7月17日(火)
助っ人に来てみれば一人きりでした。パソコンとにらめっこして、三角窓口に寄せられた葉書の文面を、ぱちこぱちこと打ち込みます。集中しているせいでしょうか、ぱっと目を上げるたびに時計の針が恐ろしく進んでいるのです。しかしいくら時間がたっても葉書の山は消えません。これは私の作業がのろいのだろうか、いやものすごく遅いというつもりはない。そんなら火星人か何かが私の邪魔をしているのじゃなかろうか。ぱっと時間を止めて葉書を増やしてるとか、ぱっと時間を戻して作業をいつまでも終わらせないとか。もしや時間の無限ループに巻き込まれたのに気づいてないだけかも!
あほなこと考えてるあいだに小野さんがおつかいから帰ってきて穏やかな会社に戻りました。(楢山)
疲れた。歩いて歩いて歩き倒した。疲労が極致に達すると身体のみならず脳も衰弱することを実感した。
本日最後のおつかいの帰り道、ついに私の頭の中に志村喬が現れた。彼はブランコをこぎながら“い〜の〜ちィみじ〜かしィ”と『ゴンドラの唄』をあのスモーキーヴォイスで延々と歌いはじめた。「これは目を閉じたら死ぬな」と感じた私は精神を引き締め、本の雑誌社へ続く雨道を必死に歩いたのであった。(小野)