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ウルトラマンの東京
ウルトラマンの東京
【ちくま文庫】
実相時昭雄
定価 819円(税込)
2003/3
ISBN-4480038043

 
  池田 智恵
  評価:A
   「過去は常に新しく、未来は不思議に懐かしい」という言葉がある。誰がどんな意図で使った言葉かは知らないが、「ウルトラマン」の魅力を説明する際に、この言葉がぴったりくるんじゃないか。と、本書を読みながら思った。
 テレビ放送は1968年。多くの地からそのおもかげが失われた昭和期の風景。そして、未来への夢を託された独特の造形の、基地や戦闘機。それらが奇妙に混在した映像は、不思議な郷愁を持ったワンダーランドとしてこちらの眼に飛び込んでくる。だから、ウルトラシリーズは30年後の今でも懐かしく、新しい。
 本書はそんなウルトラシリーズの軌跡を追う形で、東京近郊をルポする郷愁にあふれた本である。著者は監督の一人として、鬼才の名を欲しいままにした実相寺昭雄。昭和の東京の町並みを、愛情を持って浮かび上がらせる本文はもちろん、著者自身による繊細さあふれるさし絵がいい。ウルトラ好きなら買い。私みたいに。

 
  児玉 憲宗
  評価:B
   ウルトラマンが活躍した時代(昭和41年)に5歳だったわたしはまさに「ウルトラマン世代」である。
 ウルトラマンなど特撮作品に監督として関わってきた実相寺昭雄さんが、当時のロケ現場を再訪しながら、わずかながらに残っている面影を見つけては懐かしみ、かけらも残さない変わり様を見ては感慨に耽る。ロケ現場ごとに明かされるエピソードは、深く関わってきた著者でなければ語れない裏話が多く、わたしたちにとって懐かしさよりも新たな発見が上まわる。
 これを読むと、ウルトラマンのようなヒーローはこの時代だからこそ生まれたと感じざるを得ない。落書きから生まれたガヴァドンや元々人間だったジャミラなどの愛すべき怪獣たちも同じだ。ヒーローを振り返ることはその時代の自分に戻らせてくれる気がするし、夜空に輝く星を眺めていると、怪獣たちが本当にいるような気がするから不思議だ。

 
  中原 紀生
  評価:B
   ウルトラマン・シリーズのロケ現場をめぐるタイムトラベルは、「東京オリンピックが終わり、新幹線が開通し、東京の各地で敗戦の余燼が消えかかろうとしていたころ」から始まる。それは、「高速道路が東京を醜く変え、堀と水を抹殺し」はじめたころ、「高度成長時代の黎明」である。ウルトラマンや怪獣たちが活躍したのは、まさにそのような時代であった。実相時昭雄さんは、「怪獣たちは消えた風景のそのものだった、と思わずにはいられない」と書いている。(それでは、宇宙人や地底人は、いったい何だったのだろう。)──今となっては、『ウルトラマン』はある世代の幼児・少年期の記憶であり、ある時代の都市の記憶である。「過去への旅は、つらいことも甘美さと同居している」。多くの怪獣たちを倒したウルトラマンは、はかりしれない悲哀を胸にひめていたに違いない。

 
  渡邊 智志
  評価:A
   子供の頃毎週ウルトラマンのテレビを見て、4歳年上の兄に「どうして怪獣はいつも東京に来るの?」と質問しました。「東京は首都だから」という返事でした。納得…。大人になって東京に住んであちこち(もちろん砧スタジオの周辺も)歩き回って、その空気を肌で感じたりした程のファンです。近年、過去の特撮ドラマの掘り起こしや内幕モノがたくさん出版されていますが、この本はいろんな意味で別格です。ウルトラマンなんて子供向け、と見下すなかれ。そこに関わったたくさんの人々が低予算と経験不足の中で、工夫と想像力を120%発揮して少しでも良いモノを作ろうと奮闘した記録は、感動的です。好きな人が好きなモノに打ち込んでいる姿は清々しい。随想風なくだりや特殊な固有名詞も頻出するので、映像を見たことがないとちょっと辛いかもしれませんが、知っていればもう少し楽しめる、という程度です。挿画は画集として出版して欲しいくらい大好きです!