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勝手に目利き
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明治おんな橋
明治おんな橋
【講談社文庫】
平山壽三郎
定価 700円(税込)
2003/3
ISBN-4062736950

 
  延命 ゆり子
  評価:B
   幕末から明治にかけての激動の時代を、自分の才覚で運命を切り開く3人の女。みなさま非常にエネルギッシュでございます。ただ、話としては興味深いのに、もの凄く淡々とした印象の小説である。事実のみを羅列するような構成なので、感情が入り込めないのだ。私は普段時代小説を全く読まないので、時代がかった言葉づかいが面白く思えてしまい、集中できなかった。濡れ場が結構多いので、時代劇プレイってのもアリかしら、なんて思ったり(平山さんごめんなさい)。主人公のうちふたりはあまり魅力なし。自信満々なのが鼻につく。ただ、吉原に身を落としながらも、そこから這い上がり、ヒモを養いながら料理屋を切り盛りするお倉が良い。現代で同じことをしていたらなんだか哀しい女なのに、時代が変わるだけで魅力的に見えるのは何故だろう。人生に対して覚悟ができている生き方が羨ましい。

 
  児玉 憲宗
  評価:A
   多くの人の運命を弄した維新の混乱にたくましく生きた三人のヒロインの物語。
 それぞれ違う苦労をし、異なる生き方をしたが、共通点も多く、みな、強く、かわいく、健気でたまらない。
 過去を引き摺って生きる男と過去を棄てて生きる女。女は過去を棄てても、過去に学んだ教訓や経験を次のステップに活かすことができる。一方、男は懲りずに失敗を繰り返す。時代の表舞台で活躍する男をうしろでしっかりと操り、煽て、口車に乗せ、翻弄するのも、やはり女である。そしてそれはきっと小説の中だけに限らないのだろう。
 彼女たちの小気味よいしたたかさが読後に爽快感を残した。

 
  鈴木 崇子
  評価:A
   明治を舞台に、時代の波に翻弄されながらもたくましく生きる3人のヒロインの物語。大奥での秘密を胸に維新後は商家の後添いとなる美代。廓あがりだが自らの才覚で料亭の女将に成り上がるお倉、会津落城の混乱の中で傷つきながらも懸命に生きる律。
 それぞれタイプは違えど、共通しているのは賢く、強く、潔いところだろう。状況の変化を敏感に感じ取り、時代の流れに合わせてゆくしなやかさ。それでいて一本芯の通ったしぶとさ。特に「一人の男の持ち物になってしまえば女はそれで終わりだ」「女っぷり・・・――頭と気風で売るのさ」なんてセリフがぽんぽん飛び出すお倉がかっこいい。彼女には惚れぬいた亭主がいるが、お倉の言いたいのは、他人に依存せず自分の才能と努力で世の中を渡っていけ!ということ。どんな状況にあっても、自分の道をまっしぐらに貫き通す3人のヒロインたちにすがすがしさを覚えた。

 
  中原 紀生
  評価:A
   江戸から明治への時代の転変のなか、上様との秘められた思い出を胸に、大奥御殿女中の誇りを捨て、薪炭商上州屋のお内儀になった美代の可憐な素直さ。御一新のどさくさで祖母と母と姉の惨たらしい死に目にあい、自身も雑兵どもに汚され、苦界に身を沈めた律の健気な凛々しさ。もちまえの胆力と才覚で政財界の大立て者をあしらい捌く、女郎上がりの料亭の女将お倉の水際だった剛毅と風格。ほんの一瞬顔を出すだけの、いずれも「其れ者あがり」の伊藤博文の奥方(馬関の芸者)や木戸孝允の奥方(祇園の芸妓)も含め、女たちが実にのびやかに、しかも毅然と生を全うしている。男たちもいい。美代をめぐる松太郎や井沢、律を思う栄吉、お倉の旦那亀次郎でさへ、それぞれに輪郭のしっかりした鮮やかな生の軌跡を刻んでいる。悲惨な出来事や境遇は語りの中でさらりと流され、腹黒い悪人も陰惨な企みもでてこない。このあたりのことをもっと書き込めば、物語に深みと広がりが出たかもしれない。でも、これはこれでいい。読後の清涼感は絶品。

 
  渡邊 智志
  評価:A
   江戸から明治へ。歴史学の観点からは一大転換点なのだろうけど、そこに生活している人々は案外淡々と変化を意識せずに自分たちの人生を歩んでいたのではないかな、と思っています。(この小説の主人公たちのように)自分を取り巻く環境がガラリと変わり、身分の急転落でそれまで経験したことのない屈辱的な立場に追いやられたとしても、生活するというレベルでは、いつもと同じように食事を摂り、いつもと同じように人と会い、いつもと同じように休息していたのではないかと。登場人物たちは時代が大きく動いても、それを受け入れてそのまま自分らしく生き続けていたように思えます。100%の幸せは無くても、前向きに生きる姿の美しさ。そんな中にあって、悲しい時代を引きずったままのラストシーンには、思わず泣いてしまいました。奇しくも米軍がイラクに勝利した日。日本の終戦という時代の転換点などを想い、様々なことを考えてズシンと心に残りました。