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2007年10月

松岡恒太郎の勝手に目利き

『サウスバウンド(上・下)』 奥田英朗/角川文庫

 とにかく、はじけてます!
直木賞を獲ってからこっちの奥田英朗さんは、何かを吹っ切った感があります。
 例えるならば、出先で急に大便を催し、慌てて家へと逆戻り、玄関に無事辿り着き鍵を開け、靴を脱いだと同時にベルトもゆるめ、ズボンを半脱ぎの状態でトイレに駆け込もうとしたら、直前でそのズボンが足にからまって転倒、便意と戦いながらのほふく前進あと二メートルくらいの必死さが文面からひしひしと伝わってくるのです。
 小学六年生の男の子と元過激派の父が繰り広げる痛快家族小説。
 本屋大賞二位はだてじゃない。
『勝手に目利き』で今さら紹介するような作品でもないことは百も承知十も合点ではありますが、お手頃文庫本サイズで登場となったこの機会に、未読の方は是非にお手にとって頂きたい。
 日本人必読の一冊、ズンズン読めてグフグフ笑えます。

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三浦英崇の勝手に目利き

『闇が落ちる前に、もう一度』 山本弘/角川文庫

 俺はSFがことのほかお気に入りです。読みごたえたっぷりの大作も好きですが、少ない枚数で鮮やかな切れ味を見せる短編も、いい感じです。

 この作品集には5編の作品が所収されていますが、どれもこのページ数で終わるんかい、って危惧したくなるような、広がりのあるテーマを設定し、見事に収束させているところが好みです。

 また、著者はトンデモ本研究で知られる「と学会」の会長でもあり、そのネタの源泉として、トンデモ本の発想が大いに生かされているんだろうなあ、と思ったりもします。例えば、かつて単行本班で書評した『神は沈黙せず』(推薦したのは俺ですけど)は、トンデモ本研究の成果の集大成だし、この作品集の表題作のアイデアも、トンデモの薫りがぷんぷんします。

 最後のオススメポイントは……愛情が絡むと、もう。何だかとっても純粋で。読んでて心洗われます。表題作で示された愛の深さには、並の恋愛小説じゃ太刀打ちできません。

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