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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

延命 ゆり子の<<書評>>


凸凹デイズ
凸凹デイズ
【文藝春秋】
山本幸久 (著)
定価1680円(税込)
ISBN-4163244301
評価:★

 エロ本の編集、広告代理店の下請けの下請け。そんな端物の仕事ばかり請け負うデザイン事務所の凹組。そこで働くのは気のいいオッサン大滝、天才肌で小汚い黒川、そして22歳の凪海だ。そこへかつて三人で応募した賞を独り占めして独立した女社長の醐宮が絡んでくる。
 男にフラれて給料は少なく何をするにもツイていない凪海と、バリキャリで野心家だけどどこか痛々しい醐宮。それぞれの青春と挫折、仕事を通じた友情。年齢も性格も違う二人が心通わせていくシーンでは心が温まるものの……。ごめんなさい私どーしても醐宮を好きになれません! 歳若いデザイナーのプライドをズタズタにこき下ろしたり、純情な大滝を意味もなく誘惑したり。悪女だけど実はイイヤツ……という枠には収まりきれない何かがある。多分この人ともう一度仕事しても同じ裏切りするんじゃないかな。ラストにいたるまで信用できない。そう思わせる結末ってどうなの。
 男が思う、「女に好かれる女」って感じがした。


マルコの夢
マルコの夢
【集英社】
栗田有起 (著)
定価1365円(税込)
ISBN-4087747883
評価:★

 無職の若者である一馬はフランスに住む姉の紹介で、パリの三ツ星レストラン「ル・コント・ブルー」で働き始める。担当は店の掃除とキノコの管理。そしてある日、この店のオーナーエメ氏から名物料理でもある幻のキノコの「マルコ」が底をついたので探してきて欲しい、との依頼を受けた。一馬は日本へと旅立つが、途中母親に離婚届けを託されて雲隠れしていた実の父と対面する破目になる。そのうち幻のキノコを探していたはずがとんでもない家族の歴史が紐解かれて行き、一馬はこのキノコに悪魔のように惹かれはじめる……。
 と、そしらぬふりしてあらすじを書いておりますが、実は私これ全く理解しておりません。軽妙な語り口に読みやすい装丁。なのに何故。とにかく「???」。何が言いたいのかキノコが何を表しているのか、さっぱり分からん。その分からなさを楽しめばいいのかな。私には難解すぎました。エヘヘ。


魔王

魔王
【講談社】
伊坂幸太郎 (著)
定価1300円(税込)
ISBN-4062131463

評価:★

 相手に思い通りの言葉を喋らせる能力を持つ兄と、十分の一の賭け事なら当てられる能力を持つ弟。その兄弟が現代の日本の不穏な流れに立ち向かおうとする物語。
 無能な政治家、半笑いの国会答弁、右傾化する若者、無責任なマスコミ、とそれに見事に踊らされる集団ヒステリー状態の大衆。このままじゃいけない。近いうちに日本という国が沈没するのはわかってる。でもどうすればいい? 私に出来ることは何。この無力感や焦燥感は一体どこに向かえばいいの?
 そんな思いを見事にすくい上げた作者。すごく意識的に小説を書いているという気がする。社会を見抜く力、飄々とした面白いセンス、読者が何を求めているか何を言ってほしいのかを良く分かってる。この作者が多くの人を惹きつけてやまない理由が分かったように思う。


ネクロポリス(上下)

ネクロポリス(上・下)
【朝日新聞社】
恩田陸 (著)
定価1890円(税込)
ISBN-4022500603

評価:★

 ファンタジー&ミステリー&ゴシックホラーの交錯。謎が謎を呼ぶアナザーワールド。たたみ掛けるようなミステリーの連続にブリティッシュテイストをぶちまけて……やってきました! いつもの恩田ワールドのわくわく感!
 舞台は日本とイギリスが混じりあった不思議な国V.ファー。この国では実体となった死者と再会できるヒガンという行事があった。しかし今回のヒガンは初めからおかしなことが起きる。血塗れジャックによる殺人、境界線上の鳥居に吊るされていた死体、次々に夫が死んでいく黒婦人、死んだ双子の兄を異常に恐れる青年……。
 いわば謎のてんこ盛り状態。こういっちゃあ何だけど途中で思ったよ。これ絶対終わらねえ〜!(結末に納得できない作品が今までにいくつかあったものだから)そんな予感に貫かれながらも、ラストはどうにかこうにか軟着陸した感あり。それよりこれだけ魅力的な設定のアナザーワールドを垣間見せてくれた作者へ、感謝の意を表明したい。


ワルボロ

ワルボロ
【幻冬舎】
ゲッツ坂谷 (著)
定価1680円(税込)
ISBN-4344010434

評価:★★★★★

 この人の小説がこんなに良いなんて……!(失敬)
『カメレオン』の世界、『魁!男塾』の漢くささ、『クロマティ高校』の愛すべきアホらしさ。それに熱すぎる漢の友情をこれでもかとドバドバ振りかけてるような感じ。参考文献が全て漫画で恐縮です。
 自伝的小説というにはあまりにもとんでもない不良の世界。ケンカにあけくれ、次から次へと現れる敵。中学生のくせにスカイラインを乗り回す花形のような奴。中学生に拳銃を握らせるヤクザ。爬虫類のような目で相手を半殺しにする奴。そのおもろいキャラクター造詣もさることながら、要所要所に入るギャグも絶妙!
 そんな中、錦組の頭のヤッコの存在感が際立つ。仁義から外れた奴は徹底的に叩きのめし、一度仲間になった奴には絶対的に信頼、命をかけて護る。多くは語らず仲間の責任は全て自分が取る。無力感に打ちひしがれている主人公にヤッコは言う。「大丈夫だよ……。おメーには一生、俺がついてるからよ……」。ななななんてかっこエエ〜!!
 家族が好きで、仲間が大切で何が悪い。そんなストレートな思いにノックダウン☆この作品は4部作になるそうだが次回作も必ず読みたい。



夜市

夜市
【角川書店】
恒川 光太郎 (著)
定価1260円(税込)
ISBN-4048736515

評価:★

 子供の頃迷子になることを異様に恐れていた。異次元に連れて行かれるような気持ちがして母親の手を必死に探した。子供の頃世界はまだ混沌としていて夜の闇には得体の知れないモノが蠢いているように思った。夜中一人でトイレに行けなかった。髪の毛を洗うとき目を瞑るのが怖かった。夜に鏡を見るのが怖かった。現実と想像の境が曖昧で、恐怖の質が深かった。
「夜市」を読んで昔のこんな気持ちを鮮明に思い出してしまった。闇の中で開かれる、何かを買わないと永久にそこを彷徨い続ける夜市。神様や死人や異形の者しか通ることができない古道。それは恐怖に彩られてはいるもののどこか懐かしい風景。奇想天外な設定。グイグイ引っ張られる展開。意外な結末。そんな魅力もさることながら、子供の頃の想像力をそのまま持ち続けた作者の大いなる才能にシャッポを脱ぎました。


虹色にランドスケープ

虹色にランドスケープ
【文藝春秋】
熊谷 達也 (著)
定価1650円(税込)
ISBN-4163244204

評価:★

 さ・さわやか〜!
 バイク乗り達のバイクにまつわる連作短編集。主役は異なるがそれぞれの話が少しずつ繋がっている。決してハッピーエンドにはならない私好みの味付け。だのにすがすがしい読後感。私は、バイクなんて危ないし車の邪魔だし若くして亡くなる人ってバイクの事故が多いし、バイクなんてちっとも好きじゃないけれど、それでも作者のバイクに対する並々ならぬ愛情を感じて胸が詰まった。これほどまでに何かを愛することが出来るなんて、なんていいんだろう。文章もすごくそつがないのに厭味じゃない。バイクという題材を使って新鮮な喜びを与えてくれた小説でした。



メジャーリーグ、メキシコへ行く

メジャーリーグ、メキシコへ行く
【東京創元社】
マーク ワインガードナー (著)
定価2520円(税込)
ISBN-4488016448

評価:★

 「メキシコにメジャーリーグを作りたい」
 これは壮大なる野望を抱いた男の一代記だ。その男の名はホルへ・パスケル。大金持ちのいかれた男。白のダブルスーツ、エナメルの靴、真珠とダイヤをちりばめた拳銃というコッテコテのスタイルで登場。案の定の男の豪快さに胸がときめく。
 妻を寝取った男を決闘の上に殺す。金に物を言わせてメジャーリーグから黒人たちを引き抜く。いつものセリフは「いくらもらってるんだ? その倍払おう」。野球のためなら政治も動かす。アメリカ人選手の兵役を免除しメキシコに来させるために払った対価は8万人のメキシコ人労働者であった。ガビーン。
 やることはハチャメチャ。しかしホルヘの愛人が語るインタビューが胸を打つ。アメリカ海軍の爆撃を受けて滅茶苦茶になった町にたたずみながらヤンキースの帽子をかぶっている7歳のホルヘ。アメリカ文化を愛しながらアメリカ政府を軽蔑する少年。いつの間にかこの強欲な男に魅きこまれてしまう自分がいた。


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