年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班

TOKYO STYLE
TOKYO STYLE
【ちくま文庫】
都築響一
定価 1,260円(税込)
2003/3
ISBN-4480038094

 
  池田 智恵
  評価:A
   坂口安吾に「人間が生きて、魂が在れば、そこに真実の美しさがあるのだ」(日本文化私論)みたいな主旨の言葉がある。この本を見ながら、そのことを思い出した。
 ウサギ小屋と称される、都市居住者たちの小さな住みかを撮った写真集。人は一切撮されていないんだけど、部屋の中には居住者それぞれの影が残されているところが面白い。都市に住むっていうことの感覚が具体的に伝わってくる。ウサギ小屋にだって生活があって宇宙があるのだ!という気分になる。なにより、写真集でしか味わえない面白さにあふれているところが好きだ。「百聞は一見に如かず」ってやつだ。だから解説不要。まず「見て」欲しいのだ。そこからよその人の部屋の中をのぞく快感を味わうもよし。貧乏と言いつつ、モノがあふれる部屋から現代社会を読み取るもよし。写真集ならではの想像の余地をじっくり味わって欲しい。

 
  延命 ゆり子
  評価:A
   超ーきたなーい。と最初は思った。足の踏み場もなく、モノが散乱して大変に埃っぽい部屋の数々。グワーっと掃除したい!というオバちゃん根性がむくむくとこみあげる。しかし、しばらく読み進めるうちに、子供の頃そういう部屋に憧れたことを思い出した。万年床に、その横に詰まれた本やCD。タバコを燻らせながら、哲学的な思想を友人達と語り合う。そういう70年代な雰囲気をかつて私も求めていたのではなかったか。ここに登場する若者達の部屋は、こざっぱりという言葉とは反対の位置にある。だが、どの部屋にも住人のがっつりとした存在感が滲み出ていて、なにやら頼もしく思えるほどだ。著者の愛のあるコメントも素敵。若者達の自由な生き方に少し気持ちが軽くなった。

 
  児玉 憲宗
  評価:B
   神がかり的なリフォーム番組やハイセンスなインテリア雑誌に憧れと同時に嘘っぽさを感じずにはいられない。この写真集にまとめられた「東京の安い部屋」こそが生活感のあるリアルな空間だ。
 人間の顔と同じで部屋もみな違う。十あれば十通りの個性がある。壁に貼られた第三舞台のポスター、積み上げられたCDのコレクション、畳には猫の足跡。粗末な部屋とは不釣合いな音響装置、サーフボード、自転車。どれもかけがいのない宝物に違いない。
 これらの部屋に感じ取られるものはその住人にのみ得られる「居心地の良さ」だ。それは彼らにとって世界でたった一つの空間なのだ。

 
  鈴木 崇子
  評価:A
   同じく都築氏による全国の珍スポットを集めた「珍日本紀行」(文庫版)も愛読書(?)の中の一冊。東京の安い部屋ばかりを集めたこの写真集も高くて買えなかったので文庫にしてくれてありがとう、という気持ちだ。
 都築氏の視点が好きだ。よそいき顔のすました姿じゃなく、――たとえば寝癖のついたくしゃくしゃの髪にえりぐりの伸びきったスウェット姿のような――美しくない日常をそのまま切り取ってぽんと目の前に差し出される。きれいごとではない現実がある。狭苦しい空間に荷物をごちゃごちゃ詰め込んで、何とか暮らしているんだなあ、あなたも私も…って共感する部屋もあれば、もう少し整理整頓して〜!これ以上見たくないよ〜!って部屋もある。
 部屋の主はアーティストなど専門職に就く人や趣味にのめり込んでいる人が多いせいか、経済的にはともかく精神的には豊かな生活を送っているように見える。言い換えれば、どこにお金をかけるのか、ポイントの違いなんだろう。心地よい生活とは、無理せず自分のスタイルで暮らすことかも知れない。

 
  高橋 美里
  評価:A
   京都書院から出ていた素晴らしい本だったのですが、出版社の倒産により手に入らない本になっていたのですが、文庫にて復活とは・・・・。
『東京』っていう名前はなんだかとても漠然としていて、なんとなくデカイ。
名前負けしそうになってしまう土地。そんな東京の等身大を写真に収めた作品。東京なんて、オシャレでもないし、リッチでもない、そんな生活があふれています。これは絶対見て欲しい!
因みに私の部屋と写真に収められている部屋を見て私の母は「あんたの部屋より綺麗な部屋が多いわよ」と。

 
  中原 紀生
  評価:A
   書棚拝見、といった類の写真を見るのが、昔から好きだった。著名人であれ無名人であれ、誰かが、少なくとも一度は手に取り、目を通し、もしかしたら高揚し涙したかもしれず、沈思し玩味したかもしれない、そういった書物が整然と、あるいは雑然と、ただそこに並べられ重なりあっているだけの、しかし当の本人は不在の、写真を眺めているうち、なぜかしら、けっして足を踏み入れたり、視線をそよがせることのかなわぬ、他人の“内面”に入り込んだような気にさせられる。それは書物だけのことではなくて、机であれベッドであれ、衣類や雑貨や電気器具であれ、はたまた灰皿や屑カゴやマネキンであれ、およそ不在の主との“関係”の痕跡を色濃くとどめた“物”たちのつくりあげる、動かし難い不動の配列そのものが、確固たる“内面”を、ひっそりとそこに立ち上げている。都築響一さんが“スタイル”と言うのは、そのような、どこにでもあって、ありふれた“内面”たちがかたちづくる、小さな空間のことだ。

 
  渡邊 智志
  評価:B
   惜しい! 文庫になるまでに時間が経ちすぎましたね。東京ではありませんでしたが、10年前のボクの部屋もこんな風でした。当時も雑誌などでこの連載を目にしていたような気がしますが、ただ若者の汚い部屋を撮った、というくらいの印象しかありませんでした。写真集(文庫)という形でたくさんまとまって、別のパワーが発散されています。うまく表現できないのですが、「そこにある意味」という説得力を感じるのです。同時代にその気持ちを感じたかったです。文庫になって手に取り易くなった今現在の部屋を覗いてみたいです。一見ほとんど変化なく、乱雑なモノは乱雑なままで、趣味の世界は趣味のままなんだろうけど(ボクの部屋も10年前とほとんど変化がないし…!)、この文庫化は「過去の遺物」という印象で覗く感がぬぐえないのです。まさに今この瞬間、同じ空気を吸っている隣人の部屋…、という雰囲気が演出されたら、相当な迫力を感じたと思います。