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悠久の窓(上下)

悠久の窓(上下)
【講談社文庫】
ロバート・ゴダード
定価 上)920円(税込)
下)940円
2005/3
ISBN-406275021X
ISBN-4062750392


  北嶋 美由紀
  評価:C
    少々厄介になってきた頑固な老父を施設に入れ、かつ父の家が高値で売れて、子供達はその恩恵にあずかれるとなれば、多少の怪しさは無視したくなるだろうし、この状況につけこんでの罠だと容易に判断できる始まり方だ。老父はあっけなく死に、トラブルがトラブルを呼んで、そしてこの一家がビザンティン皇帝の末裔という要素がからめばこれはもう、おもしろくなるはず。平凡な家族の問題が歴史に関わることに発展するサスペンスと期待はふくらむ。とても読みづらい文章だった。(おそらく原文が硬い表現なのであって、訳者の高齢とは無関係だと思うが。)世界史は好きだし、日本語を噛み砕きながら、わくわくと読み進める。ところが、キリストの妻説(「ダ・ヴィンチ・コード」)の次はキリスト異父兄弟説かと、期待がポンポンにふくらんだ時にはもう終盤。え、何?これで終わってしまうのか? これが池上冬樹氏の言う「地味で濃密な静かさ」かもしれないが、少なくとも私好みではなかったし、期待が大きすぎたのか、ガッカリで物足りない結末だった。せっかくこれだけの良い材料があるのだから、もっとおいしく調理してほしかった。

  林 あゆ美
  評価:B
   老いた父親が暮らしている家を、とある富豪が目をつけた。いい値段をつけてくれた。子どもたちは、それはいい話だ、父さんぜひ家を売ってくれないかと持ちかける。長兄の誕生パーティを父親の家で催そうと皆が集まったその日から、家を売る話が出てから、ニコラスはまきこまれていく、悲劇に。
 ゴダードのおもしろさは物語の厚みであり深み。幾重にも幾重にも物語があり、読むことの醍醐味を堪能できる。解説を読んで納得したのは、初期の傑作『千尋の闇』などの読者が求めるゴダードだ。私もはじめて読んだのが『千尋の闇』で、それ以来、濃密で繊細な物語を求めてきたように思う。「毎回毎回エモーショナルに謳っていては、マンネリズムに陥るだけで、成熟も深化もない」というくだりを読んで、あぁそうなのかと合点がいった。ゴダードの複雑さが成熟した本書は、たしかに深化があるからこその話がここにある。ニコラスが父親の家に向かう途中“結果はゆっくりと嬉しいとはかぎらないものへ孵化していく”と叙述した通り、物語はゆっくりすすみ終わる。

  手島 洋
  評価:E
   読んでいて本当につらかった。苦行のようだった。歴史ミステリーと呼ばれる小説は読んだことがなかったのだが、本当に向いていないジャンルだと、つくづく思い知らされた。まだ読んでいない「ダ・ヴィンチ・コード」も読まないほうがいいのだろう。正直、大昔のイギリスの教会で何があろうとどうでもいい、と思ってしまったのだ。その時点で、この本を読むのが相当困難なのだが、他の要素もぜんぜん楽しめなかった。年老いた父親が一人暮らししている家を売って金儲けしようという兄弟たちの意見に、なぜ(ずっと否定的だった)主人公が賛成したのか理解できないし、次々と意外な方向に進んでいくストーリー展開も、やたら都合がよく思えて驚きがなかった。個人的には、がんこな父親や、その頑固さを受け継いだアンドルーが唯一面白みのあるキャラクターで、彼らと他の弱気な連中との衝突を読みたかったのに、登場する場面が少なすぎる……。そして、文章のリズムにもついていけなくて、すごく読みにくかった。原文で読んでも、そうなのかは疑問だが。さようなら、ロバート・ゴダード。

  山田 絵理
  評価:C
   イギリスに住むビザンティン帝国最後の皇帝の血を引くパレオロゴス家、父が住むトレナーと呼ばれる農家には、歴史的に価値のあるステンドグラスが埋め込まれていた。そのため、家ごと破格の条件で買い取ろうという話が持ち上がり、息子娘達は父にその話を承諾させようとする。けれども父は頑なにその話を拒み、挙句の果てに階段から落ちて死んでしまう。
 物語が動き出すための前振りが長い。英文和訳調の翻訳や(原文に忠実に訳したといえばいいのか)多く出てくるイギリスの地名になじめずにいたが、父親が死んで物語がやっと動き出すと、がぜん面白くなってくる。何度も信じていたことをひっくり返され、翻訳も気にならなくなるほどのめりこんでいた。ただ真実が知りたかったのだ。けれどもラストには消化不良、欲求不満。「それで、いったい何だったの?」と叫んでしまった。私の頭が鈍いだけなのかなあ。
 十字軍などの記述が出てくるので、中世ヨーロッパ史に興味があると、もっと興味が湧くかもしれないです。

  吉田 崇
  評価:C
   書評をする様になって考えたのが、評する事で評されるという事。結局、自分の好みで物を言ってる風なので、「へぇ、こいつ、こんなの褒めてやがる。」と、自分のレベルも晒される。
 そう言う訳で名匠ロバート・ゴダード(本当は不勉強の為に初めて読む作家なのだけど)のこの作品、僕にはあんまり面白くなかった。ゆったりとした独特の世界観があるのは分かるのだけど、どうにもいまいちテンポが合わない。つまらなくはないのですが、スカッとしない。じっくりと読書を楽しむという生活を送っていないせいで、こんな僕になってしまったのだと思いつつ、こちとら増え続けるリストを消化する事だけが生き甲斐、さくさくっと読んで、さららっと書いて、この評価。これが僕の読み手としてのレベルなのさと、開き直る。