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フクロウは夜ふかしをする
フクロウは夜ふかしをする
【創元推理文庫】
コリン・ホルト・ソーヤー
定価 966円(税込)
2003/3
ISBN-4488203043

 
  池田 智恵
  評価:B
   老人ホームのおばあちゃん二人がぺちゃくちゃしゃべくっているうちに、いつの間にか事件が解決しているという、軽い味わいのミステリーです。
 トリックはとてもあっけないですが、明朗快活なおばあちゃんたちの明るくパワフルで、ちょっと自虐的な会話が楽しいです。おばあちゃんがたもさることながら、老人の知性をきちんと尊重している警部補の存在に安心させられました。ドラマやラジオにして、おばあちゃんたちの、テンポの速いおしゃべりを聞いてみたいですね。やたらと何度も強調される、高級老人ホームでのステキな食事も、映像化して欲しいです。細部のこだわりが女性らしくて心地よいのですね。
 それにしても、元気な老女二人の会話が、明るいゲイ二人の会話とすごく似通っているのは何故なんでしょう。いや、なんとなく分かる気もするんですが。

 
  延命 ゆり子
  評価:B
   老人ホームで起こる怪事件。元気一杯の老婦人達が探偵気取りで連続殺人の謎に挑戦する(あらすじより)。高級老人ホームという設定が面白く、老人達の生活ぶりや考え方が興味深い。特に、老婦人が殺人に対して面白がるだけで人間の命に敬意を払っていないと、刑事に説教されたときに言う一言が良い。たいていの老人にとっては死ぬことは人生の過程でしかない、食べることや寝ることと同じで、するべきことのひとつでしかないのだ、と。そう思える為にはそれまでの人生をよく生きなくてはなるまい。そこまでの境地に達することができるかしら。ま、それはともかく、私はこの老婦人達が捜査の邪魔をしているとしか思えない。結局彼女達がいなくても、犯人逮捕には支障はないようだし。犯人も最初からわかるし。しかも、老婦人たちにとって王子様のような刑事がいるのだが、あいつは一体何なんだ。「奥さん達のお顔を拝見すると一日の疲れが吹き飛びます」って、お前はホストか。ムキー!森光子とヒガシみたいな関係性に腹が立ちました。

 
  児玉 憲宗
  評価:D
   お金と時間を持て余し、高級老人ホームで悠々自適な生活を送るおちゃめな老婦人コンビが、プロ顔負けの推理力で事件を解決する。その推理力の源は、ずばり「好奇心」。
 ストーリーの序盤でいきなり、続けざまに連続殺人が起きる。しかも舞台は、主人公たちが暮らす老人ホーム。ところが、作品の半分くらいに達しても、警察の捜査は何の手がかりもつかめない。それどころか肝心の主人公は事件の解決へ乗り出せないまま。前作でお馴染みのハンサム警部補も現場に姿を現さない。
 ほらほら、そんなことだから、新たに次の犠牲者がでちゃったじゃないか。捜査の進展の遅さが後半の複線になっているとはいえ、あまりにも「スピード感」のない展開にイライラする。三番目の殺人が起きてからは、頼みの警部補もやって来て、老婦人コンビの推理も冴えわたる。けれども、この犯人は最初からいかにも怪しすぎる。言い訳がわざとらしかったり、被害者が金持ちだったことがわかった途端に金遣いが荒くなったり。挙句の果てに、ちょっと揺さぶられただけで、べらべらと自供してしまう。興醒めさせるに充分な“おしゃべりさん”だ。

 
  高橋 美里
  評価:A+
   老人とミステリ。よくある設定ではありますが、高級な老人ホームを舞台にしたお金と時間を十分に持て余した方々が主人公のミステリ。
大きな体に豪華な宝石を身につけているキャレドニアと小さな体で推理が大好きなアンジェラ。今回「海の上のカムデン」では連続殺人事件が発生します。被害者1人目は「カムデン」の自動販売機のメンテナンスをしている業者さん・2人目は「カムデン」の庭師。何の共通点も見当たらない2人は何故殺された?
全く手がかりも無く、事件は難航、そしてカムデンは厳戒態勢に。
二人はこの作品に到るまで、2回、この老人ホームでの事件に首をつっこんでいますが、そこで知り合った素敵な刑事さんマーティネス警部補とその部下の「ちびすけ」ことスワンソンは今回の事件の担当を外れてしまい、アンジェラとキャレドニアは事件に首を突っ込みたくても、軽くあしらわれてしまいます。
登場人物が「これでもか!」というくらいに(ましてや登場人物の半分は老人なのに)動き回って読んでいてのめり込んで行く作品。
ミステリとしても、今回の作品は事件性も十分・スリルも十分。謎解きもミステリ好きには満足のできるものに仕上がってます。

 
  中原 紀生
  評価:A
   連続殺人事件をめぐる謎解きミステリーとして読むと、犯人の意外性もあっと驚くトリックもハラハラドキドキのサスペンスも、もちろんあるにはあるのだが、やや淡泊でコクがない。でも、この作品は高級老人ホーム「海の上のカムデン」を舞台とする「老人探偵団騒動記」(訳者)、もしくは「老人たちの生活と推理」シリーズの第三作なのだから、薄味はむしろウリなのかもしれない。(それにしては、カムデン名物、シュミット夫人の料理はとてもスパイシーで風味豊かだ。)ところが、スクリューボール・コメディとしては、これが第一級の面白さ。二人の未亡人、チビのアンジェラと巨大なキャレドニアの探偵コンビに加えて、“おしゃれ”な双子の老婆や酔いどれ翁などの奇人変人たち、そして、コンピュータおたくやマドンナまがいのブロンド娘といった入居者ゆかりの若者、老人たちのアイドル、マーティネス警部補、等々、いずれもくっきりとした個性と一癖をあわせもった面々のからみあいが絶妙で、読後感が実に清々しい。

 
  渡邊 智志
  評価:B
   連続殺人事件が起こっている最中、こののんびりした雰囲気はないんじゃないの…? ということで、スプーンおばさんかと見まごう表紙イラストのほのぼのさから始まって、この手のファンタジックな作品には軽い拒否反応を引き起してしまいます。「読まず嫌い」とでも言いましょうか。ミス・マープルの安楽椅子探偵とも違って、主人公たちがあちこち歩き回っては首を突っこんでいるあたりは、読者の好奇心の代行者として探偵趣味を存分に発揮してくれるのですが、いかんせん老人だからお昼寝の時間には眠くなっちゃう…。とことん突き詰められないんですね。ドレスや料理や宝石の描写が続くのでちょっとうんざりしないでもないですが、この手ののんびりさを演出するにはちょうど良いくらいなのでしょう。本当は「C」評価かな、と思っていたのですが、真犯人の動機のマヌケさ加減に脱力して思わず爆笑してしまったので、その意味で「面白かった」という感想です。