年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班

壊人
壊人
【文春文庫】
レックス・ミラー
定価 900円(税込)
2003/3
ISBN-4167661292

 
  中原 紀生
  評価:B
   体重四百二十二ポンド超、身長六フィート七インチの巨躯、IQ測定不能の天才、凄惨な幼児虐待を受けた無差別の殺人機械、被害者総数五百人!──「心[ハート]なき殺人者」ダニエル・エドワード・フラワーズ・バンコフスキーというグロテスクな怪物の創造と、情け容赦を知らない殺戮シーンの描写(ほんとうなら胸糞が悪くなるはずなのに、まるでモダンアートの制作現場に立ち会ったような感じ)がこの作品の、すべてとは言わないまでも魅力の大半で、あとは、イーディ(バンコフスキーに夫を殺戮された未亡人)とアイコード(バンコフスキーを追う捜査官)のぎこちない性愛の経緯と、バンコフスキー対アイコードの最後の対決が読みどころ。訳者解説に「シュールでアヴァンギャルドな文体」とある。言い得て妙。

 
  渡邊 智志
  評価:C
   スプラッタな描写は「恐怖」を表現する一方で、「滑稽さ」を感じさせることがしばしばあると思います。またこの手のキャラクターを「アンチヒーロー」と好意的に呼ぶ時、道徳的に正しくない行為について、心の底ではよくぞやってくれた!と快哉を叫んでいることでしょう。裏を返せば本作のような小説が万人に受け入れられるためには、滑稽さと爽快感が伴っていなければならないかもしれません…。もしくは逆にそのような要素を徹底的に排除して、読者に媚びない「潔さ」で勝負するか…。本作は残念ながらどっちつかずの印象で、キャラクターの愛嬌にも極悪非道っぷりにも、共感を抱きづらいです。“こんな無茶苦茶な描写をしたらバッシングされるのではないか、言い訳を用意して逃げ道を作っておくべきなのでは…”という作者の迷いが見え隠れするような気がします。時代のせいなのかな。今なら特に問題にならないと思うんですけど。感覚が麻痺してるのかなぁ?