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ナンシー関の記憶スケッチアカデミー
ナンシー関の記憶スケッチアカデミー
【角川文庫】
ナンシー関
定価 500円(税込)
2003/3
ISBN-4041986095

 
  池田 智恵
  評価:A
   ナンシー関は本当にていねいな仕事をする人だ……。この人のすごさは、とてもていねいに真剣に仕事をしているのに、一見してそうは感じさせないサービス精神にあった。だから、彼女は一流で本物だったのだと思う。いやあ、オンリーワンだった……。なんて嘆いていてもしょーがない。
 えー、記憶スケッチとは、なにも見ずに記憶だけで画を描くことです。例えば、「かまきり」。みなさん、ちょっとお手元のペンでかまきり描いてみてください。なんだかミョーな生き物が出現してません?うまく描けちゃった人は、家族や知人にも描いてもらいましょう。きっと珍獣に会えます。この本は、読者の方からつのった記憶スケッチをまとめたもの。人間の記憶のあやふやさを証明するようなめちゃくちゃな画はそれだけでも笑えますが、著者が入れるつっこみがおかしさを増幅します。ていねいです、相変わらず。笑える、いい本です。ああ、やっぱりナンシー関がいないとさみしい……。

 
  延命 ゆり子
  評価:AA
   最高!最高です!ナンシー関万歳!投稿している人々のとんでもない記憶と絵に笑い、ナンシー関の冷静な突っ込みに笑い、さらに新たなオモロ視点を付加してくれて、また笑う。こんなに笑わせてくれた本は久しぶりだ。電車じゃ読めない。何度も言うけど最高です。私は笑える本への評価は高い。読んで声あげて笑える作品ってホント貴重だと思う。本という媒体は(マスコミ論)、テレビやインターネットなど他の媒体と比べると、知識や思考することを喚起するという意味では優れているけれども、笑いという面においてはハンデがあると思うのだ。映像の力ってすごいしー。彼女の笑いのセンスに改めて脱帽。それにしても、ナンシー関が亡くなってからというもの、異様なまでに彼女の才能への賛美がなされていてちょっと気味悪い。著作を読んでゲラゲラと笑うことこそが、ナンシー関が喜ぶことのような気がするのだ・・・。って私も充分気味悪いんですが。

 
  児玉 憲宗
  評価:A
   提示されたお題を記憶のみに頼って描く「記憶スケッチ」。人間の記憶とはなんと曖昧なものなのだろう。そしてその曖昧な記憶ゆえ、新たな創造力を生みだす。その驚くべき作品の数々はもちろん、後編に登場する考察も素晴らしい。もちろん個人差があるが、高年齢になるほど長い線が描けなくなり、本来あるべき記憶に近づけようとする執念が薄くなるらしい。恐るべし企画だ。感動したわたしはこの本の素晴らしさを三十人以上の人に伝えるだろう。しかも一週間以内に。
 哀しい眼をしたカマキリや能天気なスフィンクス。逃げ出したくなるほど怖いランドセルや自転車。仏様のように手を合わせたくなるカエル。
 常識を超えた芸術作品のオンパレードに、わたしが山田君に成り変わり、賞賛の座布団を届けたい。

 
  鈴木 崇子
  評価:A
   久々に涙を流して泣き崩れてしまった。大爆笑! 出されたお題を記憶のみで描くという、どこかの番組で見たような企画だが、こちらが元祖(?)とのこと。まず奇々怪々な作品群を鑑賞する前に、読者自ら課題をスケッチされることをおすすめする。他人を笑えないことに気付くはず。そして、ナンシー関のコメントがダメ押しでさらに笑える。
 そのあとは著者の鋭い「考察」が続く。あの「展覧会」をみて、あれだけの分析ができるのもテレビ批評でならした彼女だからこそであろう。
 絵ってその人が出てしまうから面白い。カラオケなんかでも同じことが言えそうだ。中途半端に技術があると、ごまかしがきく分面白みは半減する。下手な方が受けたりする。とは言え、他人を笑っても自分だけは笑われたくはなかったりするからやっかいだ。
 それにしても人間の記憶ってあやふやで、いい加減。だからこの本が面白いだが。

 
  高橋 美里
  評価:B+
   私はとにかくなんでもすぐ忘れる。読んだ本も記録に残して感想を書いておかないと忘れてしまう。自分でもタチがわるいと思うのがなんでも「うろ覚え」なところ。
さてこの作品は人間のそんな「いかにうろ覚えか」を突き詰めた作品。
「記憶スケッチ」とその名の通り自分の記憶を頼りに「パンダ」「自転車」を描くわけですが。自分の記憶力に自信のある方、この文庫で自分の記憶力に挑戦をしてみては?因みに、私は惨敗でした。(大体自転車のチェーンがどうやってつながってるかなんて考えて乗ってたら転びますって!)

 
  中原 紀生
  評価:A
   記憶だけでカマキリの絵を描いてみよ、と言われると困ってしまう。ましてや、「他人から『あいつはデキる』と言われている人にカマキリを描かせてみましょう。その人がそれまで積み上げてきたものが、一瞬にして音を立てて崩れるかもしれません」などと、人の悪い口上をかまされた日にはたまったもんじゃない。で、他人が描いたカマキリの記憶スケッチをひとつひとつゆっくりと眺め、ナンシーさんのどことなくあったかくて、それでいて冷静きわまりないコメントをじっくりと読んでみる。すると、これがまたどうにも可笑しくて楽しくて、心がじわっと和んでくる。第2部での、4年間にわたる大量の記憶スケッチ観察をふまえた大真面目の考察といい、第3部の押切伸一、いとうせいこう両氏との座談会(そこでナンシーさんは、「物の記憶って、二次元三次元の映像じゃなくて意外とマニュアルで覚えている場合もあるんじゃないか」と、鋭い仮説を提示している)といい、いや、これは参りました。

 
  渡邊 智志
  評価:A
   連載当時「カエル」のお題に応募しましたが、ボツになりました。注釈の研究論文にあった「わざと下手さを演出した絵」であることを、あっさり見抜かれたからだと思います。曖昧な記憶でも、なまじっか画力でそれらしく見せることが出来てしまったので、天然の技量で下手に描ける能力を羨ましく感じたほどです(嫌味じゃないですよ)。「カエル」をあんなに翻訳(誤訳…?)して描くセンスの良さ!(イヤミじゃないですって!)違うお題を聞いて別の回に応募でもしないと、こんなにジャンプ出来ませんよ。ナンシー関のコメントが笑うツボを懇切丁寧に教えてくれます。試しに絵だけ見たら、どう笑っていいか判らないものもありますし。罵倒や皮肉に毒があるのに、投稿者が傷付かないコメントのバランス感覚に喝采。ご高齢の方が喜んで投稿し続けたのも、彼女の「愛」をひしひしと感じていたからだと思いました。ぜひ面白コメントを連発し続けてもらいたかった…!