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ハバナ・ミッドナイト
ハバナ・ミッドナイト
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
ホセ・ラトゥール
定価 777円(税込)
2003/3
ISBN-4151722025

 
  鈴木 崇子
  評価:B
   原題は「THE FOOL」らしい。主人公のランダは砂糖相場のアナリスト。密命を帯びてメキシコでコスタリカ人になりすますが・・・。
 作者は社会主義のキューバの現状を主人公のセリフを借りて、痛烈に批判している。不平等な富の分配に憤り、社会主義の理想とかけ離れた現実を憂いている。 
 正義感も強く、酒にも強そうなランダだが、女性には弱い。恋愛沙汰がもとで仕事と家庭を失いつつもその彼女が忘れられず、ハバナでは美人歯科医に誘惑され、メキシコでは古代遺跡を舞台にラブシーンを繰り広げ…、何だかモテモテだ。陰謀、理想、恋愛、各要素がからんで飽きさせない展開だが、ラストはやけにドライで、虚しい。

 
  中原 紀生
  評価:A
   キューバ生まれの作家が書いたキューバ人を主人公とする、パルプ・フィクションの色濃い犯罪小説。訳者によると、本作に先立つ長編第一作で、ラトゥールは「キューバン・ノワールの先駆者」ともてはやされたのだそうだが、この初めて読んだキューバン・ノワールは結構いい味を出していて、たとえて言えば、マイルス・デイビスのソロがどこか遠くで通奏低音のように低く響いている、モノクロの古いサスペンス映画を観ているような懐かしさを覚えさせられる。先物市場アナリストの知性と社会主義的理想(「いやにマルクス主義めいた理屈をいうのね」)を併せ持つ、主人公アリエスの矛盾した人物造形と、二人の魅力的な女性(ハバナの歯科医クリスチーナとアメリカ人天文考古学者のヴァージニア)とアリエスの絡みは、この作品の捨てがたい魅力だ。──結末は苦い。この苦さが読み終えてしばらく凝りとなって残る。だが、数日反芻しているうち、苦みは熟成され、深い余情となった。

 
  渡邊 智志
  評価:C
   キューバという国の政治的な位置関係が判っていないので、何がどのようにサスペンスフルなのかまったく理解しないまま読み進めてゆきました。どうやら非常に危ない計画を実行しようとしているらしい、どうやらハラハラドキドキするシーンが展開しているらしい、どうやらスパイ物の要素が加味されているらしい…、などなど。また経済用語も差し挟まれますが、どうやら黒幕は不埒な手段で闇金をボロ儲けしようとしているらしい、ところがそれがどのような仕組みでなぜお金儲けが出来るのか、それが全然ワカラナイ…、という貧困な読解力! こんな無知な読者でありながら、ふつうなら使わなくても良い想像力(妄想力?)を働かせながらエイヤエイヤと力まかせに読書をするのは、意外と楽しいものです。たぶんそんなに難解な内容ではないです。好みの差はあれ、エンターティンメント小説として充分な水準に達しているに違いない、と思います。保証はしませんが…。