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2008年4月

岩崎智子の勝手に目利き

『いつから、中年?』 酒井順子/講談社

「四十にして惑わず」と言うけれど、「こうなるはずではなかった人生」について、惑いが完全に消えたとは言いきれない。じゃあ、他の皆は迷いが消え、自分に自信が持てているんだろうか?迷っているのは、私だけ?本作を手に取る人の多くは、そんな迷える大人達なのでは?そして彼女の意見を読んで、「ああ、こういう所はおんなじだ。」「こういう見方はしないな。」と感じて納得し、或いは反発するかもしれない。『怒る女上司、泣く男部下』では、「管理職は苦労してるんだなぁ」と、今になってある女性の心情に思いを馳せる。『断定回避世代の総理が誕生』では、安倍首相の言葉尻まで捉えての人間観察はすごいな、と感心するばかり。「もっと観察力を磨くと、惑うことも少なくなるかも!」と意気込む。というより、観察力って、長く生きていく上で絶対必要だな、と再認識した。同世代だけじゃなく、幅広い世代に是非読んでもらって、感想を聞いてみたい一冊。『週刊現代』連載の単行本化第3弾。

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佐々木康彦の勝手に目利き

『告白』 町田康/中央公論新社

 本作は明治時代、実際にあった大量殺人事件「水分騒動」を題材にしていますが、物語は熊太郎の内面描写を中心に展開していき、ほとんどが創作された内容となっています。
 思慮の浅い人間が幅を利かす世の中で、頭の中に思弁渦巻く熊太郎の苦悩には心打たれるものがありました。しかし、その熊太郎自身がダメ人間。それがこの作品、また他の町田作品の深いところであり、笑えるところなのです。作中使われる「あかんではないか」はそんな状況を一言で表現するすばらしい言葉だと感じました。

 思弁的な人間が世間とのコミュニケーションギャップによって、引き返し不可能なところまで転落していく様子が軽妙な筆致で見事に描かれた大傑作。
 と、私のようなヌルい読者が今さらこの作品を絶賛したところで、「ハンバーグという料理があるんですが、凄く美味しいよ」と言っているようなもの。「わかっとるわい!」って話なのですが、我慢出来ずに書いちゃいました。
 あかんではないか。

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