 : おとぎ話の絵本はたくさん読んだと思います。でもそれは、タイトルも覚えていなくて。はっきりマイフェイバリットとして覚えているのは、『エルマーのぼうけん』『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』ですね。あの三部作は長いことお気に入りでした。ストーリーもさることながら、挿し絵がよかった。「ドリドル先生」のシリーズも、十数巻あるんですが、繰り返し読みました。それが幼稚園から小学校低学年くらいの時です。

――冒険や動物が出てくるものがお好きだったようですね。

しろばんば
『しろばんば』
井上靖(著)
新潮文庫
780円(税込)
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路傍の石
『路傍の石』
山本有三(著)
新潮文庫
940円(税込)
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貴志 : ファンタジー志向がその頃からあったんですね。その後は『少年少女世界の名作文学』という全集を1冊ずつ買ってもらっては読んでいました。たぶん、全50巻のうち、40巻くらいは読んだと思います。『罪と罰』や『アルセーヌ・ルパン』など、世界各国のさまざまな名作が子供向けにリライトしてありました。あれは子供に読書の楽しみを教えてくれる、いい企画だったと思います。この全集を読みつつ、他に『しろばんば』『路傍の石』なども読んでいました。

――幼い頃からそれほど読んでいたとは! とりわけ本好きの子供でした?

貴志 : 親戚の家に遊びに行っても、いとこたちと遊ぶのではなく、勝手に本棚から本を抜き出して読むような子供でした。完全にインドア派でしたね(笑)。

デイヴィッド・コパフィールド(1)
『デイヴィッド・コパフィールド(1)』
ディケンズ(著)
岩波文庫
735円(税込)
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三国志(1)
『三国志(1)』
吉川英治(著)
講談社
777円(税込)
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聊斎志異
『聊斎志異(上)』
蒲松齢(著)
岩波書店
840円(税込)
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改訂版 雨月物語 現代語訳付き
『雨月物語 現代語訳付き』
上田秋成(著)
角川ソフィア文庫
820円(税込)
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――特に好みのジャンルがある、というわけではなく、乱読派ですか?

貴志 : 『少年少女世界の名作文学』になんでも入っていたので、どんなジャンルも受け入れるような素地はできていたと思います。河出書房から出ていた、世界の古典を集めた、箱も装丁も緑色の『世界文学全集』も読みました。確かディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』もそれで知ったと思います。あれは本当に感動しました。緑もおもしろかったんですが、赤い装丁の吉川英治全集で『三国志』を読んだときには、本当にしびれましたね。それが小学校高学年の頃だと思います。

――大長編が好きだったんですか。

貴志 : 読むのはほとんど大長編でした。苦にはならなかったですね。『デイヴィッド・コパフィールド』はとにかく物語として面白かった。次にどうなるのか分からない中で、キャラクターの使い方が実にうまくて。ミコーバーという、非常にだらしない印象の男が最後に救世主になったり、スティアフォースという、主人公が憧れるようないい友人が、成長して変化して、それがストーリー絡んでくる。物語の喜びを初めて味わうような気持ちでした。それにかなりの長編ですから、最後まで読んだ時には達成感もあった。『三国志』もそうした喜びがありました。クラスでは『宮本武蔵』を読んでいる人のほうが多かったかな。昔は自分が一番詳しいと思って、あの合戦で使われた秘密兵器は何か…などとクイズを出して喜んでいたんです。最近はマニアが多く、私よりも細かく知っている人が多くてガッカリしています(笑)。

――そうした本は、どうやって見つけていたのでしょうか。

貴志 : 書店ですね。町に書店がたくさんあって、毎日どこかしらに通っていました。当時は町の書店にも古典があったんですね。お店の人も、子供が古典を立ち読みしていても、文句を言わなかった。非常に寛容な目で見てくれていました。ですから、中学生の頃、一時期立ち読みがクセになって、駅前の本屋さんに毎日通い、分厚い本が三巻ある『聊斎志異』を、しおりをはさみながら全部読みました(笑)。でも1回も文句を言われませんでした。途中で他の本も買いましたし、全巻読み終わった後で、ちゃんと買いましたから。

――『聊斎志異』もいろんな翻訳があるとは思いますが、難しい漢字が多くて中学生にはかなり難しくないですか。

貴志 : 漢語に日本語のルビがふってあってかろうじて意味が分かる程度でした。それは子供にとってどうかという考えもあるとは思いますが、ここまでしか分からない、と決めつけることなく、一緒くたに頭に入れたのはよかったですね、今にして思えば。

――ちなみに、かなり怖い話も収録されていますよね。ここでホラー志向が…。

貴志 : 確かにそうですね。ただ、一番怖いと思ったのは『雨月物語』でした。

【日常に退屈していた中学生】

――小中学校で古典を網羅されたわけですね。

貴志 : そこからエンタメにいきました。中は30分くらいの電車通学だったんですが、その間が退屈でしょうがない。最初は大きな古典の本を持っていったんですが、どうも読みづらくて、文庫を買うようになりました。それでミステリとSFを読むようになったんです。1番読んでいた時は、行きだけで1、2冊読みました。

――読むのが速いんですね!

貴志 : 今よりはるかに速かったですね。朝から晩まで、1日で7冊読んだこともありました。しかも、その中には結構分厚い本も入っていて。映画をはしごする感覚でしたね。

――は、速い! 国内外、どんなものを?

SF教室
『SF教室』
筒井康隆(著)
※絶版
トリフィド時代
『トリフィド時代』
ジョン・ウィンダム(著)
東京創元社
777円(税込)
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渚にて −人類最後の日−
『渚にて −人類最後の日−』
ネビル・シュート(著)
東京創元社
882円(税込)
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貴志 : どちらもですが、翻訳が多かったでしょうか。筒井康隆さんの『SF教室』という名著がありまして、そこに海外編、日本編それぞれ名作が挙げられていたんです。全部読んだんですが、すごいのは、1冊も外れがなかったこと。あれで完全にSFにハマり、それが未だに続いています。海外編から入って、ジョン・ウィンダムの『トリフィド時代』も読みましたし…。同じ本が複数の出版社から訳されているものもあったんですが、当時はおこづかいが限られていたので、早川と創元だったら、安い創元から読んでいました(笑)。

――SFにもいろいろありますが、どんなものが好みだったんですか。

貴志 : 最初に夢中になったのは地球破滅モノです。文明が崩壊して人がたくさん死ぬという。そんなのばっかりでした。そのテーマは読み尽くしたと思います。同じテーマでもアプローチがまったく違うんですよね。ネヴィル・シュートの『渚にて』は純文学に近い作品で、感動の嵐、という感じでした。チャールズ・エリック・メインの『海が消えた時』は『消えていく海』という題名のジュブナイルで一回読んでいて、その後にポケミスで読みました。核実験をしたために海の底に亀裂ができて、水がなくなるという荒唐無稽な展開なんですが、その後にいかに人々が大変な思いをするかというところがリアルでしたね。

――終末思想にハマったのはなぜでしょうか。

貴志 : 今にして思えば、毎日毎日同じことの繰り返しで、刺激がなくてうんざりしていたんです。電車に乗って換えって、それだけでほとんど時間がない。行き帰りの間に本を読むことが唯一のはけ口だったんです。中学生の時は、本当に退屈していました。

――中学生ながら、諦観というか、達観しているといいますか…。

貴志 : ハスに構えているような感じはありましたね。

――その頃、将来の夢などはあったんですか。

貴志 : 一番は、本屋さんだったんです。自分が経営しているなら、立ち読みをしても追い立てられることもなく、読み放題ですから。しかも店を閉めたら、あとは自分の書庫みたいなものですよね(笑)。それは本当にゴージャスなことだと思っていました。でもだんだん、それがいかに大変な仕事か分かり、中学生の終わりくらいには、ちょっと厳しいかな、と思っていました。

――ご自身でSFを書いてみたりはしなかったのですか。

貴志 : プロット的なものは書いていました。終末モノをたくさん読んでいた頃に、自分だったらもっと恐ろしいものを書けるんじゃないかと思って。その時に書いたのは、冬虫夏草の、人間に寄生するバージョンのものが広まってしまって…という話を書きました。人がバタバタ倒れて、その背中からは冬虫夏草が生えているという。

――そうしたSFを書くことに興味があった、という面が、今年刊行の『新世界より』に繋がっているんですね。

貴志 : SF志向はありました。いつか書きたいと思っていました。

――ちなみに、ミステリも読まれた、というのは…。

グリーン家殺人事件
『グリーン家殺人事件』
ヴァン・ダイン(著)
創元推理文庫
714円(税込)
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ビロードの爪
『ビロードの爪』
E.S.ガードナー(著)
東京創元社
561円(税込)
※品切れ・重版未定
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貴志 : ミステリは、創元推理文庫でクリスティーやヴァン・ダイン、エラリイ・クイーンといった、昔の本格ミステリを読みました。『グリーン家殺人事件』というような。もうひとつ、「ペリイ・メイスン」のシリーズも好きで、あれもほぼ全部読んだと思います。

――名探偵とか、名弁護士といったキャラクターが好きだったのですか。

貴志 : というわけでもなく、文庫の内容紹介の部分で、こういう場所で人が死んで、周囲には足跡ひとつなくて…と書かれてあるのを読むと、ワクワクするんです(笑)。でも実際には、読んで満足するのは10冊中の2、3冊でしたね。ただ、だからこそ長続きした気がします。次に読む作品は面白いかどうか、ギャンブルや宝探しの気分になれましたから。SFの場合、外れの作品は少なかったのですが、ミステリは外れも含めて楽しかった。

――ガッカリするのはどんな作品なんですか。

貴志 : ありえないだろう、と言いたくなるようなもの。この場面でなぜ誰も気づかないんだ、誰かは分かるはずだろう、と。今にすると、それも読書の楽しみだったんですよね。

――SFは『SF教室』という指南書があったわけですが、ミステリの場合は。

貴志 : 指南書は特になく、文庫を読んで面白かったらその作家のものをすべて読んでいました。ただ、言っていいかどうか分かりませんが、クリスティーはある短編を読んで、一切読まなくなりました。タイトルは覚えていないんですが…。ある男が殺人を犯したと分かるんですが、ポアロは決定的な証拠がつかめないまま野放し状態になる。エピローグで、ヘイスティングスが朝食をとりながら新聞を読んでいたら、飛行機事故のニュースが載っていて、犠牲者の中に犯人の名前が載っている。「神の裁きがくだされた」とあって…。他の犠牲者はどうなるんだ、と憤りを感じました。それ以来、クリスティーは読まなくなったんです。そんなことで読まなくなったのはクリスティーだけです。

――中学生の時に、そんな理知的な判断を。

貴志 : 中学1年生の時ですが、頭で考えたというより、とにかく腹が立っただけです。トリックが弱かったり、登場人物が人間としてひどい行動をしてしまうのは、許せなくはない。でも、その部分は作者の意見だったので、どうにも許せなかったですね。

――そうした感想を記録していたんですか。日記などは。

地球の長い午後
『地球の長い午後』
ブライアン W.オールディス(著)
ハヤカワ文庫
672円(税込)
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リュウの道(1)
『リュウの道(1)』
石ノ森章太郎(著)
竹書房
672円(税込)
※品切れ・重版未定
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貴志 : つけかけたことはあったんですが、読む量が多くて追いつけなくて。星の数か何かで、評価はつけていたと思うんですが…。「SFベスト1」といったリストは作っていました。本を読むたびに順位が入れ替わる中で、長いこと1位を保っていた、というか、今でもある意味1位なのはブライアン・W・オールディスの『地球の長い午後』ですね。あれはSFとしてもファンタジーとしても素晴らしい。たぶん、何億年も後の地球が舞台なんです。自転が止まっていて、動物のほとんどは滅びている。植物が繁殖していて、動き回ったり、生き残っている人間を襲ったり、月に糸をかけて行き来したり…。想像力の限界に挑んだ作品と言われていますが、そうした異様な世界を描きながら、非常に詩情が漂っているんですね。石ノ森章太郎の『リュウの道』というSF漫画があるんですが、この作品にかなり影響を受けているようで、この部分はあの場面の影響だな、というのがかなり分かります。

――漫画もよく読まれていたんですか。

貴志 : 読みましたが、少なかったですね。活字のほうが長時間楽しめるし深い部分まで味わえたので。活字だと、作者の文章のせいなのか翻訳のせいなのか、どう考えても想像できない生物が出てくる作品もありましたが、それもツッコミながら読む楽しみがありました。

――完全にエンタメ一色だったんですか。それと、中学生はおこづかいが少なくて大変だったと思うんですが。

貴志 : SF5割、ミステリ4割弱、あとはそれ以外のもの、という感じでした。おこづかいはすべて本に使っていました。それに、本だと比較的、親に買ってもらいやすかったということもあります。相当数購入していたので、自分の部屋の本棚にすべてを並べるわけにはいかず、読まないものは段ボール箱に入れて片づけていたんですが、その選別も難しくて。再読もずい分していたので、段ボールに入れてしばらくしてから、やっぱり読みたくなることもあって…。

――そんなに新たに購入して読んでいながら、再読もしていたんですか。

貴志 : 気に入った本は何回も読みます。特に「ドリトル先生」は10回20回…いや、もっと読んでいるかもしれない。『地球の長い午後』も5回くらいは読んでいると思います。

――展開は分かっていますから、ストーリーを追う楽しみとはまた別の喜びが。

貴志 : 展開が分かっていても、なおかつ面白いと思えるものだけ読むんです。ストーリーが分かっているからこそ、安心して読めるともいえますね。裏切られる心配がないわけですから。

【生死をかける冒険小説に夢中】

芽むしり仔撃ち
『芽むしり仔撃ち』
大江健三郎(著)
新潮文庫
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遅れてきた青年
『遅れてきた青年』
大江健三郎(著)
新潮文庫
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世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)』
村上春樹(著)
新潮社
620円(税込)
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ノルウェイの森(上)
『ノルウェイの森(上)』
村上春樹(著)
講談社文庫
540円(税込)
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――高校に進学後も、読書傾向は変わらず、ですか。

貴志 : その後、進歩していませんね。その時々によって読む作家が変わってきた、というくらい。その頃から今に至るまで読んでいるのは筒井康隆さんくらい。一時期はすごくよく読んでいました。大江健三郎さんも初期の『芽むしり仔撃ち』『遅れてきた青年』などはダイナミックで新鮮に思いました。その後、大江さんと入れ替わるように村上春樹さんを読むようになって…。最初は文庫で『羊をめぐる冒険』にハマって、遡って『1973年のピンボール』や『風の歌を聴け』などを読み、その後の作品も今に至るまで読んでいます。やっぱり文章の魅力が大きいですね。どれも好きですが、特筆したいのは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』ですね。それと、あまりベストセラーを褒めたくはないけれど(笑)、『ノルウェイの森』。「螢」という短編を下敷きにして、あれだけのものを書くとは。

――SFやミステリで夢中になった作品は。

貴志 : フォーサイスの『ジャッカルの日』は、衝撃的でした。文学的でない、という声もあって評価は分かれるんですが、私にとっては本当に面白かった。だれたところが何もない。緊密にプロットが組み立てられているんですよね。『オデッサファイル』もそうですし、初期の三部作の中で一番完成度が低いように言われる『戦争の犬たち』も、フォーサイス自信が企てたクーデター計画をなぞっているので、すごく興奮しました。その後の『悪魔の選択』もすごいと思いまして。そこで使われた殺人の方法が、現実には不可能だと指摘するミステリ作家の方もいて、確かにそうなんですけれども、それでも作品の価値は落ちないと思いました。

ジャッカルの日
『ジャッカルの日』
フレデリック・フォーサイス (著)
角川文庫
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オデッサ・ファイル
『オデッサ・ファイル』
フレデリック・フォーサイス (著)
角川文庫
819円 (税込)
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戦争の犬たち
『戦争の犬たち(上)』
フレデリック・フォーサイス (著)
角川文庫
567円 (税込)
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悪魔の選択
『悪魔の選択(上)』
フレデリック・フォーサイス (著)
角川文庫
609円 (税込)
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シャドー81
『シャドー81』
ルシアン・ネイハム (著)
新潮社
※絶版
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――本格ミステリから、冒険小説へと移行していったんですね。

貴志 : 完全な本格モノを読んでいたのは小学生1年生くらいですね。それ以降はサスペンスや冒険小説が多かった。『シャドー81』という素晴らしい作品もあって、そちらの方向に移っていきました。本格とそうした冒険小説とを比べると、物語としての面白さは比較にならない。謎ときの要素がありつつ、人間が苦闘する物語に惹かれました。ですから、主人公が漫然と日々を過ごすような純文学的作品も読まなくなっていて。エンタメの主人公は生きるか死ぬかで必死ですから、どっちが面白いかというとやはり…。

――そして、SFも読みつつ。

1984年
『1984年』
ジョージ・オーウェル(著)
早川書房
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1984
『1984』
George Orwell(著)
Longman Group United Kingdom
1,032円(税込)
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貴志 : そうですね。ジョージ・オーウェルの『1984年』も衝撃的な読書体験でした。英語でチャレンジした数少ない作品です。英語力をつけようと思って『アニマルファーム(動物農場)』を副読本で読み、それは読み通したんですが、『1984年』はなかなか進まなくて。難しかったんです。でも、原書で読むとまた違う印象を抱くので、読めるのであれば、原書で読むのもいいと思います。独裁主義国家の基礎となる論文が出てくるんですが、普通の論文は退屈なのに、それはワクワクするほど面白くて。未来の英語、「ニュースピーク」というのがあり、言葉を単純化していく。「グッド」の反対語の「バッド」は廃止して「アングッド」、上級は「プラスグッド」、最上級は「ダブルプラスグッド」…。そんな説明が楽しかった。

【大学生時代はノンフィクションを】

利己的な遺伝子
『利己的な遺伝子』
リチャード・ドーキンス(著)
紀伊国屋書店
2,940円(税込)
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攻撃 悪の自然誌
『攻撃 悪の自然誌』
コンラート・ローレンツ(著)
みすず書房
3,990円(税込)
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永遠の少年 『星の王子さま』−大人になれない心の深層
『永遠の少年 『星の王子さま』−大人になれない心の深層』
M‐L.フォン・フランツ(著)
ちくま学芸文庫
1,365円(税込)
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――大学は、京都大学の経済学部に進まれたとか。経済関係に本などもお読みになったのですか。

貴志 : たくさん買いましたけれど、面白くなかったですよ(笑)。だから読めないんですね。その変わり、小説ばかり読んでもなんだと思い、生物学や心理学の本をたくさん読みました。こういう仕事をする時の、ものの見方の基礎になったと思います。一番衝撃的だったのは、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』。当時は『生物=生存機械論』というタイトルでした。それを読む前に、ドーキンスの説を簡単に紹介したものを読んだのですが、それは要約が駄目だったのか、こんな馬鹿な話はない、と思って。それが、この本を読んだら本当に目からウロコが落ちる思いでした。生物が子孫を残すために遺伝子があるのではあく、遺伝子が残るために生物が作られた、という、今ではある程度常識になっている考え方です。世の中を覆っているものがはがれ落ちて、いろんなものがクリアになったと感じるほどでした。

――生物学や動物行動学などの本をお読みになったことは、『新世界より』へつながっているように思いますが。

貴志 : ドーキンスの本と、コンラート・ローレンツの『攻撃』も影響がありました。そして『地球の長い午後』。あれを読んだ時に自分も書いてみたいなと思ったのがようやく叶ったわけです。構想30年と言っていますが、そこから考えると40年ですね。

――心理学の本は、どんなものをお読みになったのですか。

貴志 : まずフロイトから読もうと思ったんですが、どうも言っていることが胡散臭い。そんなにみんな性的なことばかり考えているのかな、と思って。ユングはよく読みました。ちょっとオカルトっぽくてインチキっぽいところがいい(笑)。私は、基本はオカルト的なものは一切信じない、ガチガチの合理主義者なんですよ。だけれども、時々遊びもほしくなる。でも、ニューエイジに振り切れているのは信用できない。ユングはそのバランスが絶妙なんです。ちょっと文学的ですし。ハマったのは、マリー・ルイゼ・ファン・フランツの『永遠の少年』という名著。『星の王子さま』を心理学的に分析しているんです。批評というものが原典を越えてスリリングな場合もあるんだと教えてくれた本です。例を挙げると、ゾウが4頭描かれている挿し絵がありますよね。するとユング主義者は食いつくんです。4というのは、人間の心を示す「論理」「直感」「感情」「感覚」を表す数字。で、3頭は横を向いているのに1頭は後ろを向いている。これは著者の劣等的機能である「感情」である、というんです。単に4頭描くスペースがなくなっただけにも見えるんですけれど(笑)、そんな風にすべてを解釈していくんです。バオバブの木は母親の象徴だ、とか。力業ですね。

――ところで、なぜに経済学部に進学されたんでしょうか。経済にご興味はあったんでしょうか。

貴志 : 文学部に行きたいと言ったら親や教師から反対され、しょうがないから法学部に行こうとも思ったんです。弁護士になろうか、という気持ちもあって。ただ、私の年は浪人すると、翌年は共通一次が始まることになっていた。浪人するわけにはいかないので、模試の結果で合格圏内であった経済学部にしました。ですけれど、たまたま入ったところで経済学に目覚めて経済学者になる、なんてことはないんですね。読者の方に言いたいんですが、自分の進路は自分で決めるべきです(笑)。そういえば、受験の時の読書のペースと、大学生になってからでは、暇になったにも関わらず、変化はないですね。人間って、忙しい時のほうがむしろ時間を有効に使うもの。試験前になると無性に本が読みたくなったりしましたから。

【SFを書き始める】

――卒業後は、生命保険会社に就職されたんですよね。

貴志 : この頃すでに作家になりたい気持ちはあったんです。大学4年生の頃には投稿もしていました。でも遠い道だし見通しもない。それだったら一番カタそうなところに行こう、と思い、最初に面接に行ったところで決めました。

――勤めながら、応募を続けようと思ったんですか。

貴志 : その気はなかったですね。趣味として本を読めばいいと思っていました。でも、会社に入って何年かすると、どうしても書きたい気持ちが芽生えてきて。当時、飯田橋の寮にいたんですが、仕事が終わるのが遅い時は10時11時、翌日になることもあるなかで、目覚ましを朝の4時にかけて、朝起きて書いていました。あの時の根性があれば、今どれだけ書けることか(笑)。

――どんな作品を書いていたのですか。

貴志 : SFですね。終末モノのハードボイルドみたいなものです。自分の中と外に敵がいて、中からは食い荒らされ、外からは攻撃され、バラバラになりながら闘うような話でした。

――仕事をして、執筆して。時間がないでしょうから、読書量も減ったのでは。

復讐の序章
『復讐の序章』
ジャック・ヴァンス(著)
早川書房
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虚航船団
『虚航船団』
筒井康隆(著)
新潮文庫
820円(税込)
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貴志 : 減りましたね。仕事でも分厚い英文の契約書を読まないといけなかったり、目を使うことが多く、疲れてしまって。目が疲れると読書量は落ちますね。読んでいたのは、SFです。今思ったのですが、現実逃避したい時はSFを選ぶ傾向がありますね。生命保険会社に勤めているので、保険金殺人の本なんて読みたいとも思わない(笑)。勤めていた8年間のうち、1年は香港にいたんですが、やっぱり現実逃避したくなって、SFばかり読んでいました。そごうの書籍売場にも足を運んだし、OCSのサービスで日本の雑誌や本が取り寄せられるのですが、それも『SFマガジン』や『SFアドベンチャー』といったものばかり(笑)。その頃読んだなかでは『復讐の序章』から始まる、ジャック・ヴァンスの「魔王子」シリーズがソフィスケイトされていておもしろかった。簡単にいうと、全5巻の復讐の話です。主人公の住む星が5人の魔王子という凶悪犯罪者に滅ぼされ、唯一生き残った子供が大人になってから復讐を開始する。1巻で1人ずつ復讐を遂げていくんですが、この魔王子のキャラクターが奇人変人ばかりで、普通の悪人は一人もいない。アイデアも面白くて、誘拐事件が起きた時に人質と身代金を安全に受け渡しするために公的機関があったりする。その頃会社でやっていたのが、外債を買う仕事で。ヨーロッパ債権を買って日本からお金を送金して受け渡しをする。その機関やしくみが、そっくりなんです。そういうところが楽しかった。

――作家志望として、同時代の作家がどんなものを書いているかチェックしたりなどは。

貴志 : ライバル視するというより、読んで面白いと思えるものを選んでしました。筒井康隆さんは相変わらず読んでいました。スラップスティックからだんだん純文にいって、『虚人たち』を読んで驚きもしましたが、パーソナルベストは『虚航船団』ですね。むちゃくちゃなんです。宇宙戦争の話なんですが、戦っているのが、イタチと文房具。三角定規とかコンパスなんです。SFファンでも相当頭が柔らかくないと受け入れられないのではないかと思いますが、これは本当に見事な作品だと思います。イタチと文房具を、活き活きと人間的に描くことなんて、普通はできませんよね。それをやっているんです。文章も非常に濃密で、読んでいるだけである種の悦楽を感じるような作品でした。

【ホラーに目覚める】

――デビューはホラー作品ですが、SFからホラーへと移行した理由は。

貴志 : まず、SFマガジンのコンテストに応募しまして、1作だけ佳作になったんですね。その時に書いた短編が『新世界より』の原型なんです。今回の内容を120枚で書こうとして失敗しました。

――確かにそれは無理です!

リング
『リング』
鈴木光司(著)
角川ホラー文庫
567円(税込)
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貴志 : その変わり、60枚くらいの短編を書いて、雑誌に載せてもらえたんです。もう、嬉しくて仕方ない。でも原稿料を見ると生活できる線が見えてこない。それで一度は諦めかけました。でも、ちょうど世間ではミステリの新人賞がどんどん創設されていて、賞金も上がって500万や1000万になっている。これを取れば、作家になれるんじゃないかと思いました。賞金をもらえば1年間は生活できるし、その間に執筆できますから。ミステリはもともと好きだったので、これでデビューしようと思っていろいろ書いたわけです。でも、現在とはミステリ観が違うんですが、当時は自分で書こうとすればするほど、書き尽くされた感があって。どう書いても、すでにどこかで書かれているような気がしてしまう。そんな時に、たまたま『リング』を読んだんです。正直、何の期待もなく、寝る前にちょっと読もう、くらいの気持ちでした。12時くらいに読み始めて、そのまま最後まで一気に読みました。これは面白いじゃないか、と思いました。ホラーというのは、ミステリの文脈でまったく新しいものが書けるんだ、と気づいたんですね。そうしたら『リング』が遠因になったのか、ホラー小説大賞が創設されて。これだ、と思いました。ミステリ的なもの、SF的なもの、ホラー的なもの…。自分の志向のすべてがそそぎ込めると思いました。それで、第1回目から応募し、第3回で佳作となり、翌年大賞を受賞してデビューできました。

十三番目の人格(ペルソナ)―ISOLA
『十三番目の人格(ペルソナ)―ISOLA』
貴志祐介(著)
角川ホラー文庫
693円(税込)
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黒い家
『黒い家』
貴志祐介(著)
角川ホラー文庫
714円(税込)
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みなさん、さようなら
『みなさん、さようなら』
久保寺健彦(著)
幻冬舎
1,575円(税込)
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――佳作となったのが『十三番目の人格−ISOLA−』で、大賞を受賞したのが、保険金が絡む『黒い家』。これは日本でも映画化されましたが、韓国版『黒い家』が4月5日に日本でも公開になりますね。これがもう、めちゃめちゃ、とんでもなく怖い、という噂です。

貴志 : 私は3回見ました。ストレートに怖いですよ、直球です。私もちょっとだけ出演するために韓国まで行って撮影したんですが、その部分はカットされてしまいました(笑)。

――そういえば、ホラー系の作品は、あまり読書歴の中で挙がっていませんが…。

貴志 : 読んでいたのはスティーブン・キングくらいでしょうか。あとはロバート・R・マキャモンとか。キングよりもオカルトぽくなると趣味じゃない。今もゴシック・ホラーはあまり得意ではありませんね。ですからホラーを書こう、と思ったのはいいけれど、自分にとって怖いものは何かと考えていくと、地味でリアルな話ばかりで。ホラー小説に結びつくような恐怖が見つからなかったんです。生命保険会社にいた最後の年に、京都支社に勤めていて経験した、人の心がないんじゃないか、と思った恐怖が、やはり自分の中で一番リアルだし、あの当時の嫌で仕方なかった思いは共感を得られるんじゃないかと思って『黒い家』を書きました。結局そのおかげでデビューできました。

――作家になられてからは、ずっと関西にお住まいですよね。仕事スタイルなどは決まっているのでしょうか。

貴志 : 1日のリズムは決めていません。仕事が最高潮の時は1日中書いていますが、そうでなければ夜書くことが多いですね。12時から書き始めて『おはよう日本』や『めざましテレビ』を見て寝ます。作品世界に没頭しおうと思ったら、夜のほうがいいんです。

――読書の習慣は。

貴志 : 今のほうが時間があるので本を読めるはずなんですが、過去に比べても多くはなっていませんね。ひとつは目が疲れる、ということもある。近眼が極限まで進んでいますから。資料として読む本も多いので、楽しみとして読むものは減りました。最近読んで面白かったのは、久保寺健彦さんの『みなさんさようなら』。ジーンとくる話なんです。団地の住んでいる小学生がいて、ある事件をきっかけに心理的に団地から出られなくなってしまう。その事件というのが悲劇的でもあり、現代的でもある。そして大人になるまで団地の中だけで過ごしていくんですが…。これは勇気を与えてくれる本でした。

【新作について】

――ところで、本格モノは幼い頃に卒業されていますが、密室モノはお好きだったんですか。

貴志 : 好きでした。不可能犯罪として、何が不可能なのか、端的に提示できますよね。アリバイ崩しは結構難しいし複雑。でも、密室は入ることができたはずがない、出られたはずがない、つまりは殺せたはずがない、と分かりやすい。

硝子のハンマー
『硝子のハンマー』
貴志祐介(著)
角川文庫
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狐火の家
『狐火の家』
貴志祐介(著)
角川書店
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おだんごぱん
『新世界より(上・下)』
貴志 祐介 (著)
講談社
各1,995円(税込)
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――それで、密室の謎を解き明かす防犯コンサルタント・榎本が活躍する『硝子のハンマー』をお書きになったのですか。榎本が登場する密室モノを集めた最新短編集『狐火の家』も、バリエーションに富んだ内容で楽しいですね。

貴志 : 一度書いてみたかったんです。それで『硝子のハンマー』を書いたら、脳が密室づいてしまって、トリックがポコポコ浮かんできて、全部書きたいなあ、と思って。

――『狐火の家』は、巻頭の表題作はかなーり恐いですが、最後の書き下ろしの短編「犬のみぞ知る」は、大爆笑でした。

貴志 : バランスを考えたんです。最初はホラーぽいし頭を使ったものなので、2番目は、見方によっては恐い話にして…。「犬のみぞ知る」はバカミスを書こうと思ったんです(笑)。

――登場人物が、「飛鳥寺鳳也(あすかでらほうや)」とか「左栗知仔(ひだりくりちこ)」などと、かなり奇妙で笑いました。これって、何か意味があるんですか。

貴志 : ああー、誰か分かるかと思ったら、誰も分からないんですよ(笑)。ボクサーたちの名前なんです。オスカー・デ・ラ・ホーヤや、ビタリ・クリチコといったスターたちの名前なんです。

――そうなんですかー! この密室シリーズは、この先も読めますか。

貴志 : あと4作書くことは決まっています。

――楽しみです。今年になって2作品刊行されていますが、それまでずい分読者は待ちました。それは大長編『新世界より』の執筆のためですか。

貴志 : 3年半あきましたよね。『新世界より』は分量にするとこれまでの自分の本の3冊分くらいあるんです。その間に、『狐火の家』を1編ずつ書いていました。『新世界より』は、書いている時間よりも止まっている時間のほうが長かったですね。どちらの方向に行こうか、迷っていた期間がありましたから。最終的にはあれがいいと思いました。

――破壊尽くされた後の日本で、人々は呪力によって管理支配されている。何も知らずに育った子供たちが体験する恐ろしい出来事が描かれていく。奇妙な生き物たちと共存する、遠い未来の田舎の村の、少年少女の物語と思ったら……。圧倒されました。大学生の頃から書きたいと思っていたSFを、ついに。

貴志 : ある意味、自分の趣向がすべて出た作品ではないかなと思います。今日食べた食品が明日のあなたになる、という表現がありますが、今日読んだものが、明日書くものの礎になるんですね。

――ということは、今後はホラーや密室モノだけでなく、さまざまなジャンルを書いていかれるんですね。

貴志 : ジャンルに関わらず、SFなのかミステリなのかホラーなのか、境界線も分からないような作品も出てくると思います。今後は、本の出ない年はないようにしたいと思っています。

(2008年3月28日更新)

取材・文:瀧井朝世

映画「黒い家」

08年4月5日、お台場シネマメディアージュ、六本木シネマート、池袋シネマ・ロサ他にて全国ロードショー

狐火の家
  • 原作:「黒い家」貴志祐介(第4回日本ホラー小説大賞受賞)角川ホラー文庫刊
  • 監督:シン・テラ 出演:チョン・ジュノ役:ファン・ジョンミン/パク・チュンベ役:カン・シニル/シン・イファ役:ユ・ソン
  • 配給・宣伝:角川映画 宣伝協力:トルネード・フィルム
  • 2007年/韓国映画/35mm/カラー/スコープサイズ/Dolby Digital SRD/104分/R−15指定
  • コピーライト:©2007 CJ Entertainment Inc. All Rights Reserved.
  • 公式サイト:http://www.cinemacafe.net/official/kuroiie/

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