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2008年9月

岩崎智子の勝手に目利き

『メジルシ』 草野たき/講談社

今月の課題本『ハチミツドロップス』の著者、草野さんの最新刊。両親の離婚を前に、父親の希望で家族で北海道旅行に出かける中学生・双葉が、物語の主人公。『ハチミツ〜』では、主人公の妹が「或るモノ」を食べるシーンがさりげなく出てくる。そしてこの「或るモノを食べる行為」が、家族の秘密と繋がっている。『メジルシ』でも、『ハチミツ〜』と同じく、主人公がこだわっている「或るモノ」が冒頭からさりげなく出て来て、家族の秘密と繋がる。好意を素直に表す父・健一と、感情を表に表せない母・美樹。夫の好意を鬱陶しく感じる美樹も、受け入れてもらえない健一も、どちらの心も痛い。「好きな人に喜んでもらいたい」という思いと、「喜んでもらって、自分を好きになってもらえればいい」という気持ちを線引きするのは、とても難しいから。祖母と母・美樹と双葉、母娘三代の関係は、よしながふみさんの漫画『愛すべき娘たち』の最終話を彷彿とさせた。

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佐々木康彦の勝手に目利き

『ロズウェルなんか知らない』 篠田節子/講談社

 寂れた観光の町で、偶然(?)、降って湧いたUFO騒ぎや心霊現象の噂。青年クラブ(といっても皆中年ばかり)のメンバーが、それに乗っかり、「日本の四次元地帯」として町を売り込もうとする奮闘や騒動を描いた作品。
 町の話題づくりに必死な青年クラブのメンバーに対して、老い先短い老人たちや生活の心配の無い役所の人間は非協力的。青年クラブの試みは突飛過ぎるかも知れませんが、座して死を待つよりも乾坤一擲の大勝負に出た彼らの行動を誰が笑えるでしょうか。こういったことは一般の会社組織でもあることで、私のような業績の良くない零細企業の社員にとっては胸を打つ場面もありました。全体的には今月の課題書「聖域」のシリアスな雰囲気とは違い、コミカルな感じでまたタイプの違う作品なのですが、根底に流れる世界観のようなものは「聖域」と同じだと感じました。こちらの作品も超お薦めです。

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