[前月へ][来月へ]

2007年12月

荒又望の勝手に目利き

『漁師志願!』 山下 篤/新潮社

 「漁師募集。経験不問。旅費片道支給」 養魚場の求人広告に応募したフリーターの智志と寿司屋見習いの真二。優しく厳しい親方のもと、瀬戸内海に浮かぶ島で2人の漁師見習い生活が始まる。
 青い海、青い空、そして青春まっただ中の青年2人。表紙も青、背表紙の文字も青。テーマカラーは、間違いなくブルー。どこまでも爽やかな物語だ。
 お調子者の智志と生真面目な真二、対照的な2人が未知の世界に飛び込む。ひ弱な都会っ子が漁師のイロハを手探りで学んでいくうちに、心も身体も鍛えられていく。煮詰まった現状からの逃避手段でしかなかった漁師の仕事にやがて本気で取り組むようになる智志と真二の真っ直ぐさに、親方や島の住民と一緒になって声援を送りたくなる。そしてこの親方や周りの人たちがまた、素朴で温かくていい人ばかりなのだ。
 2人の漁師への道は始まったばかり。親方と3人での新しい挑戦も、まだまだ先はわからない。それぞれの恋の行方も気になる。こんないいところで終わってしまうなんて。ぜひとも、続編希望!

▲TOPへ戻る

松岡恒太郎の勝手に目利き

『丸かじり劇場メモリアルBOX』 東海林さだお/朝日文庫

 その本は、いつも行く書店の文庫本のコーナーで静かに僕を待っていた。重厚な概観、金色に光り輝くタイトル文字。視線をそらすことなどできうるはずもなく僕は、急ぎ書店のカバーを掛けていただき家へと連れ帰った。
 東海林さだおさんの丸かじりシリーズは、すでに食通エッセイなどという枠を超越した作品である。
それどころか、戦後の高度成長や未曾有のバブル期を乗り切った日本経済の原動力こそが丸かじりシリーズであったともさえ囁かれている作品である。
とにかくそんな丸かじりの、今回はメモリアルBOXというのだから読まない手はないのです、抱腹絶倒の七百ページ弱。
 国民的シリーズのいいとこ取り作品という意味では、どことなく『よりぬきサザエさん』を思い出すこの一冊。
布亀の薬箱とともに一家に一冊常備願いたい。子のたまわく『よりぬきサザエさん』と『丸かじりメモリアル』にハズレなし。

▲TOPへ戻る