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そこへ届くのは僕たちの声
そこへ届くのは僕たちの声
【新潮社】
小路幸也
定価 1,680円(税込)
2004/11
ISBN-4104718017
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  朝山 実
  評価:D
   誘拐された子供が一日したらひょっこり戻ってくる。犯人は捕まらないまま。そんな奇妙な事件が全国各地で発生中。って、これはきっと何かあるぞ? 植物人間になっていた人が意識を取り戻す。奇跡の症例を調べる人がいる。なになに? ふたつの掛け合わせに興味をそそられました。しかし、うーん、すみません、どっぷりと物語に入ってゆけない。子供向けのアニメを見ている感じ。「U25」と年齢の上限を定めた雑誌があるように、老眼年齢のワタシはリアルじゃないアラに目がいって、ファンタジーのよさがわかんないのかも。出てくる人物が一様に見えてしまうのも、リーゼントの気志團は面白がれてもモーニング娘が見分けられないのと関係するんでしょうか。ガキの頃、東映マンガ祭りを見にいった帰り道の父の無口な顔を思い出しました。大感動の終盤も乗れずじまい。残念です。

 
  磯部 智子
  評価:B
   この作品もライトノベルと分類されるのだろうか。非常に読みやすく面白い。読みながら そんなアホな〜とか、ご都合主義炸裂とか思うのだが、ページを繰る手が止まらない。植物状態の人間に〈奇跡〉をおこす人物。全国でおこる誘拐未遂事件で無傷で返される子供たち。それらを結ぶキーワード〈ハヤブサ〉は一体何者なのか。中学生のかほりは震災で母を失い、父は病院で眠り続けている。優しい叔父夫婦に引き取られて暮らしているが、どうしてもあの記憶が消えない。それは地震の最中、周りが真っ白になって「大丈夫だよ」という声と共に誰かに手を捕まえられる。気がついたときには時間が1日進み同じ場所に立っていたこと。あの時、助けてくれたのは誰なのか?地方新聞の記者の辻谷、ライターの真山、元刑事の八木らハヤブサを追う大人たちとかほりの思い、「見えざる力」を駆使する子供達が出会った時、どう話は動くのか。まぁ、偶然に偶然が重なってあらゆる事がひとつに結びつき、え〜〜とも思うのだが、決して読後感は悪くない作品である。

 
  小嶋 新一
  評価:A
   「昔からね、大人の眼に見えないものを見るのは、子供でしたでしょう?」
「もちろん、我々だって見ていたはずなのに、それをいつしか忘れてしまうんですなぁ」という、登場人物の言葉が印象的なSFファンタジー。不思議な力を持った子供たちが、降りかかる災厄に、力をあわせて立ち向かう物語である。
 その中で、脇役ながらも重要な役割を果たし、物語に深みと奥行きを与えているのが、舞台のひとつである、森の奥の「森林天文クラブ」。星空の持つ神秘的なイメージが、子供たちの不思議な力と見事にマッチし、独特の世界が形づくられる。
 窓から夜空を見上げ、いろんな空想をしていたのはいつ頃までだったろう。大人になって、ぼけっと空想をすることが少なくなったし、のんびり夜空を見上げることもほとんどなくなってしまったが、今夜は久しぶりにゆっくり空でも見上げるか、読み終えてそんな気持ちにさせられた。冷静に考えると設定に無理が多いのも事実だが、それもご愛嬌と思わせるだけの力を秘めた佳作。面白いぞ!

 
  三枝 貴代
  評価:D
   日本各地で起こる目的不明の誘拐事件。さらわれた子供たちは、数日の不在の後、何事もなく戻ってくる。――魅力的な謎です。もしこれがミステリであったならば。
 この小説は、視点人物がどんどん入れかわるにもかかわらず、終始一貫、地の文までも語り言葉で書かれています。そのため、書き言葉で書かれていればコンパクトに説明されるはずのストーリーが、たいへん回りくどく感じられます。会話には無駄が多いからですね。けっしてテンポの悪い構成ではなく、むしろ巧く考えられた構造だと思うのですが。また、完全な口語体が面白く成り立つためには、小説の語り手が一人で、平凡でない口調と思想を持っているという条件がないとだめだということもわかりました。普通の人の普通な語り口は、あまり面白くありません。上手に再現されているのですが、なんだか大勢の人を演じ分ける一人芝居を見ているような居心地の悪さを感じました。
 魅力的な謎も、物語のしょっぱなに超自然的な力が関与していることが示唆されているので、全く謎にはなっていませんし。
 感動的な美しいお話であるはずなのに、どこかでなにか、設計を間違えたとしか思えません。力量のある作家さんのようなので、次作に期待します。

 
  寺岡 理帆
  評価:B
   なんだかいろいろ欲張りすぎているような気がする。子ども達がたくさん出てくるのに全然キャラが立っていない。キャラが立たない原因は、前半がミステリーに重点を置いているからだ。辻谷、ライターの真山、元刑事の八木が「ハヤブサ」とは何か、という謎を解き明かしていく過程が中心になるから、実際に「ハヤブサ」の活動にスポットが当たるのは物語も後半に入ってから。それじゃあキャラが立つわけないのよね…。
 だったら最初から主要メンバーを絞ればよかったんじゃないかなあ…。他の子ども達がすごーく取ってつけた感じなのだ。だから、最後に彼らがどうなったかが述懐されても、何の感慨も浮かばない。
 テロの話も舞台から浮いてる気がする。 そんなにテロが多発するようになってる世の中だったら、もう少し街にも緊張感とかないのかしら? 話の都合上テロリストを出した、という印象が拭えない。
 なんだか文句ばっかり並べてしまったけれど、読んでいる最中はそれなりに愉しめた。

 
  福山 亜希
  評価:C
   少年少女のSFファンタジー物語だ。遠話という特殊な能力を使える子供たちが、世の中の危機を救う。子供だけで世界を救うというストーリーが、映画のE・Tに似ているのだが、E・T同様、明るいテンポで話は展開していく。遠話とはどういう能力であるのかとか、全国で発生する不思議な誘拐事件のなぞを追っている段階では、わくわくしながら読み進めることが出来たが、本の半ば頃に遠話の実態と、誘拐事件の謎が解けてしまうと、なんとなくストーリーの展開が読めてきてしまったのが残念だった。